二話 狩り
俺が銃を扱う魔法を覚えたその日に思った事は
現状を改善することであった。
正直、俺が使える魔法は「食い物を生み出す」ほうが良かったと
その時は思ったものだ。
それほどまでに俺達は食料に困窮していた。
結論から言うと俺は孤児院を離れることにした。
何故ならその孤児院の周りには森がない。
俺はこの銃を使えば食べ物を「狩る」事が出来ると考えたが
少なくともこの孤児院の半径20キロメートル圏内には森はおろか
草原がなく、はるか昔に掘った、いつ枯れるかわからない井戸水だけが
生命線というとんでもなく絶望的な環境であったからだ。
俺は恩返しをしたい気持ちもあったが、それをするにしても
ここにいてはそれすら叶わないと判断した。
なお、孤児院には魔法が使えるようになったことは秘匿した。
理由はいくつもあるのだが
ざっくり言えば多くの人は心が弱いということが原因である。
よほど強靭な精神力を持たない限り、人は「環境に心を支配される」のだ。
俺はこの年相応しくない魂でみてきた。
幼い少年たちが石のようにまずいパンを求めて奪い合い、殴り合う様を。
ロビンが俺達のために孤児院に預けてくれた食料は均等には分け与えられず
大人たちが体の維持のためとはいえ必要以上に多くを自分たちの食料とし
子どもたちにはわずかにしか分け与えてなかったことを。
きっと俺が魔法が使えるとわかれば彼らは俺を「利用」するために
色々なことを「善意」と称して言ってくるだろう事は見え透いていた。
故に俺は一人で旅に出た。
そんな俺に選別代わりに唯一もらったものは、ロビンの遺品であるマント一つ。
これただ一つだけが俺の体と心を温めてくれた。
孤児院を出たときに一つ会話したことがある。
「何故もっと動物の取れる森の近くに拠点を構えないのか」と。
大人たちはそれに対して「森は魔物が住んでいて危険すぎて生活できない」
といい、そして「魔物は食べてはならない、奴らを食べると全身に毒が回って死ぬ」と
言い聞かされたが俺は信用しなかった。
まぁ魔物が多くいるのは事実ではあるだろうし
それが原因で辺鄙な場所で生活しているのも事実だろう。
俺は孤児院から百キロメートルは歩いただろうか。
そこは巨大な湖があり、よくみると魚影も確認でき
周囲は森で囲まれた自然豊かな場所であった。
俺に釣りの才能があれば魚を取るのも良かったのだろうが
生憎とそちらの方はからっきしであったし
湖は極端に浅瀬が少なく、素潜りするにしても
些かリスクが有るように感じられた。
そんな事をするまでもない。
俺は野にいるうさぎを見つけると、意識もせずに
手はアサルトライフルを握りしていた。
もし敵であればすぐに構えて銃撃、1秒もかからずに行っていただろう。
しかし、相手はうさぎである。食料を粉微塵にしてしまっては元も子もない。
俺は冷静に銃にある機能として連射機能を単発設定に切り替えた。
これであれば引き金を引いたときに発射される弾は1発である。
結果としてその日は森の枝葉を集めて焚き火を行い
うさぎを捌いて焼いて食べた。
この時気がついたことは、自分は自衛隊にいた時代に
使い慣れていたものであれば魔法で生成できるのだと気がついた。
銃だけではなく、ナイフを作り出すことも難しくはなかった。
ただ問題が一つあった。
銃にしろナイフにしろ、それらのものは生み出されてから一定時間。
しばらくするとまるで幻かのように霧散してしまうのだ。
俺はこの森をしばらく寝床にするべく、ナイフを多用することになるのだが
定期的にナイフを生成し直すのはとても手間であった。
最初のうちは不便だなと思う程度だったが
実践でもし戦闘中に銃が消滅すればそれは致命的な隙になる。
俺は強く念じるようにナイフをイメージすると瞬時には形成されず
強い光の集合体が輝きを放ちつつ、徐々にナイフの形を形成し、そして形となった。
その時である、俺はまるで意識を失うかのような脱力感や疲労感を感じた。
結果から言うとこのナイフもその日、一日は形を維持したが
疲労感から横になり、翌日朝日を浴びて起きた時には気がつけば消滅していた。
俺はここに拠点を構えるために
毎朝、全神経を集中させて形成させたナイフを手に雨水をしのげる
葉っぱと木を切り倒して作った借宿を作った。
残りは拠点での生活用のコップを作ったり、狩りをしたり。
現代風に言えば森の中でのサバイバル生活のようなものだ。
そんな生活をして十日程度たっただろうか。
俺は初めて魔物というものを目にした。
あからさまな異形、しかし人類とそう遠くない造形。
昔、ゲームの中に出てきたゴブリンとかいうやつに相当すると思われる。
人間じゃない相手にためらう必要は無い。
俺は相手を目視し、銃を構え、すぐに射殺した。
なんてことはない、奴はまるで俺が何をしているんだという表情を浮かべた瞬間
