四話 サガルマルド攻防戦
気がつけば俺は二十ぐらいになっていただろうか。
この世に生を受けた実感がない俺にとってこの世界における
実年齢はほぼ見た目で決まるといった所か。
多分成長が数年前から止まった為、このあたりなのだろう。
あれから俺はどうしたかといえば、アンドレ率いる
自称、傭兵団として行動を共にした。
強盗、殺人、そんな事を繰り返すこいつらを自由にしておくのは
明らかに被害が無駄に拡大するだけであった。
しかしアンドレは見るからに俺を手放す気がないようであり
俺が立ち去るといえばアンドレは俺を殺すだろう。
仕方なく俺は次善策としてこの傭兵団の参謀として
より「効率的」に強盗を行うことで被害を最小限にとどめた。
俺が考え、その考えを元に必要最低限だけを「殺した」
その俺の立ち振舞は大いにアンドレを喜ばせた。
「お前は期待通り、ロビンの後釜として、いやそれ以上の存在だ」と。
こうして俺はどうしてロビンがこの傭兵団で活動していたのかの
意味を「理解」した。
彼もこれが最適解であると「理解」したのだろうと。
俺の心は鉄のように錆びついていた。
もはや人に銃を向けること、引き金を引くことに躊躇うことを忘れていた。
殺した人間の数はもう覚えていないが
ロビンさんの死に顔だけは辛うじて覚えている。
アンドレ率いる傭兵団は俺の活躍もあり、気がつけば三十人以上いる
それなりに本格的な傭兵団となりつつあった。
残念ながらその中で人員も入れ替わりつつあった。
ジロは勇猛果敢だが突出しすぎる傾向があり、怪我が絶えなかったが
最古参として今や我が傭兵団の中核となっていた。
そして残念ながら残りの数字組は命を落とした。
まぁ致し方がない。
別に彼らが特別弱かったわけではない。
周りが強く、俺やアンドレ、ジロ。三人とも特別強いわけではなかったのだ。
そんな俺達傭兵団にでかい仕事が入り込んできた。
このときの戦いは大規模だったこともあり、未だに忘れられない戦いだった。
「サガルマルドを攻める」
アンドレが放った言葉に周囲は一瞬静まり返った。
そして一気にざわつく団員たち。
俺は言った。
「正気か? あの大々的な謳い文句に乗るということみたいだが……」
魔王城に最も近くにある大きな街であり、魔王城直近では最も大きな街だ。
永世中立国のような立場を取るその街は活気に溢れ
あえてそれを乱そうとするものはいなかったが
これに一石を投じようとする者がいた。
それが人類の生活圏のおおよ8割を統治する皇帝ルイが
中立を気取って支配下にはいらないサガルマルドに対して
統治下に入るように命令を出したがそれを拒否したらしい。
「攻めると言ってもあの街はほぼ軍隊並みの兵力も有しているだろう」
食事中のアンドレは持っていたフォークを上下に振りながら言う。
「勝ち負けはどうでもいい、破格の報酬が用意されている。
おそらく最終的に勝たなくても、局所的に大きな戦果を上げれば
俺達はウハウハってわけだ」
なるほど、当然戦いは瞬時に決まるわけではない。
ましてサガルマルドとなれば優れた戦士や魔法使いが多数。
おそらくフリーランスで生活しているもののほとんどが
サガルマルド側につくこともなんとなく想像ができる。
俺は思った事を口にした。
「サガルマルド側にはつかないのか?」
おそらくだがサガルマルド側のほうが兵員は少ないだろうが
質の高さが極めて高いことが想定される。
同じ戦果をあげたとして、支払われる報酬も同様だと考えられた。
「理由は二つある」
肉をほうばるアンドレは獰猛な顔つきをしながら言う。
「一つは勝ち馬に乗ったんじゃ所詮儲けが少ない。
もう一つは、だ」
アンドレは肉にフォークと真上から突き立てると
肉はぷしゅっと音を立てる。
「サガルマルド側にいる連中らが気に食わねぇ」
気に食わない。か……。
サガルマルドは貿易が活発であり、当然どこにも属していない都市であるため
関税が掛からないという変わった方針を取っていたが
それが功を奏してこの都市は発展していた。
転生前の知識を持つ俺にとってはある意味
税はかけないほど発達するというのは至極当たり前の話ではあるのだが
この世界においては画期的な取り組みとして着目を浴びていたのだ。
つまり平たく言えば帝国側は領地とすることで関税をかけて
サガルマルド地域における収益を自分たちのものにしたいのだろう。
その自由奔放さから一部の人間はサガルマルドに対して
いい印象を持ってない人物がいるというのは理解していたが
正直アンドレがそういうタイプにはあまり思えなかったので少し意外だった。
それが表情に出ていたのだろうか、アンドレは言う。
「俺はな、あの都市の生まれなんだよ」
むしゃむしゃと肉をほうばりながら語るアンドレ。
その表情には不機嫌そうな顔が浮かんでいた。
「あの街はさも華やかに映るかもしれねえが
『ちゃんと』魔王城周辺らしく、過酷な街だ。
富裕層の数こそ多いが、貧民層はしっかりと厳しい街だ」
俺は黙って聞いていた。
アンドレという男は感情で所属する相手を変えるタイプだったか?
