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魔王の弾丸  作者: eXi
第二章 冒険の書 二部 半步崩拳打遍天下
24/39

二話 弟子

「先生、今日の鍛錬はこの程度で終わりなのですか?」






ワシの鍛錬の厳しさは弟子を取るようになってから極めて有名になった。

有名を通り越して悪評だったと言ってもいい。

ときには「教えると称した暴力」と揶揄されたこともある。

大体辞めたあとにそういうことを言われるため

ワシは腹が立って、その鬱憤を晴らすかのように

自らを痛めつけるように修練に励み

またそれを弟子にも求めるように弟子をしごいた。




わしの弟子は長続きしない、いないと言ったが一人だけ特別な存在がいる。

その弟子はワシのしごきを物ともせず、貪欲に強さを欲していた。


十年前ほどだったろうか、ワシは現皇帝陛下が即位した日。

その後の祝の席で天覧試合に呼ばれたことがある。

当然ワシが呼ばれた理由はその試合に出ることであり

対戦相手はレイピアに魔法を通して戦う生粋のデュエリストであった。

あまりに素早いその刺突から繰り出される電撃でほとんどのものは

打ち倒されてしまい、ワシ同様、敵うものはいないと言われたほどの猛者であった。




しかしなんてことはない。

ワシは試合開始と同時に日課でこなした通りに拳を突き出すと

奴の放ったレイピアの電撃は炸裂するマナを貫通できず

それでもヘビのようにワシの心臓めがけて飛んできたが

それもワシの練る莫大なマナを貫けずにどこかに弾け飛んでいった。


しかし奴の強みはそれがレイピアであるということである。

電撃が効かない者は当然いる。魔法使いであれば対魔法の防御を持ったものは多く

戦士であっても一方的にやられることを防ぐために防具に

簡単な魔法への対策を施しているものが多かった。


奴のレイピアの刺突から放たれる電撃はその程度死ぬやつはそれまでと言った

雑魚の選別の為にあるようなものであり、二の矢と言わんばかりに

奴はそのレイピアでそのままワシの拳を避けつつ先にレイピアを

ワシの体に突き立てようとしてきた。


リーチの差から考えれば当然奴のレイピアがワシを貫くのが早い。

ワシはその動きを予測しており、ワシの右拳は裏拳とは逆の方向。

つまり手の平側に湾曲して打ち放たれ、それは奴のレイピアにぶつかり

その瞬間、雷に打たれたような炸裂音が会場を包みこんだ。


奴のレイピアは砕けこそしなかったがグシャグシャに折れ曲がり、

奴の右手はその余波の影響を受け、彼の小手からは恐らく指の骨が砕けたであろう

血を流していた。


ワシはその姿を見届けつつ、フックのように殴った腕を折り曲げるようにし

その勢いのまま腕を折り曲げて肘打ちでさらなる一撃を奴の胸に向けて打ちつけた。


その時は流石にマナを込めなかったが、骨の数本は折れてるかもしれない。

しかしこれは決闘である。殺さない程度の手加減はするが、殺さないだけの話である。




しかし奴はそんじゃそこらの雑魚とは違った。

勝負は間違いなく決したが、そこから立ち上がると

よろめきながらもワシに手を伸ばした。


ワシはその勇敢な戦士の姿に手を伸ばして答えた。


しかし周りの観客はそんなことよりもあまりにもひどい結果にどよめいていたのだ。

何より彼が伸ばした「左腕」は無事だったが、右腕は本来曲がらない場所が曲がっていた。

しかし奴も猛者であることは事実であり、奴の負傷を恐れて手加減した場合

最悪ワシは絶命してもおかしくなかったのである。




パチパチパチパチパチ


そんなざわめきを掻き消すかのように一人の男が拍手をしていた。

それこそが時の皇帝であるシャルルその人であった。


周囲のざわめきは熱狂にかわり、大きな歓声が上がったのである。

その時の戦いを称えられ、ワシは「拳士」という唯一無二の称号を陛下より賜った。






そんな日の翌日であった。

そのときのことは今でもよく覚えているが、ワシは「またか」という思いだった。


大きな大会や決闘を行った時、ワシの姿を見て、憧れを胸に

ワシのもとに弟子入りを願い出るものは多かった。

しかしその憧れという動機は大体の場合

残念なことに長続きしないのが事実であると

ワシは気がついてしまっていた。


実際ワシも師匠には憧れていたが、続けられた動機は別のところにあった。

なので今回もワシは期待せずにその弟子を向かいいれることになったのだが。


何が印象的だったかと言われればこのときの「弟子」の姿である。


全くいないといえば嘘になるのだが割と弟子に志願してくるものは

元々武術の素養が有るものや体力自慢だったり

幼いものでも元気が有り余っているようなタイプが多かったのだが

その弟子は有り余ってるのは元気だけであまりにも貧相な外見を持っていた。


