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魔王の弾丸  作者: eXi
第二章 冒険の書 三部 専守防衛
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六話 因縁

翌日のサガルマルドはラウの無双から始まった。






士気などあってないに等しい。

開幕、帝国軍が攻め入ったのをラウが完膚なきまでに蹴散らしてしまい

帝国軍の士気は著しく低下、まだ昼を迎える前にも関わらず

帝国軍の攻めは止まってしまい、膠着状態になってしまった。


アンドレの作戦もある程度ラウが帝国軍と戦いにならないと

はじめようがない。


基本的に防戦であるサガルマルド側の兵力が前に出てくることはない。

街であり、砦ではないため、城攻めとは違う……というのが

最初の帝国側の見解であったように思う。


それでも帝国軍はサガルマルド攻めに定石通り

相手の兵力の十倍を用意していたのはサガルマルドを支持する

優秀な冒険者たちを評価してのことだろう。


しかし実際には急ごしらえとはいえ砦並みの防衛と

帝国軍の将軍では突破できない優秀な戦士が立ちはだかり

自体は拮抗するかというのは俺も予測していたのだが……。


「アンドレ、どうする。今日はこのまま見送るか?」

俺はライフルを構えてラウの様子を伺っていたが

アンドレが俺に待機しろと指示した場所はラウが構えてる街の外の広場から

遥か彼方、遠くの森林地帯の中である。


正直この位置からではラウはスコープ越しでも目視すら出来ない。


俺としては狙撃は近づくほどリスクが上がるため

遠い分には俺自身が安全ではあるが

当然遠ければそもそも狙いがつけられない。


それをラウは森林手前まで惹きつけるというのが彼の作戦だったのだが

これではそもそも作戦が破綻している。


しかし俺も大きく動揺はしておらず

アンドレに至ってはニヤニヤとした顔をして様子を見ていた。

「まぁまだ太陽がのぼりきってもいない。まだ今は待機だ」


そういい、アンドレはヒゲを撫でるようにして眺めている。


だが俺は知っている。

アンドレが一度だけヒゲを撫でるときは暇だったり

手持ち無沙汰だったり、大した理由ではないが

アンドレはしきりにヒゲを撫でている。


こういうときの彼は内心では焦りを感じていて

心を落ち着かせようとしているときに取る行動であることを

長年の付き合いで理解していた。


まぁ苛立つのもわからないでもない。

あまりに一方的すぎて士気が下がっているのはわかるが

流石に攻め手が止まるのはいかがなものか……。




結局膠着状態は昼まで続いていた。


俺はアンドレについてこいといわた。

前線の将軍に意見を言うという。




森を出て前線へ赴いてみればちょうど兵士たちに怒鳴り散らす

帝国軍の将軍に対してアンドレは立ち向かった。

俺はアンドレに引き連れられ二人で帝国軍の将軍に話に行くことになった。


「……傭兵風情がなんの用だ?」

「フハハハハハハッ!」


すると突然アンドレは顔を天に向けるほどの大笑いをし始めた。

彼の交渉術でもあり、悪い癖でもある。


「き、貴様! いきなりなにか意見があるからと態々会ってやったのに

 何だその態度は!」

「いやいや、これは失礼。将軍殿を笑ったわけではないのです」


始まった……手八丁口八丁のアンドレの交渉である。

正直交渉がうまいかと言われれば賛否あると思うが

アンドレの交渉はうまくハマるときはビシャっとハマるので

俺は黙ってその交渉を見届ける。


「ただ、些か将軍殿には相応しくない、勇敢さにかける兵士が多いことが

 残念至極であり、つい笑ってしまったのです」

「き、貴様、結局皇帝陛下の兵を笑うのか?!」


その声は先程の怒気だけではなく、些か驚嘆の混ざる声色に変わる。


「相手は猛獣ラウ、如何に皇帝陛下の兵とはいえ怖気づくのは致し方ない。

 将軍はそうおっしゃりたいのですか?」


そうアンドレは言うと将軍は一瞬黙ってしまったが

顔を真赤にして反論してきた。


「だ、黙れ! そこまでいうならそなたたちが最前線にいくがいい!」

「もとよりそのお言葉をお待ちしておりました」

「そうだろ、お前たちもそれは厳しい……え?」


ニヤニヤしていたアンドレの表情は引き締まっていた。

しかしこの状況、おそらく将軍も困っていたのだろう。

これ幸いにとばかりに上機嫌になり言う。


「なるほど、そういうことなら早くそういえばいいものを!

 よし、先人はお主たちの傭兵部隊に任せるぞ!

