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魔王の弾丸  作者: ぷりんせすこうたろう
第一章 出会いの書
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四話 夕陽のガンマン

酒を飲み進めるクリントはあまり一気には飲まず、緩やかに一口ずつ飲んでいた。

そんな様子を楽しげに眺めるガラベイヤ姿の女性は

ワインを飲み進める手を止めてまで彼が飲む姿をじっくりと観察していた。


「どう? 昔を思い出してるのかしら?」


するとクリントはロレーヌの目を見て言った。


「それが聞きたいことなら答えてやる」


そういうクリントの眼はまだしっかりとしていた。

ロレーヌもまたクリントの目線を合わせたままずっと顔を見つめていた。


ゴブレットに残ったワインを緩やかに回しながらロレーヌは

クリントの様子をつぶさに観察していた。


「いいわ、やめとく。私は貴方の不興を買うことはしたくないわ」


するとクリントはロレーヌから目線を再びそらし

バーカウンターに向き直すと黙ってジョッキのビールを口にした。


「かわりに本来聞きたかったことを聞くわ」


クリントのことを眺めたままの彼女がそう言うと再び彼はジョッキを

カウンターに置いて黙って答えた。


「何を聞きたい」


ロレーヌはゆっくりとワインを口にしたあとに言った。

「貴方の能力と……貴方が何故嫌われてるかもかな?」


再びジョッキを口にしたあとクリントは言った。


「そんなことでいいなら教えてやる、どっちも同じことを聞いてるに等しいしな」


だいぶ酒が入ってきたせいか、彼は饒舌になりつつあった。

そんな彼をみてますますロレーヌは楽しげな表情を浮かべるのである。


「貴方のあの鉄の塊から何かを射出する武器はなんなのかしら?