いや貧相というのは些か違うか。

なぜなら出で立ちは間違いなく上流階級のそれであり

それ故にだろうか、「華奢」という表現がこれほどふさわしい者はいなかった。

おまけにまだ年齢は十歳程度であろうかという若さである。


ワシは珍しくあまりにも変わった弟子志願者に理由を聞いてしまった。

ワシはいつも弟子を取る時、理由を聞かなかった。

男子たるもの、誰しもが強さに憧れる。あたり前のことを聞く必要はない。

そう思っていたのだが、あまりのその特異な弟子志願者に聞かざる終えなかった。

下手に骨折でもしようものなら

親が怒鳴り込んできてもおかしくないほどの身なりをしているのだ。


その者は答えた。

「貴方は余計なことを考えなくていい、私を貴方ほど馬鹿げてなくても良いから

 そこら辺の生意気な奴らを黙らせられるぐらい強くしてほしい」


入門時に生意気な口を聞くものも多かった。

率直に言えば荒くれ者たちが多かったというのも事実である。

だが、見るからに品行方正そうで、その出で立ちもまるで貴族といった風である

金髪碧眼の志願者からはまるで暴力の匂いのしない出で立ちで

荒くれ者たちよりもある意味尖った言葉で志願してきたのである。


ワシは言った。

「入門は許可する。だがそれだけの生意気な口を聞くなら

 ワシは初日から手加減するつもりはないぞ」


ワシはその弟子に対して何も言わずに素振りを一万回やらせることにした。

その弟子は休ませてくれとはいったが、ワシは怒鳴りつけながら一万回

結局ちんたらやることにはなったが休ませることもなく拳を振らせ続けた。


全く体力がなさそうな外見どおりであり、弟子はふらふらとしていたため

ワシは一万回やり遂げた褒美として家までおぶっていってやろうとしたのだが

弟子はそれを激しく拒んだ。

よく見れば高価であろう衣服が破けているの目についた。




十歳で一万回拳を振れるのは才能の原石と言っていい。

仮にほかが全て劣っていてもそれさえできればワシに追いつくことも夢ではない。

ワシはその弟子の「惜しさ」からも連れ帰ると言うが

その弟子は頑なにワシが付き添うことを拒否しつづけた。


結局ヘロヘロになりながらも日が下がる頃にはなんとか立ち上がり

家に返っていった。





誠に残念なことである。

人はどんなに恵まれた面を持っていてもそれを活かせるとは限らない。

それは環境であったり性格であったり様々な影響を受ける。

その弟子については「出自」が悪かったとしか言いようがあるまい。


恐らくそのような状態で帰宅して帰った日には

本人に仮にやる気があったとしても

親が許すとはワシには到底思えなかった。










しかしその翌日、その弟子はひまし油でも塗布したであろう湿布まみれに

かなり服装の方もみすぼらしい格好になって現れた。


「どうしたその格好は」

と問うと弟子は言った。


「どうせ破けるなら破けていいものを着ていけといわれました」

と答えた。


よほど酔狂な親なのだろうか。

ワシは上流階級の貴族が考えることなど全くわからないのだが

少なくとも一般的な貴族の印象から考えると奴らは怠惰な連中が多く

服も破けて帰って来るなどあれば「もう辞めなさい」などという

軟弱者の集団だと考えているが、弟子がこのような態度を取っているのを見ても

別にその認識は変わらず、むしろこの弟子とその親がイレギュラーであると

ワシは考えたがそれは多分間違っていないだろう。


「朝早くから来たその気骨は認めよう。では今日も始めようか」


ワシは今日も一万回拳を振るうことを要求した。

おわるまで食事を摂ることすら許さなかった。


昨日の一万回に続いての今日の一万回である。

最初から全く力の籠もっていない拳にワシは激怒して声を上げた。

「ふざけるな! 形だけやろうとしているなら今すぐ帰れ!」

そういいながらワシは「こうだ!」と手本を示しながら拳を振った。


結局怒鳴りつけると三回ぐらいはびしっとするのだが

あとは全く力のこもっていない拳になるのである。


ワシは言った。


「いいか、どんなに拳に力が入らなくても形だけは崩すな。

 少しだけ休むかわりにワシの動きをよく見ろ」


そういい、ワシは長年の技術の粋を弟子に見せつけた。

大気中のマナが荒れ狂い、拳を振るうたびに暴風が吹き荒れた。


「……よし、やってみろ」


そういうと弟子は再び同じことを繰り返した。

やや形は是正されたが、結局体力が足りていない。

しかしスピードは落ちたものの形は少し崩れが減っていた。


結局一万回おわったころには日が暮れて夜が近かった。

流石に夜中はまずいと思い、ワシは送るといったが

弟子は再び頑なに拒否し、よろめきながらも帰っていったのである。

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