七話 スリーハンドレット その二
全員が会議室に入室した時、なんとも言えぬ静寂が部屋を包んだ。
特に対峙した冒険者たちの目を一番引いていたのはクリントだった。
敵にも近い目線を向けられており、まさに一触即発の状況であった。
そんな雰囲気に耐えかねてかロレーヌは口にした。
「あら皆さん、既にお知り合いでもいらっしゃいましたか?」
そういうと目線は一気にロレーヌに向かうがロレーヌは
かなり正直露出過剰とも言える衣装を身にまとっている。
冒険者たちの目線は一時的に行き場を失ったように感じる。
やはり女狐めはこの手のやり取りに手慣れておる。
どの程度まで計算してやっているのかはしらんが
心理面においてこの女は外見より遥かに老練とも言える
卓越した才能を見せる。
しかしロレーヌの交渉術を持ってしても消えないほどの怒りを持って
対峙した冒険者たちのリーダーであろうヒゲの男は答えた。
「その男とはだいぶ前だが戦場で敵としてあたったよ。
……恐ろしい男だ、こちらの優秀な部下が四人も殺されたよ」
その言葉に他の二名は目を閉じることで回答としていた。
まるで死した味方を黙祷するかのようであった。
ロレーヌは言う。
「かつての敵……というわけですか。では今回の件は
無しということにしますか?」
しかし相手のヒゲの男はその態度に感情の揺れを見せずに答えた。
「事態が事態です、とりあえずは水に流しましょう。
それよりはまずお互いの自己紹介をしましょう。私はレオ、隣の大男がアラン
でかい帽子と杖をもっているのがイザークです。そちらの方々も良ければ
自己紹介を」
そういうとロレーヌが代表して全員の紹介をした。
「私はロレーヌ、交易商を生業としてます。隣りにいるのはクリント。
お知り合いのようなので説明は割愛させていただきますわ。
そしてそのさらにとなりにいるのがヤン先生。
最後に一番うしろにいるのが技師のフリーナです」
ざっくりとした説明だったが、お互いにプロフェッショナル同士の匂いがする。
不必要な情報は最低限に切り落としたいという気持ちなのだろうか。
村長は本題を促したいのか声を出した。
「皆様、是非この村を救うためにお力を。この村で出来ることでありましたら
協力は惜しみませんので何なりと言ってください」
そう村長がいうとロレーヌは無駄とも言える世辞を言った。
「三百ものゴブリンが襲いかかってきていると聞きましたが
まさかたった三人で凌がれているとは思いませんでした。
おそらく魔王の影響を受けているゴブリンとの話を聞いてはいましたが
そのへんの具体的なお話を教えて下さいませんか?」
そういうとヒゲの男は自慢のヒゲを少しだけ指で触ると答えた。
「我々、魔王討伐軍の末席ながら、尽力してまいりましたが
この三百のゴブリンの群れはオーガ百体を相手にするより厄介です。
なにせこのゴブリンたちは私達と同等、あるいはそれ以上の知能を持ち
更には金属製の武具を身にまとい襲ってくるのです」
ほほう……魔王討伐軍とは大きく出たな。
いつもであればここで試合を希望したいところではあるが
自体が自体である、ワシは黙って彼らの言葉を静観することにした。
「連中の目的はわかっているのか……?」
クリントは相変わらず簡潔に目的を口にした。
それに対してレオは言う。
「おそらくは我々の資源……つまりは略奪だ。
主には食料だが、武装に用いれそうなものなど
略奪物は多岐にわたる。が、一方でけが人などはかさむものの
死人は一人も出ていない。だがそれは向こうも同様だ」
難しそうな表情をしてレオは答えた。
その表情は言葉よりも厳しさを物語っていた。
だがクリントという男は食って掛かるかのように言葉を続けた。
「相手側の損害は?」
「わからん、全く無傷ということはないとは思うのだが……」
クリントの言いたいことは理解できた。そしてこの指揮官の見落としている点が
浮き彫りになりつつある。
巨大なモンスターが1体やってきた、あるいは数体の凶悪なモンスターが現れた。
それらに対して倒した、倒せなかったのアバウトな戦況把握は致し方ない。
実際に倒せなければ何が必要なのかに論議は集中するだろう
ただ正直戦術だのそういったことにうといワシはもうこの時点で眠かった。
ワシは座ったまま、大物ぶって目を閉じるふりをして寝ることにした。
まぁ寝ると言っても話を聞き流してぼーっとするていどではあるが。
だんだん議論がヒートアップして怒号にもにた声がするのが聞こえるが
ワシにとってはどうでもいいことだった。
そもそもモンスターなど出てきた頭から叩いて潰していけばいいのだ。
人間相手と違って手加減も不要だから楽なものだ。
