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魔王の弾丸  作者: ぷりんせすこうたろう
第一章 出会いの書
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六話 虚実

朝日が昇りきった頃。

クリントとヤンの攻防はまだ続いていた。


ナイフの切っ先がヤンを狙い、鋭く一閃したと思いきや

ヤンはまるで風のようにそれをかわし、次の瞬間には一歩も退かずに間合いを詰めた


クリントはナイフによる攻撃に加えて所々で格闘戦も試みていた。

中々この世界では早々お目にかからない体術同士のせめぎ合いである。


ナイフ一辺倒から格闘戦が混じってから好戦的なヤンの自信に満ちた表情が消えた。

ヤンはナイフを持つクリントに対して絶対に距離を離さず

ナイフを振る隙を与えず絶え間なくクリントに攻撃を繰り出し続ける。


カンッ!


クリントのナイフはヤンの鋭い蹴りによって弾き飛ばされ

地面に突き刺さった。瞬間、クリントは距離を取るべく後方へ跳ぶ。

同時に片手を突き出し、ショットガンの召喚を試みたが

その動きはヤンの目を逃さなかった。


「甘いわ!」ヤンは低くうなり、右拳にマナを集中させた。

轟音とともにヤンの拳が迫り、召喚途中のショットガンを粉々に霧散させる。

その余波にクリントの体が揺らぐも、彼は即座に体勢を立て直した。

更にそのまま連撃を決めよう拳にマナを集中させたヤンの様子を見てロレーヌは叫んだ。


「そこまで! 勝負ありだわ」


ヤンの左拳には殺意という名の膨大なマナが込められた拳が握りしめられていた。

それでもクリントは諦めずにヤンの攻撃を受け止めようとガードを固めていたが

それを喰らえばクリントは絶命するのは傍から見ても明らかであった。


ヤンは拳のマナを抑え、構えを解くとつまらなそうな表情をした。

一方のクリントは殺されかかったにもかかわらず、服についたホコリを払って

やれやれという表情を浮かべている。


ヤンはそんなクリフトを見て言った。

「弓兵風情が私の拳に対して拳で対抗してきたのは些か驚いたぞ。

 まぁ、些かではあったがな……惜しいことだ」

「だから言っただろ、あんたと俺とでは格も違うし相手にはならないと」


そんなことをくたびれた表情をしながらクリントは言ったが

「何を言うか、ほとんどの対戦者はワシの一打で絶命する。

 あれほど拳を躱しておいてまだ不満なのか?」

とヤンは自信に満ちた顔で言う。

「それはあんたが手を抜いて、全力で殴ってこなかったからだろう」

「久しぶりに命を取られるかもしれん戦いができた。

 加えて拳での殴り合いができる男が相手だった。

 ただの魔力で叩きつけるだけの試合にするには惜しいと思っただけじゃ」


クリントは呆れた表情をしていたが

ヤンは実に充実した瞬間を過ごしたと言った様相であった。

そんなヤンにロレーヌは待っていたのように話しかけた。


「ヤン先生、命を取られるかも知れないとおっしゃってましたが

 傍目からは一方期な展開に見えましたが、どういうことですか?」


近くによってきたロレーヌに対してヤンは気分がいいのか解説を始めた。


「簡単な話じゃよ、この男の無数の鉄の玉が散った攻撃で

 もしワシが一発でも食らっていれば、命を落としていたかもしれん」


そんなことをいうヤンに対してクリントは苦々しい顔をしつつも答える


「あんたならマナの全面展開して集中した拳を振るうだけで弾を止めることも出来ただろう?」


その言葉にニヤリと厳しい顔が歪みつつもまだまだ楽しげに答えるヤン。


「出来んことはない、だがそれをすると流石にマナの消費が激しすぎる。

 お主のそのよくわからない武器がその攻撃を何度行えるかもわからない。

 受け止めるよりは躱せるものは躱すのが正しい、ただそれだけのことだ。

 もちろん魔力によるガードを放棄しているから被弾すれば最悪の場合死ぬ。

 そういう事だ」


そして楽しげな表情なのはロレーヌも同様であった。

唇に人差し指を当てつつロレーヌは問う。


「そもそも先生はなぜクリントと決闘する事になったのかしら?」


そういうとヤンはクリントを睨みつけていった。

「ワシが気分悪く酒を飲んでいたら辛気臭いやつが酒場におったから

 イライラして文句を言ったら言い合いになったからじゃ」


その言葉にロレーヌはとても嬉しそうな表情を浮かべる。


「あらクリント、貴方でも言い合いすることがあるのね、勉強になったわ」


クリントは相変わらず「だるい連中だ」と言わんばかりに苦々しい顔を浮かべつつ

大木に背を預けていた。


「このジジイの酒癖が悪すぎるだけだ。なにか言えば二言目には表にでろ

 俺と勝負しろ、だぞ。何を言っても聞きやしない」

「だったら戦ってあげればいいじゃない、貴方だって男なんだし、強いんだから」


そんなイヤそうなクリントに対して両腕を腰にあててあっけらかんとロレーヌは言った。


「『拳士』と名高い男に食って掛かるほど馬鹿じゃないし

