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魔王の弾丸  作者: eXi
第二章 冒険の書 二部 半步崩拳打遍天下
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一話 禁酒令

世の中下らないことが多すぎる。

余計なことを考えず、自己の鍛錬に励み、己を高めることで道は開かれる。

それがわからん俗物が多いどころかほとんどなのが嘆かわしい。





早朝、ワシは街の大木に向かい、掌底をひたすら打ちつけた。


少年時代、師匠に言われたことが理解できず、とにかく叩き続けた。

人に言われてやるのは嫌なことであったが、他にすることもないので

暇つぶしに丸一日叩き続けた。


青年時代になり、人体の理屈を理解するようになり

より効率的に、より効果的に、よりコンパクトに。

まるで思考するように一打一打を打ち込んだ。

考えれば考えるほど一日が途方もなく長く感じられたが打ちつつけた。

この頃になると先生の周りに居た弟子もだいぶ入れ替わっていた。

長続きしないものが多かった。


曰く、「他にすることがある」とわかりやすく堕落するものが居た。

曰く、「剣で切ったほうがはやいじゃないか」と剣術の道に進んだものが居た。

曰く、「この技術は私には難しい」と他の武芸や学問の道に進むものが居た。


しかしワシにはそれが理解できなかった。

このとき、いや未だにかもしれない。ワシは武芸の真意を理解していなかった。

その理解できないものを誰もが挫折する中、叩き続けることのみで

たった唯一の高みにいる師匠のような

存在になれるかもしれないと思い拳を振るい続けた。


ワシの時代でも拳で戦うものへの理解は薄い。

当然師匠の時代も周りの目は一見すると

「求道者」としての尊敬の念で評価しているようでいて

その実、無意味なことと内心バカにしているものが未だに数多くいる。


二十歳を超えた頃、師匠が亡くなった。老衰であった。

師匠の下に居た弟子の数は今では両手で数えられるほど減っていた。

武術は何も拳だけでの指導を行うわけではない。

兵器、すなわち武器による戦闘も指導するがその考えが古いと断じられつつあったのだ。


というのも時代は鋼の時代を迎えていた。

そもそも小細工を弄した攻撃は通用しなくなりつつあり

一部の者はレイピアやエストックといった技巧を凝らした「技」を好むものも居たが

戦いの主流は大型武器、とくに特大の剣やポールアーム、特にハルバードなどが好まれた。


彼らのコンセプトは至って単純であり、全身を鋼で覆い

敵の鋼を大型の武器を振り下ろすことで鋼ごと叩き潰すという

蛮族の如き戦い方である。


そんな戦いのあり方をワシは軽蔑していた。

そんなものに否定されるほどワシらが極めようとしていた「道」は軽くない。

ワシは師匠が死んだその日も師匠の顔を見に行くこともせずに拳を振り続けていた。

ワシがもし死んだとしても師匠ならどうするかを考えた時

きっとそうしただろうとワシはそう考えた。


すると葬儀にもこなかったワシを避難する眼で師匠の弟子たちは見つつも

師匠が後継者をワシにすることを決めたことを彼らはワシに伝えた。




そしてそれを納得しない彼らはワシに勝負を挑み。




そのことごとくをすべて一打で倒した。




その結果、師匠の道場に残るものは誰も居なくなった。


元より道場と言っても師匠が広場に人を集めて青空の下で営んでいた道場である。

物質的な何かがなくなったわけではなかったが

その師匠の作り上げた概念が消失してしまったような喪失感をワシは感じた。


今振り返れば、師匠が作り上げたものを

ワシが破壊してしまったのではないかと

ワシはそのことを後悔していたのかもしれないが

気の強いワシはその心の内面に気がついていなかったように思える。




その日からワシの日課には門弟を集め、師匠の成し遂げようとした

拳の道を世に広めようとすることがもう一つの目標となった。




三十歳になる頃。

もう拳を振るう時に何かを考えることはなかった。

むしろ考えるという雑念を払いつつも、今までやってきた丁寧な所作は忘れない動き。

これをどれだけ長時間続けられるかという技術が精神と融合しはじめる時期にはいった。


ワシはちょっとした有名人になりつつあった。

周りが大剣や斧を振り回す中、実際は槍や刀も練習はしていたが

拳をひたすら振り回す男がいると。


ワシの道場にはワシに挑戦を挑みに来るものが増え始めていた。












ワシは無敗だった……。











そんな訳はない。

無論、拳同士での戦いで遅れを取ったことは一度もない。

しかし時代が時代である。

拳のみですべての相手を倒すというのはあまりに無謀な戦いである。

そもそもそんな考えの者がほとんど居ない為、決闘では武器を使用することになる。


無論、ただの力自慢の特大武器を振り回すだけのバカを倒しているだけでも

ワシの名声は上がったが、このようなものは実力者にとっては取るに足らないものである。


