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魔王の弾丸  作者: ぷりんせすこうたろう
第一章 出会いの書
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二話 アサルトライフル

ロレーヌは朝早く、まだ空気がひんやりと冷たい街を後にした。

市場のざわめきと商人たちの声は、馬車の車輪が石畳を離れた瞬間に消えた。

背後には眠りに落ちた街が霞むように遠のいていく。

自分の進む先にはただ、険しい道と途切れた山々しか見えなかった。


「今日は長い旅になりそうね。」


手綱を握る指先に冷気が触れ、ロレーヌは小さく呟いた。



幌馬車を軽く揺らしながら、馬を走らせる。

その馬車の中には、今回も様々な交易品が積み込まれている。

今回は魔王城の近くの街で食糧不足も深刻なせいか

交易品の多くは食料品であった。


彼女は普通の商人ではないーー。

その事実は、旅の仲間に過ぎない一人の男にこそ明らかだった。

彼は今、馬車の中で休憩を取りつつも

言葉一つ交わすことなくただ馬車の後ろを見つめている。


ロレーヌはクリントを一瞥する。

ぼんやりと馬車の後方を見つめているその姿からは、感情の揺らぎが一切感じられない。

旅の疲れすら表情に現れず、鉄でできた像のような硬さが漂う。


彼は言葉少なで、必要以上に他者と関わることを避ける。

だがその一方で、何か異質な威圧感を纏っているのだ。

「周りの様子はどう?」

ロレーヌが声をかけると、彼は振り向きもせず「特に何も」と冷たく答えた。


会話がこれ以上続くことはなかったが、それでも彼の存在そのものが

この静寂を破るかのような不穏さを孕んでいる。


しばらく黙ったまま道を進み続け、ロレーヌはその冷徹な空気に浸る。

ロレーヌにとってはこの険しく危険性もある道すらよく通る散歩道のようなものであった。

彼女にとってはむしろクリントの緊張感が楽しさすらもたらしているようだった。


「……ここからは野盗が出やすい道よ。」


ロレーヌはクリントに語りかける。

だが、クリントの反応はない。

相変わらず彼は後方を見据えていた。


日が高くなり、周りの景色がだんだんと変わり始める。

平坦な道から、だんだんと険しい山道に入ってきた。

風が吹き、木々が揺れる。

森の中のような場所を通り過ぎるたび、ロレーヌは慎重に馬車を進める。


森の奥から時折、木の枝が折れる微かな音が聞こえた。

小鳥たちの鳴き声も途切れ、森全体が静けさを孕んでいるようだった。


「来るぞ」


クリントの低い声が響いた瞬間、ロレーヌは馬車を止めた。


木々の隙間から、野盗たちの影が浮かび上がる。

粗末な革鎧に身を包み、錆びた剣や槍を手にしている彼らは

ロレーヌたちを獲物と見定めたようだった。

包囲されるのも時間の問題である。

野盗たちは茂みの中でひそひそと話しながら、ロレーヌたちに近づいている。


その瞬間、静寂が破られた――。


ドドドドドッ!

青白い閃光が夜のような暗い森を一瞬で照らし、轟音が響き渡る。

クリントの手に現れた異形の鉄塊は、まるで魔物そのものだ。

放たれた光弾が、木々の葉を薙ぎ払いながら野盗たちを追い詰めていく。


驚愕の表情を浮かべた野盗たちは、次の瞬間には茂みに身を隠し

逃げ惑う音だけを残して姿を消した。

「死にたくなければさっさと消えろ」

クリントが鋭く言い放つと、その声はただの脅し以上の重みを持って響いた。


すると野盗たちは早々に立ち去ることを決めたのか

茂みの中を移動する音がし、その音は遠のいていった。


再び外を確認し、外敵が排除されたのを確認したクリントは

手に持っていた鉄の塊を消失させた。


それでも、気を張った状態を崩さないクリントに対して

ロレーヌは興味津々といった様子で艶めかしくクリントに近づいて言った。


「貴方のその能力、とても変わってるわね」

ロレーヌはクリントに近づくと、彼の冷徹な視線はロレーヌを一瞥もせず

ただ無感情に『よく言われる』と返してきた。

その口調はまるで無機質な鉄のようで、ロレーヌの意図を完全に無視しているようだった。


彼はまさに「乾いた」「冷たい」鉄のような心を持つ男であった。

ロレーヌはクリントの正体に好奇心を抱いていた。

しかし、それだけではない。彼の冷徹さを打ち破り

あの鉄の塊と同じ無機質な仮面の下に隠された『人間性』を覗き見たいという

衝動に突き動かされていた。


「貴方、本当に何者なのかしら。試してみても……良い?」

あくあでも自然とだが短刀に手を伸ばすロレーヌに

クリントは一瞥をくれるだけだった。


ロレーヌは短刀を取り出し、素早く、迷いなくクリントの首筋に当てた。


「貴方、本当に普通じゃないわね、殺しても死ななかったりするのかしら?」

「普通に血も流れるし殺されたら多分そのまま死ぬだろう」


そういいつつクリントはハンドガンをロレーヌの心臓に付き当てていた。

クリントは言う。


「意味のないことは好きじゃない」


そういうとクリントは銃をしまった。

それに合わせてロレーヌも短刀を収める。


乾いた風が馬車の中を吹き抜けていった、まるで外の冷気をそのまま持ち込んだかのように。


それに合わせてロレーヌは特に言葉も発せずに馬に乗り直した。

手綱を引くと馬は再び前進を始める。

朝と同じ状態の繰り返しである。


その力がどう働くのか、彼には答えがわかるのだろうか

魔法とも違うその力が、どのような仕組みで動いているのか。


「貴方の魔法……随分と風変わりね。一体どういう原理なのかしら?」


ロレーヌは探りをいれるかのように彼に問いかける。

しかし彼は戸惑いも躊躇もなく答えた。


「引き金を引くと、火薬で鉄の玉が飛ぶ。それだけだ。」

「火薬で?鉄の玉を……?」


この時代の一般的概念では些か以上に説明不足である。

時代は弓に変わり弩が流行し始めた時期である。

まだまだ鉄砲という概念自体が無いのである。


ロレーヌは魔法についてはそれなりに知識があるが、こうした「仕掛け」には疎い。

そもそも魔法というのは機械との相性が悪いのだ。


剣技においても魔法においてもそれは同様である。

戦闘とはイメージする力と言っても過言ではない。

火が出る、水が出る、雷が落ちる。

現象そのものに理屈がいらないが、起こっていることを理解しているかで

それを再現できるのが魔法の力である。

つまり先程彼が取り出した「アサルトライフル」を魔法で呼び出すためには

その構造などを理解しなければならない。


「アレだけの複雑なものを作り出せるなんて……よほどの知識があるのね。」


ロレーヌが感嘆混じりにそう言うと、彼は面倒くさそうな表情を浮かべて答えた。


「構造なら細部まで理解してる。分解清掃(メンテナンス)を何千回とやったからな。」


何千回――その言葉の重さにロレーヌの表情は圧倒されていた。

複雑な装置を繰り返し分解し、整備し、再び組み立てる……

それは単なる技術の話ではなく、根気と経験の結晶だろう。


これほどの能力を持ちながら、なぜ彼の評判は低いのかをまだロレーヌは理解に至ってない。

彼女が道中で耳にした噂では、彼は「協調性に欠ける」「冷たいだけの男」

などと散々な言われようだった。

しかし、そんな表面的な評価では到底説明がつかない。


ロレーヌの視線が彼に留まる。

彼の能力には、きっとまだロレーヌが知らない何かが隠されている……。

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