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魔王の弾丸  作者: eXi
第二章 冒険の書 三部 専守防衛
35/39

三話 殺人

「小僧、名前はあるか?」

俺に名前など無い。

しかし俺は右手に握った銃をみてとっさに答えた。

「クリント」

それはガキの頃によくみた映画の主人公がとっさに答えた名前。




そんなふうに答える俺に対してこの男はワシャワシャと乱暴に頭を撫でていった。

「お前、孤児の分際で名前があるのか。まぁどうせ自分でつけたんだろうが。

 名前をつける学があるってだけでもお前の価値は一つ上がったぞ。

 まぁなんて言う意味だかさっぱりわからねぇけどな」


乱暴な手、凶暴な顔つき、危険な匂いしかしない男だったが

彼なりの賛辞だったらしい。


そして手を話すと男は右手を握りしめ、親指を立てて胸に当てると言った。

「アンドレだ、俺も名前は自分でつけた」

そういうと男は豪胆に笑う。


俺はこの男の笑いを好きになれなかった。


仮に自分の好きな絵画……いや漫画だとしよう。

さんざん繰り返し読むほどの漫画の上に

今まさに殺されたであろう、生々しい人間の血がドバドバと

大量に付着していたらその漫画を読むきになるだろうか。

俺はそれを読まないだろう、つまりそういう気分だということだ。


「それから横にいる四人たちだが……コイツラも当然名前がなかった。

 だから俺が適当につけた、ジロ、アン、ドゥ、トワロだ」


ひどい名前だ。

数字を付けただけである。

しかし当人たちはそれを、その名前を呼ばれて自信満々の笑みを浮かべるのである。


食い物どころか名前すら与えられない事があるこの世界で

名前が与えら得れるというのは仮にどんな名前であっても

嬉しかったのだろう、俺はそう推察した。


それと比べるとこの大将の男はまかりなりにも学があるようである。

まぁもっとも全く頭が回らない男が頭領を務めることなど難しい。






結局俺は五人の男たちに、半ば誘拐されるかのように

アンドレのまたがる馬の前に乗せられその日の内に五十キロメートルは移動しただろうか。

夜も更けてきたところで男たちは川辺の近くに小さな家があるのを見つけた。


それをしげしげと見つめてアンドレは言った。

「今夜はあそこにしよう」


俺はその言い回しから嫌なものを感じた。

「何故泊めてもらおう、という言い方をしない?」

そういうとアンドレは言った。

「お前は深く気にしすぎだ、俺はお前ほど言葉が達者じゃねぇだけのことよ」

この男の笑いは相変わらず好きにならないが

このときのまるで愛想笑いしたような笑みが

やはり違和感を感じずにはいられなかった。


「そうだ、クリント、お前あの家に言って話を聞いてこい。

 俺達は人相が『些か』悪くてあまりそういうのは『受け』が悪い」


そう言われたが俺は立ち尽くしていると

「はやくしろ」と捲し立てられ、俺は民家の戸を叩くこととなった。


トントン。


俺は頼むから出ないでくれ。

そう思いつつノックしたが、この家の住人は不運にも善人だったらしい。

少しだけドアを開けて、俺が少年なのを確認すると扉を開いてしまったのだ。


男女二人に赤ん坊が一人。

質素ながらに食べ物もそれなりにあるようだ。

「君のような少年が一体こんなところでどうしたね。

 外は冷えるだろうし、中に……」


ドスッ!


そこまで言った時点で彼の人生は幕を閉じた。

額に突き刺さる矢はジロが構える弩から放たれた一撃だった。


そこからはあっという間だった。

倒れた瞬間、彼の妻と思われる女性は悲鳴を上げるが

馬で残りの五人はここまで駆けつけると何のためらいもなく

彼女に対しても刃をつきたて、そしてその騒動で泣きわめく

赤ん坊に対してむき出しの刃を取り出して近寄るアンドレに対して

俺は咄嗟に銃を取り出してその行く手を阻んだ。


俺は気がつけば叫んでいた。

「お前らは人間じゃない!」


そんな俺の叫び声をどうでもいいと言わんばかりにアンドレは言った。

「どけ、邪魔だ」


だが俺は銃を構えて赤ん坊の前に立ちふさがった。

流石に状況が状況だけにアンドレ達は笑ってはいなかったが

やれやれだぜという表情を浮かべて呆れていた。


俺は叫ぶように言った。

「何がおかしい!」


そう叫ぶ俺に対してアンドレはシラケた様子で答える。

「お前のその行為の無意味さがだよ。

 少しは考えてみろ」


俺の頭の中は珍しくヒートアップしていたが冷静に状況を見ると

この状況が「詰んでいる」ことは簡単に理解できた。


「いいか、クリント。よく聞け、そして二度は言わない。

 このご時世に人様の命を、たかがガキの分際で心配できるお前は

 たいそうご立派な男だよ、俺が認めてやってもいい。

 だがな、その立派な行為に何の意味がある?