 私も様々な国を股にかけてきた自負があるけどあのようなものは見たことがないわ」


クリントはフッっと軽く笑うと相変わらずカウンターに眼を落としたまま答えた。


「一言で説明するのは難しいが端的に言うと『銃』というものだ。

 ギミックは以前説明した通り、金属製の弾のケツに火薬を乗せて

 それを叩くことで炸裂させて発射する武器だよ」


優雅な表情を浮かべていたロレーヌが初めて困惑する表情を浮かべていた。

それをみてクリントは再びニヤッとした笑みを浮かべた。


「あんたでもそんな顔をするんだな」

「誰でも同じ顔をすると思うわよ……聞いたこともないわ」


その様子がさぞ嬉しかったのかクリントは一気にジョッキの残りを飲み干すと

ジョッキをマスターに突き出しておかわりを催促する。

そんな二人の様子に気圧されてかマスターは黙って追加のビールをジョッキに注ぐ。


「難しく考える必要なんて無い、ただの弓矢の延長線上にあるものだ。

 つまり魔法の劣化品だ。一々弾なんて飛ばしてないで巨大な火球でも生成して

 ぶち込んだほうが火力も高いし簡単だ。それが俺が嫌われてる理由でもある」


クリントは語るほどに飲むペースが上がっていた。

そんな饒舌に語るクリント。


「魔法に劣るだけで嫌われはしないじゃないかしら?」


とロレーヌは逆にワインを飲み進める手が止まり

彼の話に聞き入っているようである。

しかし彼の口は油断をするとすぐ喋るのを止めてしまう。


「実際貴方は今日見てもとても優秀だったわよ。

 貴方には冒険者としての基礎や総合力がある。

 ここらへんの冒険者は優秀な人も多いけど戦闘能力に依存しすぎていて

 索敵や警戒が不十分な人物は多いわ」


「それはそうだろう、優秀なやつは今は特に皇帝陛下自らの招聘に応じて

 魔王討伐軍に参加しているだろうからな」


ここ数百年、魔王に対して人間勢力はほぼ無抵抗な状態が続いていた。

それも100年前に急遽魔王がこれ以上の抵抗がなければ侵攻はしない

との宣言がなされて以来、人類は魔王軍への抵抗を完全に諦めきっていた。


しかし荒廃し、領土を大きく失った人間勢力は多くの人間を養いきれなくなり

当然生活は困窮していた。多くのものが飢えに苦しみ、そして魔物に襲われ死んでいく。

そのための最後の反抗軍とも言える皇帝陛下の勅命で有力な人材の多くは

かき集めるかのように皇帝によって集められていたのである。


当然、この村も魔王城の近くということで、「人類」からは見放された土地である。

しかし、魔物にいつ襲われ殺されるかもわからない事を許容することで

土地から離れない人々が今ここにいる人達ということになる。


そのおかげでロレーヌのような危険を顧みない交易商の存在は非常に重要であった。

当然先月までは元気に交易をしていた人間が今月以降二度と見かけることがなくなる。

そんな事が当たり前に起こる地域であった。


ロレーヌは再びワインを一口飲んだあとに言う。

「正直貴方は戦闘力を差し引いても王の招聘を受けてもおかしくない人材だと

 私は思うけどどうなのかしら?」


するとクリントはケタケタと大笑いをし始めた。

ほとんどみせることがないクリントの内面の発露は

酒場の住人たちを戦慄させた。


「受けられるわけがないだろう、殺戮者だぞ俺は!」


そういうとクリントはビールを一気に飲み干し立ち上がった。

流石のロレーヌも驚いた表情をして固まっていた。

そんなロレーヌの顔を見てシラケた表情をしたクリントは言った。


「寝床を探すのも面倒なんでね、馬車の警備も兼ねてそこで寝かせてもらう。

 それじゃあまた明日な」


そういうと彼は顔を真っ赤にしていたが、それでも乱れぬ足並みで店を出ていった。

ロレーヌは余っていた一口分のワインを軽く口に含みゆっくりと飲み込むと

マスターの方を見ていった。


「どういう意味なのかしらね? あなた達は知ってそうだけど」


マスターは彼が置いていったジョッキを洗いながら答えた。


「どうもこうもあいつが言うとおりだよ。

 あいつほど人を殺して生きてきた人間はそう拝めないと思うぜ」


「いまいち話が見えないわね……」


そういいながら彼女はゴブレットにおかわりを要求する。

グラスに再びワインを継ぎながらマスターゆっくりは答えた。


「ある意味優秀過ぎたんだ。最初は野盗狩りとか犯罪者狩りで名前を上げていったんだが

 そのうち名が売れてきてな、戦争に駆り出されるようになったんだよ。

 あいつは仕事先を選ばないので有名でな。

 普通は大体どちらかの勢力に一方的につくことが多いが

 あいつの基準はちょっと普通と違ってよく解らなくてな……。

 だから昨日味方だったのに今日になったら敵だったみたいなことが頻発した。

 そのうちあいつは仲間内から人の心がないってな」


「ふぅん」と一言いいつつ、ワインを口に運ぶロレーヌ。

あくまでも敵意は無い、といったほほ笑みを浮かべつつ彼女は話す。


「誰も……彼の言い分は聞かなかったのかしら?」


そんな言葉に磨いていたジョッキを棚に戻しつつ、ため息を吐いてマスターは答えた。


「さあね……少なくともあいつと俺達は仲がいいわけじゃないし

 あいつの悪評はあいつがここらへんに来る前から結構有名だったんだよ。

 ここらへんは魔物にいつ食い殺されてもおかしくない地域だろ?

 そんな場所でそんな曰く付きの人間は好まれないって話だよ」


ロレーヌはワインを飲み干すとグラスをカウンターに置いて言った。


「ありがとう、参考になったわ。あなた達も知ってると思うけど

 彼、自分から何にも言わないから少し困ってたのよね」

「本当にかぁ? 俺にはお前さん、随分と楽しそうに見えたけどな」


やれやれと言った表情のマスターに対してロレーヌは相変わらず

ニコニコした表情で答えた。


「困ることと楽しいことが同居することもあるのよ」

「本当にあんたは変わった女だよ、まぁおかげでこっちは助かってるし

 文句をいう気はないけどな。まぁそんなことだからあいつには気をつけな」


ロレーヌはカウンターの席から降りると

隅の席に座ってる男たちに手を降ると、男たちは酒で赤らんだ顔をして

手を振って応じていた。


マスターが声をかけた。

「今日も宿の予約は取ってないのかい?」

「ええ。一応馬車の中に寝るための物は用意してあるし

 交易品を盗まれたりしたら困るからね。

 明日の朝、食料品は店の中に搬入するわ」

「ああ、助かるよ。よろしく頼む」


そういいロレーヌは酒場を去っていった。



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