 そんな非効率的なことをする気はない」


正に考え方の違いとはこのことだろうか。

クリントとヤンの戦いに対する考え方の違いは明白である。

しかしそんな事は気にしないと言わんばかりにロレーヌは言う。


「まぁとにかく次の交易先は魔王城が遠目で見えるぐらいの距離にある街だから

 先生のようにお強い方がご同行いただけるのはとても助かりますわぁ」


ロレーヌは嬉しそうにヤンの近くにすり寄るがヤンは怪訝そうな顔をする。


「何を言っとるんだ、お主の護衛は死んでない。そのまま護衛をさせればいいだろう」


するとロレーヌはヤンの顔にぶつかるほど近づいてまっすぐ目を見て言う。

「死ななかった方を護衛にするという約束です。

 先生も死んでませんから問題ないでしょう?」

ロレーヌはにっこりと笑った。その笑顔には、どこか底知れぬ自信が漂っている。

ヤンは少し眉をひそめたが、「いや話の流れでそういっただけで……」とつぶやく。


「そもそも先生はなぜこのような危険な地まで?」


そういうとヤンは少しだけ頭をボリボリかきながら戸惑いながらも答え始めた。


「ワシの事を役立たずと言い放った魔王討伐軍の連中はさぞかし強いんだろうなと……。

 あやつらと試合したくてな、旅に出たものの

 そもそも奴らがどこにいるかわからないのでな、適当に探し回ってたわけだ」

「そんな探し方で見つかるとおもってるのか……」


水筒にはいった蓋を開けて水を飲みながら愚痴をこぼすようにいうクリント。

それを聞いて睨みつけるヤンに対して再び視界を遮るようにロレーヌはヤンの顔の前に

回り込んで発言を続けた。


「それなら先生、私はこの周辺、特に魔王城に近いあたりでの交易を

 生業としております、ご同行いただければ私は商人ですし

 様々な街を巡回しますから、先生の目的とも合致すると思いますよ。

 もちろん護衛に対する対価もお支払いいたします」


対価、という言葉を聞いてヤンは顔色を変えた。

咄嗟にズボンから恐らく貨幣をいれている袋らしきものをとりだしたが

中身を見るまでもなくほとんど持ってないのは明らかだった。


「先生、お手伝いいただければ少なくとも食べ物に困ることはありませんし

 我々は馬車を使っておりますから、各地の移動も困ることはありませんわ

 どうかここは手伝いだと思ってお受けいただけると助かります」


恭しく懐柔を試みるロレーヌの姿をみてクリントはやれやれと言った表情を浮かべた。


ヤンはロレーヌの提案を聞きながら、しばし無言で腕を組んだ。

「……ふむ」と小さく息を吐く。

「仕方あるまいな」とヤンは低く呟き、ロレーヌに向き直った。

「ただし条件がある。奴らが見つかった時点で

 ワシは抜けさせてもらうぞ。それでよいか?」

「ええ、それで構いませんわ、ありがとうございます!」


喜ぶロレーヌをよそにヤンはふとクリントの方をみて言う。

「しかし、既に護衛は奴がおるでしょう、二人も雇って平気なのかね?」

ヤンは右手で金を示すハンドサインをしたが

ロレーヌは「心配には及びません」という顔つきである。


「護衛が増えれば、行ける場所も広がりますわ」


そんな様子のロレーヌをみてヤンは言う。


「なぜそんなにあえて危険な場所を選ぶ?」

「それはそのほうが儲かるからですわ」


当然と言わんばかりのロレーヌに対してヤンは鋭い視線を向けた。


「それはおかしい、これ以上危険な地域はたしかに相応しい対価を

 要求するべき仕事であるのは事実だが、一方でこれらの地域では

 それらを支払うだけの能力があるかと言われれば疑問だ」


かなり厳しい口調でヤンはロレーヌに責め立てるかのように言う。

ロレーヌの表情はあくまでもにこやかだが心なしか作り笑いにも見えるような硬さがあった。


「先生のご指摘は最もですわ。しかしなにも私の仕事にお金を支払うものは

 こちらの危険な地域の方々だけではありませんわ。

 こうした地域を支援したい方々も……」


しかし発言を続けるほどにヤンの視線は厳しくなるばかりである。

厳しい視線にロレーヌは口を止めてしまい、どうしたらいいかと迷うような仕草を見せる。


ヤンは言う。


「私のように無駄に多くの人間を長く見て来ると、その人間の仕草や雰囲気から

 なんとなくではあるが本心で言っているのか、裏があるのか。

 そういったものが漠然とわかるようになる。

 そなたの言うことは確かに一見本心で言ってるように聞こえるが

 実際は違うのではないか?」


そんなヤンに対してあくまでもロレーヌの表情は崩れなかった。


「そんなに私の本音が気になりますか?」

というロレーヌの表情はあくまでもにこやかだが目線が鋭かった。

しかしヤンもそれに対して折れなかった。


「生憎とこういう生業をしてる以上、自分の感性を大事にしておる

 お主もそうだろ、クリントよ」


そういうとクリントは腕組みをして顔を背けつつも「まぁな」と答えた。




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