 ……当然だが逃げ出すなよ」

「確かに。承りました」


それだけいうとアンドレはヒゲを撫でつつ引き下がっていった。

俺もそれに付き添い下がっていく。


「……いいのか? あいつら体の良い捨て駒が出来たとぐらいにしか思ってないぞ」


俺にはアンドレが必要以上に焦っているように感じた。

俺の計画を着実に遂行するためにもアンドレには冷静でいてもらいたい。

そういう思いもあり、言葉で諭すがアンドレは言う。


「もし、今日帝国軍がここの攻めに失敗したらもうおそらく

 この戦場は二度と先端は切り開かれない。

 部下に情報を集めさせたが皇帝陛下は初日の戦況を聞いて

 既に半分諦めムードらしい、つまり増援は期待できない。

 やるなら今日しかない」


一体いつからだろうか、帝国がここまで負け癖がついてしまったのは。

俺がみている限り、帝国が戦争で強く出たところを見たことがない。

何ならサガルマルドを攻めるという話もにわかに信じがたいほどだった。


今になって考えてみるとサガルマルド攻めというのも貧困層へのガス抜きのための

体の良い言い訳だったのかも知れない。


豊かな街を税も納めさせずに自由にさせているのは体裁が悪い。

しかしそれを示すためには国の威光を捨てても致し方なしと映るような

俺からすれば愚かしさすら感じる姿である。


いずれにしてもアンドレにとってはここが正念場であり

この一見無理筋な展開をなんとしても通したいという思いがあるらしい。


するとアンドレは俺の考えてることをわかっているのかいないのか。

頭をワシャワシャと撫でると不敵な笑みを浮かべて言う。


「まぁ俺に任せておけ、お前は予定通りの場所で構えておけばいい」

「じゃあ最前線には……」

「当然俺が出る、奴を引き付ける策なら無いこともない。

 まぁ……因縁の相手だからな」


アンドレの心中は一体何を思っているのか。

彼が言葉を発するたびに俺はそんな事を考えていたが

アンドレは部下の手前もあるのか、自信満々の顔つきを崩すことはなかった。


こうして昼を過ぎ、時計が存在すれば時刻にして二時頃だろうか。

俺は予定の定位置に再び戻り、アンドレは敵を引き付けを行うべく

最前線へと赴いていった。


俺の構えている位置はかなりの距離があるため

共にいるのはジロと二人だけであった。


思えばジロが俺の隣にいるのは珍しい。

殆どの場合、アンドレと行動を共にし

アンドレの武勇の半分を支えてきた男である。


俺は俺の中の計画が常に頭によぎっていた。

それには明らかにジロは大きな障害である。


昨日のアンドレは明らかに己の運命に覚悟を決めた様子であったが

それでもジロを俺の隣に配置したのは何の意味があるのか。

ただでは死なないという俺への意思表示なのか。

はたまた別の意味があるのだろうか。


ただ俺の意思とは別にジロは珍しく苛立ちを隠さずに表情に出していた。

ジロは寡黙だが表情に感情がよく出る男であり

今日のジロは明らかに機嫌が悪い。


元よりこの男は俺のことを少し苦手にしているようであり

加えていつも一緒にいるはずのアンドレと共にいられないことが

不服なのだろう。


「今日の作戦、お前はアンドレからなにか聞いているのか?」


珍しくジロから俺に尋ねてきた。

俺は言った。


「何故俺に聞く、アンドレとはアンタのほうが付きあいは長いだろう」


するとジロは不愉快そうな顔をして俺に言う。


「お前、昨日アンドレのテントに入っていったろう。

 何を話してたんだ」


面倒な男だ。俺はそう思った。

日頃あまり話をしないのだが余計なことを聞いてくる。


「アンドレからアンタも話は聞いてるだろ。

 だからこそここにいると俺は認識してるんだが?」


「チッ」


ジロは舌打ちをするとそれ以上何もいわなかったが

今にも不満を爆発させたいと言わんばかりの表情を浮かべていた。


通常の作戦であれば気まずい空気が漂うのを

俺は嫌っていただろうが、今回の作戦は特別である。

俺は緊張感を維持してスコープを覗き続けたのである。




事態が動いたのはそこから二時間程度経ってからだろうか。

日が陰り始める夕日の眩しい時間帯になって

まるで逃げるかのように大勢の兵がこの森林地帯に入り込んできたのである。

その殆どは帝国兵であり、アンドレ率いる我が傭兵団の姿はまだない。


俺はスコープを開くとごく僅かにではあるが全力で引き下がってくる

アンドレがまたがる馬の姿を捉えることが出来た。

同様にどういうトリックを使ったのかは知らないがラウはアンドレに

引き寄せられるようにアンドレにまっすぐと突撃していたのである。


そのラウの攻撃を防ぐために団員が盾になろうとしているのだが

まるで逃げ回る兵士を鬼の金棒を振り回すかのようにツーハンドソードを

なんと場上で振り回して我々傭兵団を薙ぎ払って吹き飛ばしていた。


近接戦はあまりに不利だとその時点で理解した俺は

自然と銃を握る手に力がこもる。


流石に現代人たちより遥かに目がいいジロでも

ラウの様子は見えずとも周りの騒ぎに事態が動いたことは理解したようだ。


「アンドレは! 無事なのか!?」

「ラウとかいう恐ろしいバケモンに対して辛うじて剣でしのぎながらだが

 なんとか引き付けに成功している……だが執拗なまでにアンドレに

 食いついて離れようとしないせいでうちの団員は相当やられてるな」

「畜生!」


そういうとジロはがっと立ち上がろうとして、その場で耐え忍んだ。

ここで自分が行けばアンドレの作戦が無になるかも知れない。

賢い男ではないが、アンドレの男気が理解できないほど浅はかな男でもなかった。


「クリント、まだなのか?! アンドレがやられちまう前にはやく!」

「そうは言ってもまだ射程圏外だ! もう少しだけ引き付ける必要がある」


俺達二人は黙ってアンドレの奮闘を見守ることしか出来なかった。

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