ただし努力をしている者はワシだけではない。

皆努力をしているのである。


華麗に片手剣を扱う者や大型のハルバードを用いてもなお、技術を失わない者

そういったものには苦戦を強いられることが多々あり

特に眼にも止まらにスピードで繰り出される刺突を繰り出すレイピア使いや

刺突と斬撃を交互に使い分ける巧みな技に翻弄されることも少なくなかった。


流石にこれらの者に対してはワシは得意としていた槍を用いた。


槍に関しても一時期その奥の深さにハマり、毎日一万回は振った時期がある。

技巧を持つものと対峙しても、槍さえあれば

そもそもリーチの差が大きく、負けることは少なかった。


だがそれはあまりに退屈だ。

勝つとわかっている試合を繰り返すのは無意味であると感じたワシは

そのうち槍を試合で使うことを止めた。


もう槍の「限界」は理解した。


ワシが最も敗北したことが多かったのが魔法使いという人種である。

特に決闘に特化したタイプの魔法使いは冗長でバカでかい

古臭い物語にでてくるような過剰な杖など使わず

最低限の長さと魔法の強化の装飾を施した、極めて扱いのいい杖を使用し

ワシが拳を振るう速度と同等の速度で魔法を放ってくる。


また彼らの強さは自らの技術を秘匿していることにあった。

敵は何をしてくるかわからないのである。

ワシは槍一本であり、リーチ差で戦うのが明確である。

一方で相手は距離をもっと取り、莫大な範囲を炎で焼き尽くすのか

はたまた辺り一帯を氷漬けにして身動きすら取れなくするのか。

あるいはワシの自慢の槍裁きよりも早い電撃による一撃で勝負を瞬間的に終わらせるのか。


「槍」では勝てないと理解したのだ。



一方でワシは敗北も重ねつつ鍛錬に励んでいったわけだが

肝心の弟子の育成は全くうまくいかなかった。


私の評判を聞きつけ、興味を持つものがぽつぽつと現れ

ワシはそいつたちを一人前に仕上げようと熱心に指導を行った……。


しかし結果として誰もそれについてこれなかったのだ。

そうして増えては辞めてを繰り返す弟子たち。

そんなワシを見かねてか、ある一人の辞めた弟子はこう言い残した。


「貴方は確かに立派な人物だ。しかし立派すぎる。

 誰も貴方を超えるほどの修練など、不可能に近いのに貴方はそれを求める。

 そのような人材はこの世に何人いるというのでしょうか?」


ワシはあまり人に何を言われても傷つくということがないと思っていた。

なぜならワシには他者にはない絶対的自負をもつ拳があるからである。

最悪気に食わない奴がいれば殴り倒してしまえばいいという精神的余裕が

そうさせていたのだが……この日ワシは初めて酒を飲むということを覚えた。




一方決闘を続けるワシはとうとう魔法というものを「理解」した。

師匠が度々、口にしていた「気」という概念があったのだが

それをワシは三十まで理解できないでいたが、決闘を続ける内に

内なる「闘気」が魔法使いたちがいう「マナ」であることを理解した。


師匠の言葉を思い出し、足からマナを吸い上げ臍下丹田でそれを練り上げ

爆発的なエネルギーと化したそれを拳へと流し、拳を叩きつける。


ワシは試しに近くにある巨木にそれをゆっくりとマナの流れを意識して打ち付けると

決して素早く打ちつけたわけでもないのに

体三つ分はある巨木はたった一撃で凄まじい炸裂音と共にへし折れたのだ。


しかしこれを素早く動作しようとすると拳への伝達効率が悪くなり

逆に破壊力は大幅に低下してしまう。


ワシはまた毎日一万回この動作を如何に素早く無駄なく行えるかを確認しながら

拳を振り続けた。次第にワシの拳には特大武器で殴りつけるよりも

遥かにでかい破壊力を帯びるようになったのだ。


また副次効果として体にマナを保持することや拳から放出するマナは

魔法への耐性を持つことがわかった。

この日からワシは魔法使いという人種にはほぼ負けることはなくなった。






というよりはほとんどの相手に対して拳一つ振るうだけで空気を揺さぶるような

爆発的な破壊力を生み出し、その一撃でほとんどの者を問答無用で倒してしまえる。

そのあまりの絶対的力の差の前にもはやワシに決闘を挑むものは居なくなりつつあった。


そしてワシは酒に溺れた。

拳を一万回振るのはもはや呼吸に等しく、一日の一部を使うだけで達成できた。

本来であれば瞑想でマナの容量を増やしたりすることはあった。


だがワシは酒に逃げた。

一体それだけのことをして何の意味があるのだろうか。

ワシは道を見失ってしまったのだ。


相変わらず弟子は一人も居なかった事実もその事に拍車をかけた。


ワシは酒場に入り浸るようになり

腕自慢気に酒場で威張り散らかしている奴を見つけては

「力しか無いだけの木偶の坊が何を粋がっておる」

などと、わざと悪口をいい、決闘をけしかけては

手加減をして半殺しにしていた。


町中にいる程度の腕自慢に本気を出せば一撃で殺してしまう。


そのうち酒場から出禁を言い渡されるたびにワシは街を転々としていた。

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