そのまま血しぶきをあげて息絶えた。
流石に食べるのは躊躇われたが、いざ食料が調達できない可能性も考慮し
干物肉にして置いてあるが、食べてはいけないと言うより食べれない。
という感覚のほうが強かった。
すべての動物共通ではないが雑食や肉食の動物の肉は
簡単に言うと獣臭いのだ。匂いがきつい。
鳥、豚、牛。これらは皆草食だ。
熊肉などもあるがやはり匂いの処理が大変なので
正直俺はこのゴブリン肉をよほど食うに困らない限り食べない気がする。
幸いここは自然豊かで獲物に困ることもない。
そこからさらに一月ばかりは魔物を事前に察知して始末しつつ
野草や昆虫、うさぎやら、ヘビやら、栄養になるものは何でも取り入れ
そして魔法の鍛錬を行っていた。
肉体のトレーニングは忙しくて手が回らなかったが
このハードな生活に順応してくように自然と筋肉が付いてきた。
そんな俺のところに世にも珍しい、人間の来客が訪れた。
五人ほどの集団で、一人は顔に大きな傷をもつリーダー格の男。
この男は傷も相まって印象的だったため覚えている。
たまにロビンが一緒につれて来ていた人物であった。
まだ幼い俺と彼との身長差は頭二つ分ぐらいはあるだろうか。
いかつい顔と図体で男は言った。
「お前か、ロビンが魔法を使える将来有望そうなガキが
居たって話をしていたガキは」
そうか……ロビンは俺のことを仲間内に話していたようだ。
しかしただの魔法が使えるかもしれないだけの子どもに何のようだろうか?
「ロビンさんがそういってたんですか?」
俺は警戒しつつも答える。
何故警戒しているかといえば、俺は「仕事柄」いろんな軍人をみてきたが
それぞれがどのような仕事をしているかは体つきや顔つきで
ある程度推察できるものなのだ。
その勘ともいえる感性が俺に警鐘を鳴らしている。
こいつら……真っ当じゃない。
前の世界の言葉で例えるならば、秘密警察などの匂いに近い。
だが俺はもっと嫌な匂い、強いて言えばテロリストに近い何かを感じていたのだ。
リーダー格の男は言う。
「ああそうだ、アイツの弓の腕は本当に頼りになったもんだよ。
アイツがいなくなってから俺達の儲けはだいぶ落ち込んじまった。
そんなとき、アイツが『少しは使えそうなやつがいる』と話していたのを
思い出して、孤児院とやらに言ってみれば、どこかに出ていった。
などと抜かしやがって、場所が知りたければ金をよこせとせびって来やがったから
顔面に数発パンチをプレゼントしてやったら森に向かったと聞かされて
ようやくここを見つけたってわけだ。
あの孤児院から比較的近い森はここだからな」
言葉の節々から臭う、無頼漢であることの証明。
しかし俺はこの世界に来てからまともな人間等、見ていない。
それもまたさもありなんかと聞き流した。
「で、何の用ですか?」
「お前の能力を教えろ、使い物になるなら俺達の仲間にしてやる。
こんな野ざらしに近い場所で毎日獣を追いかけるような生活をしなくても
金でしっかりと休める宿と飯を提供してやる。
どうだ、悪い話じゃないだろ?」
……。
どうにも俺はこの話に乗り気になれなかった。
前世での倫理観などこの世界では全く役に立たないのかもしれない。
しかしこの男たちが撒き散らす戦いの匂いは明らかに傭兵などの類であり
戦争の匂いがするのだ。
「僕はまだ能力を使いこなせていません。
ここでも獣と追いかけっこをしてギリギリ生きていくのが精一杯ですよ」
ガツッ!
そういうと、男は無言で俺の顔をぶん殴ってきた。
「まともに能力が使えない奴がゴブリンを何の力か知らんが蜂の巣にして
置いてるわけがないだろう」
そういい、男は俺の寝床の外に干してあったゴブリンを指差す。
干物にするために日向に出していたのが仇となった。
いっそ適当に手足を撃ち抜いて逃げるか?
俺は冷静に状況を観察すると五人の男たちはそれぞれが様々な武装をしており
それなりに戦いに慣れている匂いが感じ取れた。
おそらくこの場にいる全員を、この子どもの貧相な体の俺が射殺するのは
命がけになるだろうし、そこまでする大義名分もなかった。
俺は瞬間的にアサルトライフルを形成すると近場にあった巨木に数十発ほど
弾を無造作に乱射した。
「ロビンさんのように必中の矢は打てないけど、たぶんロビンさんが一回
弓を打つ間に十回は撃てるよ」
俺は無表情でその男に銃を向けながらいうと男はニヤリと笑い、いった。
「いいだろう、仕組みはよくわからんが『使い物になる』ならそれで問題ない。
お前は今日から俺達のパーティだ」
先程の銃撃をみても全く怯える様子もなく男はそういう。
単なる痩せ我慢か、胆力か、はたまた具体的な対策があるのだろうか。
まぁ俺に拒否権はなく、拒否する理由もなく
俺はならず者たちのパーティの一員となったのだった。