 あのロビンですら、俺たちにこのやり方を教えた張本人だぞ」


あのロビンですら。

その言葉は俺の心を激しく動揺させた。

あれだけ親身になって話を聞いてくれていたあのロビンが。


俺は無性に泣き叫びたいような気分になったが

後ろで泣き叫ぶ赤ん坊の声がそれを止めた。


ただ泣いて許されるのは赤ん坊だけの特権なのだ。

そして今、その特権は冒涜されようとしている。


アンドレはボサボサに伸びたヒゲを撫でるように触りつつ話を進める。


「なんだ、知らなかったのか?

 アイツは頭がよく切れるやつだったからな、こういうやり方も

 アイツが率先して俺に教えてくれた物だ。

 お前はロビンが漠然と食い物を稼いできてくれてたとでも思っていたのか?

 そんなわけ無いだろう、この食っていくにも厳しい世界で

 人に食い物を施すことがどれほど困難なことすらイメージできなかったか?

 俺達はアイツが殺してきた人数の分だけ恩恵を受けてきたんだよ」


そこまでいうとアンドレは俺の肩を強く掴んで赤ん坊から無理やり

引き離そうとするのを俺は力なく抵抗しようとしたが


「邪魔だ、どけ」


とだけ言われて雑に力だけで押しのけられた。


その後だった。赤ん坊から鳴き声が消えたのは。





俺はその日その家の壁に突っ伏したまま過ごしたが

男たちはおそらく夫婦たちの用意していたであろう夕食を

食べながら翌日の行動の算段を立てていた。


アンドレは言う。


「そこのクソガキはロビンより頭が硬いが能力は強い。

 だがロビンもそうだったように、

 そのガキも正統派の魔法使い相手では分が悪いだろう。

 本当はもうちょっと小さめな集落でもいいから襲いたいんだがな」


そんなアンドレに助言するかのようにジロというこれまた巨漢の男が言う。


「正直俺達五人でもやろうと思えばやれるんじゃないか?」


残りの三人はその様子を黙って聞きつつ、飲み食いに興じていた。


しかしアンドレはジロという男の言ったことを厳しく律した。


「駄目だ。俺達が今までうまくやってこれたのも

 あのロビンの慎重さがあったからだ。

 そのロビンが慎重さを欠いて、村を襲った結果どうなったかを忘れたか?」


そういうとジロという男は右手で左肩を押さえつつ言った。


「ああ、あの時、相手方にいた弓使いは尋常じゃなかったな。

 俺も右肩を撃たれた傷がまだ疼きやがる」


そんなジロにニヤけながらアンドレは言った。


「ロビンが殿を務めてくれなかったら俺達は今頃全滅していた。

 アイツの遺体を回収できたのはほぼ奇跡みたいなもんだった」


俺はその話を聞いて激怒した。

考える前に体が銃を生成し、アンドレに向けて発砲する一歩手前で

俺は体を壁に激しく叩きつけられ、アンドレの腕一本で体の自由を奪われていた。

地面に落ちた銃は青白く光り、霧散する。


「てめぇ話しを聞いてなかったのか、読解力がないのかどっちだ?」


俺は怒りに駆られたまま答えた。


「お前らがロビンさんを見捨てたんだろ!」


バン!


まるで鉄のトンカチで殴られたかのような衝撃が

アンドレの拳によって俺の左頭部にもたらされ

俺は葉っぱのように崩れ落ちた。


「お前如きがロビンを語るんじゃねぇよ……

 お前はロビンの表面しか知らねえじゃねぇか。

 ふざけやがって……」


俺は起き上がることが出来なかった。

頭にはまるでげんこつサイズのこぶができており

脳を激しく揺さぶられていて思考が回らなかった。


「アンドレ、あまり子ども相手に本気になるなよ」

「すまんな、生意気なガキだったからついちょっとな」

「「「ハハハハハハ!!!」」」


その日、アンドレはベッドで就寝し、残りの者たちは床で雑魚寝した。




翌日、俺がぼんやりと頭の痛みと格闘しつつ目を覚ますと

男たちも起き上がり、作業を始めていた。

アンドレは既に起きており、家にあった食料や金貨などを袋に詰めると

地図を広げてジロと話し合いをしていたのである。




そして俺はまた何故か馬に乗るアンドレの前に乗せられて旅をしている。


俺はいくらでも拒むことは出来たがそれをしなかった。

聞きたいことがあったのだ。


「アンドレ、一つだけ聞いていいか」


全く興味なさげにアンドレは堪えた。


「なんだ」


「アンタやロビンさんがいて、なんでこんな山賊まがいの事をしている。

 もっと真っ当な仕事もあるんじゃないのか?」


「「「ハハハハハ!!!」」」


数字組たちが笑う中、アンドレは答えた。

「山賊まがいのことをしてきた俺達が正規の仕事を貰えると思うか?」


俺は押し黙ることしか出来なかった。


「まぁ強盗ばかりやってるわけでもない、次の街はドンパチやってるみたいだからな

 そこがあたらしい狩り場だ、お前の言う真っ当なお仕事、傭兵って奴だ」


こうして俺はこの世界の本当の戦いの世界に身を投じることとなる。

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