八話 スリーハンドレット その三
ワシがなんじゃその鉄くずはとワザと馬鹿にした表現をすると
珍しくこの唐変木は「これは銃だ」とだけ短く口にした。
その銃とやらを覗き込むのをやめずにクリントはワシの問に答えた。
「これは平たく言うと二段階に分けた囮作戦だ。
ジイさんはいなかったから簡単に説明すると……」
あまり理解が得意でないワシなりに奴の言葉を表現するとこうだ。
まずゴブリンどもはほとんどおそらく損傷していない。
あるいは損傷していても武装の損失程度であり
三百のゴブリンはほとんど数を減らしていないだろうという予測だ。
根拠は明確で、ゴブリンの死体は一度もみたことがないという
レオたちの話からだという。
死体がないなら何ら戦果を上げておらず、いたずらに村を損耗させている
と言ったら一触即発の空気になったのはそのためらしい。
また村人などに人的被害が少ないのは略奪が目的であると同時に
ゴブリンの集団は極めて統制が取れており
理性的であることの証左だとかいっとったか。
まぁようするに頭が人間よりいいってことだ。
そのため、今回はワザと略奪するであろうものをすべて一点の場所に集め
まずはロレーヌ、フリーナ、そしてレオ達三人で防衛することになったらしい。
この男、現実主義なのは構わんがまかりなりにも女二人に前衛を任せるとは
何を考えてるのかと言ったら奴はこういった。
「ジイさんは短期戦は得意だが持久戦は苦手だろ」
よく観察してる男であるとはしっていたが
そこまで見抜かれていたとは恐れ入ったものである。
そう、ワシが全力で戦えるのはせいぜい二十分程度である。
全力をうてるのは最初の数発であり、徐々にその威力は低下していく。
これはなにもワシが年を取ったからではない。
ワシの戦い方の根本に原因があり、基本的に敵は一撃で倒すもの。
どんな人間でも長時間戦えば疲弊はする。
ならば疲弊する前に決着をつけるのがベストという考えからである。
それは多少人数が増えても大きくかわりはしないが流石に三百ともなると
話は変わってくる。
ただの武の心得もない雑魚が三百いたところで大差はない。
だが統制の取れた武装した三百となれば話は別である。
一方であのポンコツ三人組はまかりなりにもここまで
三百のゴブリンに押しつぶされずにはやってこれたのだ。
戦い方の上手い下手は別として実力はそれなりにあるのだろう。
ただロレーヌとフリーナをそこにおいてきたのには流石にワシも文句を言った。
「ロレーヌはいい、あやつは一見華奢で弱々しくみせとるが
ワシらと合う前から伊達に魔王城の近くで交易商人として旅をしておらん。
ゴブリンごときで遅れを取らぬのは理解できる。
しかしフリーナを前線に配置するのはどうなんだ?
お前あの小娘のことが嫌いにでもなったんか?」
そういうと奴は初めて銃とやらから目を外して
不快そうな顔をしつつも目を見て話をした。
「ジイさんが勝手に話を聞かないででていくから悪い。
そもそも『本当の前線』はあそこじゃない、『ここ』だ」
それだけいうと奴は再び銃と向き合いじっと構えたままになった。
なにが「本当の前線」じゃ、カッコつけた物言いをしおって。
……ふときがつくと村に向かって大量の明かりが中央に向かって集まり始めていた。
間違いなく百は下らない明かりの数にさすがにワシも息を呑んだ。
「ジイさん、気休め程度でもいいから俺がゴブリンを殺せているか……
いややっぱいい、ジイさんは周囲の警戒をしてくれ。
ゴブリン共が本当に頭が良いなら間違いなくここを叩きに来る」
……理屈は理解できる。
意味がわからない超遠距離からの攻撃に対して
攻撃してくる本体を叩きに来るというのは。
しかしクリントの選びおったこの場所は明かりはおろか
草木が生い茂っており、身も隠しきっている。
わずかに魔法を行使する際に小さな光こそ出るが
到底村から見えるとは思えない。
それ以前にろくに明かりがないのに敵を狙えるこやつは
ある意味ワシを超えるバケモンかもしれんな。
そんな気持ちが顔に出ていたのかもしれない
奴は一言だけいった。
「何事も訓練だ。少なくとも俺はそう教わった」
そういうと奴は弾の発射を開始した。
割と遠くでもワシは目が効くほうだが、流石に遠すぎて見えない。
望遠鏡とやらを除いてみるとたしかに松明が地面に転がっており
その横には倒れ込んだゴブリンがいた。
しかし以前他の村でオーガを撃ったときほどうまく言っているわけでもないようだ。
クリントの呼び出した「銃」とやらも若干形状が違う。
前回は一度発砲するたびにガチャガチャと銃をいじくり回していたが
今回の銃は引き金を引くだけで次々と弾が発射されていた。
この若造は今回はやたらと銃を再生成しては繰り返し銃を撃っていたが
ワシは気になってボソリと聞いた。
「何故そんなに銃とやらを繰り返し生成しておる。
マナ効率があまり良くなさそうだが」
そんなことをいうワシに対して奴は銃撃の手を止めずに言う。
「あまり同じ銃を繰り返し使うと銃身が加熱して変形するんだ。
まぁこの距離だとどのみち真っすぐは飛ばないがな。
ジイさんの拳よりはマナ効率はマシだ、心配するな」
そういうクリントの額には汗がにじんでるのをワシは見逃さなかった。
相当無理しているのは顔色からしても明らかである。
そうこうしているうちに百発を超えるほど射撃しただろうか?