「……ヤン先生!」
ふとロレーヌから声をかけられてワシは我に返った。
「いやすまん。話が退屈でな」
その言葉はとても三人の冒険者の不興を買ったようだがワシは言った。
「そもそも精鋭だろうとゴブリン如きに後れを取る連中にそのような眼を
向けられるいわれはないわ」
かなり厳しい目線でレオとアランはワシのことを睨みつけてきて
ワシは久しぶりに楽しいことになってきたぞとニヤリと目線で返すが
たった一人、イザークと言った老魔道士はボソリと一言言った。
「拳士ヤン……、御前試合で一撃のもとに対戦相手を打ち破った剛の者……」
どうやら若き日のワシのことをこの人物は知っているようだ。
まぁ最もあのときの戦いは動きが見きれなかったものには一撃に見えたかもしれんが
実際は二撃である。世間一般には一撃と言うことになってるようだが。
「貴方が打ち破った者は、その後右手全体及び右腕の損傷で
一線から退きましたよ……ワシの自慢の弟子でした」
そういうと初めてその老人はワシを深々と被った帽子の下から眼をギラつかせて
ワシのことを睨みつけてきた。
いつもなら面白くなってきた……と言いたいところなのだが。
ヤツの言う「弟子」という言葉にワシは大きく興が削がれた。
しかしヤツの方はといえば大きくマナを揺らがせている。
それはまるで挑発するかのようであった。
「ワシと決闘したいのか? その無駄にでかい杖と仰々しい出で立ちでか?」
ワシは挑発に乗るようにわざとマナを放出してみせた。
マナの量だけで言えば蟻と象ほどの差がある。
しかしその老人は白けたことを言った。
「ワシが私怨のためにここで決闘をするのは容易いこと。
ですが我々が直面している問題は大きなことであり
そのことと比べればそのようなことは些事にございます」
そういいつつも老人はギラリとした眼をワシに向けるのを辞めなかった。
明らかな敵意を持ちつつも全体の問題を優先させる。
もしワシがここに一人しかいなければ「言い逃れか」と叱責しただろうが
ここは年寄り同士が勝手にいがみ合う場所ではないのはワシでも理解できた。
ワシは不敵な笑みを振りまきつつもロレーヌに言った。
「作戦が決まったら呼んでくれ、どうせワシは敵を殴り倒すぐらいしかできんからな」
そういい、ワシは村にあるであろう、酒場を探しにふらふらと外へ出向いたのであった。
そして現在に至るわけだが、ワシはクリントと二人で全く明かりのない
村から大きく離れたところに位置していた。
「で、結局ワシは何をすればいい?」
とクリントに聞くと
「アンタは俺の護衛だ、俺の読みが正しければアンタの仕事が来る」
それだけいうと黙ってこの男はオーガのときに取り出した不思議な
鉄パイプのような物体に望遠鏡がついたものをずっと覗き込んでいた。
ワシは相変わらず酒を飲んでいたが周りにはゴブリンどころか
人の気配すらない。
ただこのクリントという男に言われた指示は「マナは隠せ」であったため
ワシは極力体から漏れ出すマナを押し留めていたのだが
このクリント当人は特にマナに意識を止めずに伏せてひたすら村を観察していた。
「相変わらず生意気な奴だが、お主彼奴等を言いくるめたんだろ?」
そうニヤケてクリントを見たが奴は相変わらず姿勢を崩さずに言う。
「別に言いくるめた訳じゃない、事実を言っただけだ。
そしたら少しだけ口論になりかけただけだ」
この男は相変わらず正論なら何を言ってもいいかのような
ふてぶてしい態度を取っている。
しかしそれがコヤツの強さなのも理解している。
徹底的なまでの現実主義であり、戦いに希望などの幸運の要素を一切廃し
理詰めで戦いを考えておる。
ワシは退屈でロレーヌが預かっていた望遠鏡とやらで
クリントと同じように村の様子を眺めていた。
村の中央には巨大な篝火が置かれており
村の全物資、すなわち食料から燃料、はてには我々の交通手段である
魔導機関車までもが置かれており、火に照らされて夜を赤く染めている。
「何故こんな回りくどいことをしている?」
ワシは退屈がてらクリントに話しかけた。
「酔っぱらいの戯言なら無視するぞ」
実際クリントは鉄の塊を構えたままピクリとも動かず
その全神経を指先の引き金と眼に向けてるのが気配でわかる。
ただ寝転んでるわけではなく、そうしているだけで
彼は自らを削り取りながら時間を費やしてるのだ。
「一応ワシも作戦を理解しておこうと思ってな」
そういい、ワシは余ってる酒を飲み干した。
もう酒はないぞとジョッキをヒックリ返してアピールした。
「……はぁ」
それでも微動だりしないクリントだがため息を付くと
少しだけ場の空気が弛緩した。