と考えていると彼はニヤリとしていった。
「等といったがそんな事は関係ない。
むしろ奴らは優秀なやつを高く評価する傾向にある。
最初に帝国側についておいて、活躍と報酬次第では寝返るって
手もあるっていうことだ。いずれにしろ参加しない手はない」
この強かさこそアンドレといった感じだが
しかし一方で彼が語ったサガルマルドの街の闇は
彼の判断になにか影響を与えてるのではないかと感じずにはいられなかった。
一方の俺はといえば、このアンドレという男を殺したくて仕方がなかった。
アンドレを殺せば世の中で死ぬ人間が減るのは事実だ。
しかしそれ以上に俺は殺しに加担し続けるのが嫌になっていたのだ。
嫌になっていた?
嫌になっていたのは初めからだ。
殺した人間に敬意を払わずに言うなら俺は殺すことに「飽きてきていた」のだ。
そのぐらいもう人を殺したくないと思っていた。
しかし一方でこの世界でこの稼業を選んだ以上
きっと俺はこれからも人を殺さないといけないのだろう。
だが俺はどうせ人を殺すなら相手は自分で決めたい。
人から言われて人を殺すことは筆舌に尽くし難い。
それでも俺の精神は前世での記憶が「心が折れる」ことを拒否していた。
俺の心が崩壊するときは体が死ぬ時だ。
幼かった頃こそ体格や立場の都合があったが
今やアンドレの腹心は俺とジロの二人のみであり
新規の団員たちとの関係性はもちろんアンドレの影響力はでかいものの
俺との関係性も良好であり、一方的に全員に取り囲まれて殺されることもないだろう。
俺はこれを機にアンドレをどうやって
始末するかということが頭によぎるようになった。
まぁいい、アンドレが起こすこの大きな行動を俺は注意深く観察することにした。
こうして俺達はアンドレの予定通り、帝国軍の傭兵として配属され
サガルマルドの街を襲撃することとなったのだが……。
襲撃前日、サガルマルドの街の門の前に行った時
俺達の前には木製とはいえ、たくさんの櫓と柵が
街全体を覆うように配置されていることに驚嘆することになる。
帝国側からの宣戦布告から一週間である。
たった一週間でここまで出来るのはもはや人間の業ではない。
「サガルマルドには優れた魔法使いが多数いると言われているが
これはたまげたな……敵さんながら見事なものだ」
などとアンドレは軽口を叩いていたものの
その表情は苦虫を潰したかのように渋いものであった。
石造りの城のような作りであれば更に厄介なものであった事を思えば
まだマシとも言えるのだが、こちらもこちらで攻城戦用の兵器などは
ほとんど用意してきておらず、平原での戦いになると想定していたことから
帝国軍側の兵士たちは傭兵はもちろん、正規兵たちも呆然としてしまっていた。
どんなトリックを使ったかはわからないが敵側には
陣地形成におけるプロフェッショナルがいることは確かだ。
そしてその街を突破する最終防衛ラインに鎮座する
一人の見るからに人間とは思えないガタイの
全身金属鎧に覆われた大男の姿はこちらの指揮を更に大きく下げた。
猛獣ラウ。
その戦い方から名付けられた渾名であり
その背中に背負われているツーハンドソードは
かつての戦いで金属鎧を装備した男を真っ二つにしたと言われるほどの
剛腕で知られている男だ。
などとこちらが戦々恐々とし、士気がガタ落ちしていることを
読んでいたかのようにラウはこちらが攻める体制を整える前に
わずか百程度の騎馬兵を率いて全く迎撃体制すら整っていない
帝国兵を軽々と蹂躙していく。
その蹂躙の瞬間、俺はみた。あのラウという男に剣で吹き飛ばされた
兵士は三メートル近く宙を舞って吹き飛ばされた。
当たり前だがもう二度と動くことはなかった。
最もこちらの傭兵団はアンドレが予め後方待機を命じていたため
人的損害はなかったが、ラウの恐ろしい攻め立て方に
臆病風にふかされた人間は少なくなかった。
そんな団員たちを叱咤激励するかのようにアンドレは声を上げた。
「いいか! アイツはバケモンだ。油断したら狩られるのは俺達だが……
頭の良いトロールみたいなもんだ、倒せない敵じゃない。
俺に考えがある、お前らは俺についてくればいい」
そのアンドレの過剰ではなく、あえて声は張り上げてるものの
いつものトーンで話すアンドレの話し方に団員たちは平静を取り戻しつつあった。
しかしここからどうやって街を攻略するのか。
アンドレの策略は俺にもまだ読み取れなかった。