気のせいか……マナには気を払っていたのだが周囲で物音がした気がする。
その音をクリントも聞き逃さなかったようだ。
「予定通り、おいでなすったみたいだ。
ジイさん、前回のときのように頼む」
言われなくとも心得ておる。
しかし本当にここを突き止めてくるとは若干の驚きもあった。
この位置を突き止めるためには発砲音の方向と
わずかに光るコヤツの弾丸とやらが放つ光、そして
遺体となったゴブリンがうけた傷の跡ぐらいでしか
場所を探る術はない。
それを普通はほとんど頭脳的な行動をしないゴブリンがしているというのだ。
些か以上に驚かずにはいられなかったが、そうこうしている内に我々は
多数の足音に囲まれているようだった。
「ジイさん、雑魚は俺がやる、見るからにリーダーぽいやつがいたら
ほかは無視していい、そいつをいち早くぶっ倒してくれ」
クリントは今まで使用していた細長い銃をしまい、よく戦闘時につかう
携行性のよい銃に変更していた。
しかしコヤツの顔色は見るからに良くない。
……ならば最速最短で敵の首領を叩くしかあるまい。
そしていきなり襲いかかってくるかと思っていたが奴らはゆっくりと松明を灯したあと
ワシらを取り囲むように現れた。
数は村の方と比べれば大したことはないが十五はいるだろうか。
クリントはワシに背中を合わせて背後を消すような立ち振舞をしながら
小声でワシに言ってきた。
「多分だがこの中で一体だけ若干だが下がった位置、
一人だけ少し華美な装飾をした兜をしたデカい盾を持ったゴブリンがいる。
目視できるか?」
ワシは一体一体をつぶさに観察するとたしかに一人だけ
安全地帯かと言わんばかりに大盾を構えたゴブリンがいたのがわかった。
「そいつがおそらく親玉だ、俺が隙を作るからアンタは……」
ワシはクリントが言い終わる前に突進していた。
この手の戦いは先手必勝である。
どんなに相手が多人数であろうと、絶対的な「一」には勝ち得ない。
それを証明せんとばかりにワシはまさに弾のように飛び出したのだ。
しかしそれをみてすぐにゴブリンの群れはワシをそれぞれ全員盾で
抑え込みに来たのだ。
明らかに人数有利である側の戦いに慣れている。
だがワシとの戦いには慣れていなかったようだな!
ワシは一気に拳にいつも以上のマナを込めて雑にゴブリン共に殴りつけた。
奴らの常識などワシには通用しない。
集まってきたゴブリンは全員葉っぱのように吹き飛んでいった。
ワシはそのままボス格であろう、ゴブリンに拳を叩きつけた!
まるでドラを丸太で叩いたかのような音がした。
それは奴の大盾がワシの拳の一撃を防いだ音であると理解した!
ワシの攻撃を防ぐ事自体は人間でも難しいがそんな事は関係ない。
時間をかければ先程吹き飛ばした連中が再度やってくる。
ワシは立て続けにその盾に三発ほどお見舞いしたあと
絶招歩法にて内股をひねるように大盾の外に回り込み
再びゴブリンに拳を連撃で五発ほど、頭部に三発、胸部に二発ぶち込んでやった。
殴りつけるたびにあたりには暴風が吹き荒れ、炸裂音が響き渡る。
するとこの大将っぽいゴブリンは血しぶきを上げて倒れた。
それをみて周囲のゴブリンはまるで闇に溶けるように一度に消えていなくなったのである。
ワシはクリントの方を見ていった。
「どうじゃ、ワシにかかればこんなもんよ」
しかしクリントは釈然としない顔をしていた。
「なるほど、俺達は一本取られたみたいだ」
「どういうことだ?」
頭を掻きながらクリントは答えた。
「アレも囮だ、俺はアンタがボスを倒したところで
一気に周りを掃討するつもりだったが
まるで準備してたかのようにあっさり全員消えた。
普通指揮官を失った集団は統率を失う、だが奴らは息を合わせるように
全員撤退した、何故だ?」
なんだか言いたいことがわかるようなわからんような。
「まわりくどいな、わかりやすくいってくれ」
「つまり統率しているは他にまだいるか、複数の統率者の群れか……
はたまた三百の全員が指揮官並みの頭脳を持っているか」
「そんなのどうやって退治するんじゃ?」
「さぁな……ほとんど人間の戦争と変わらなくなってるからな。
相手に諦めてくれってお願いするしか無いんじゃないか?」
などと惚けたことをクリントは言っていたが疲れ切っていることは明らかであった。
一定の戦果を上げたのは事実ではあると思うが
この戦いにはまだ終止符は打たれていないようだ。




