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魔王の弾丸  作者: eXi
第二章 冒険の書 一部 イグルー
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三話 運命の歯車

私は心が踊るような気持ちで街の中を駆け抜けました。

いつもそうです、新しいひらめきを得たときは。


そんなときはついつい何も目に入らなくなってしまいます。

視界の端で石畳が浮かんでいるのが見えた気が……

でも、興奮で足は止まらない。次の瞬間、ガツッと音が響いた。


私は石畳に躓いて倒れそうになった!

しかし、顔面から地面にぶつかる寸前で、馴染の老紳士が支えてくれました。


「大丈夫かい、フリーナ。なにか嬉しいことでもあったみたいだね」


この方は、私が初めてメガネを作ったときに実験台としてお世話になった人だ。


「えへへ……つい、ひらめいちゃったんです」


笑顔で見送られながら、私は再び駆け出しました。

ある一つの決意を胸にしつつも。







工房に戻るなり、私はすぐに魔導機関車の設計図面を探そうとしましたが

部屋に入ってすぐ、先生が既にそれをテーブルに置いて吟味していたのを見つけました。


「先生! 車輪の件なんですが、とても面白いアイデアを思いつきました!」


すると先生はぼんやりと「ほぉ……」とだけつぶやきました。


「先生、ひょっとして寝てないんですか?」

そういうと先生はメガネを外して顔を拭くように右手でごしごしと擦ると

再びメガネを掛け直して私を見た。

「あぁ……この課題はとても難しい、しかし改良しなければこの装置は

 馬より扱いが悪い作品だと受け止められてしまう……難儀なことだ」


問題点の認識は私も先生も同じでした。

そこで私は先生に話しました。


「この間水晶玉を作成してくださったクリントさんが面白いアイデアを

 教えてくれました。それは丈夫で柔らかい物質が車輪には適しているということです!」


メガネが一瞬、鋭く光ったような気がします。


「なるほど、面白い意見だね。確かに柔らかい物質は路面に適応し

 車輪の空転を防いでくれるが、丈夫であればそれを持続的に運用できると」


さすが先生です。

みなまで言わなくても意図は通じたようです。

しかし難しい顔をしながら先生は言いました。


「で、そのような素材はどこにあるのかね?」

「鉛や木材ではどうですか?」

「柔らかすぎるね。鉛はもちろん、木材も材木を選りすぐればあるいは……

 しかし吸水性などの問題もある。それならば強度を保つためには金や銀が良いが

 それもあの機関車の想定する速度には耐えられないだろう」


黒板には計算式がびっしりと書き込まれていく。


先生の言うことは最もです。

でも私にはどうしても成し遂げたいことがありました。


「特注品になってしまうかもしれませんが、非常に柔らかい素材である金を車輪に巻いて

 更に地面を走る金の部分を常にマナによって修復し続けるというのはどうでしょうか?」


それを聞くと、先生はしばらく停止して、そのあと間をおいて椅子に座った。

メガネに手を当てて先生は言う。


「特注品も特注品、例の試作品にしか用いることは難しいだろうねぇ。

 何より加工の手間暇や材質の金額、あらゆる面において汎用性に欠けている……

 一体どうしたというのかね? いつもの君の思考らしくない」


確かに私はいつも、自分の発明を多くの人に使ってもらいたくて

誰でも簡単にいっぱい作れるをモットーにものづくりに励んできました。

なので今回のものが全くそれに反していることは理解しているつもりです。


私は先生の顔をはっきり見ていいました。


「私はクリントさんの水晶玉の作成のために、正に命がけにも近い

 魔法の行使を目撃しました……正直、衝撃的でした。

 私はのうのうと単純に日々の楽しさに甘えていたけれども

 そんな私のためにそこまでしてくれる人が居たことに驚いたんです」


私は胸の高鳴りとともにその言葉を口にしていた。

……が、先生の顔つきは強張っており、正直初めて先生を怖いと思ったほどだった。


「フリーナ、よく聞きなさい」


先生は私の正面に立ち、両肩を手でがっしりと掴むと言った。


「あの者たちは魔王城の極めて近くで商売をしている命知らずの連中だ。

 もちろん悪いことではない。彼らのお陰で生活できているものが多数いる。

 だがアレに憧れるのは間違いだ。私達とは住む世界が違うんだよ」


そういう先生の目は充血しており、いつもより目が大きく見えるほどでした。


私は先生が言っていることが理解できました。

それでも……


「先生、ご心配ありがとうございます。

 でももう決めてしまったんです。あの一瞬一瞬を全力で生きている

 あの人達のように私も生きてみたいという気持ちが抑えられないんです!」


そういうと先生は私の両肩を掴んだまま、その手からは力が抜け

そしてゆっくりと先生は椅子に向かって歩いていくと、脱力するように座りました。

全く覇気がなくなってしまい、ひどく落ち込んでいるように見えました。


「君も皇帝陛下と同じ気質を持っているようだ。

 前進しないことを良しとしない」

「皇帝陛下……シャルル皇帝のことですか?」


うなだれた姿勢のまま先生は続けた。


「彼が幼い頃、私は彼に技術を教える教師として王宮に一時期仕えていたことがある。

 とても聡明で合理的思考ができる優秀な子だったよ。

 彼も君と同じように、悪い現状をそのまま良しとしない子だった」


先生の顔はうつむき、どこをみているかもわからないですが

それはまるで遠き過去に思いを馳せるかのような。

発する言葉に温かみがありました。


「みんなそうだ。優秀な子たちは前に進み、そして魔王によって

 あるいは魔物の手に落ちて死んでいったよ……」


しかし先生の言葉には強さが戻り、頑なな表情で言う


「フリーナ、君はあの連中に同行したいのだろう、そうだろう!?

 そのような事は私は決して認めない!

 皇帝陛下の場合は意味が違う。彼は民草を導くという立場に居た

 だが我々は技術屋だ! 我々が死ぬことは社会的損失だ!

 そんなことは許されてはならないのだよ!」


いつもであればそんな言葉に反抗することすらまったくなかったでしょうが

私の心の、魂の叫びは変わることがありませんでした。


「ごめんなさい、先生。でも私は死んだりしません。

 そして先生の教えが正しかったことを証明するためにも

 これからも私は技師として様々な障害に立ち向かっていきたいと思います!」


しかし先生はまるで怒り狂うようにガチゴチとした動きで部屋を

右往左往して、顔を両手でパンと叩くと先程まで立ち向かっていた図面と向き合い

私の方を一切見ずに車輪の図面を見続けていました。


「フリーナ、馬鹿なことを言ってないで今まで通りのアプローチで

 開発を進めるぞ、あの馬鹿げた水晶玉は一般的な車両では使用できない。

 いっそのこと蒸気機関をベースとして……」


語り始める先生を無視して私は工房を駆け抜けました!


……思えば先生に反抗したのは初めてかもしれません。

何故なら工房を飛び出した私は途方に暮れていました


どこに行こうか……真っ先に思いついたのは自宅でした。

しかし私はこの考えを頭から消しました。

自宅に行けば私はどうするでしょうか?

考えを否定された私は泣きじゃくるのか? ふさぎ込むのか?

そしてふて寝でもするのだろうか?


そしてくる明日はなにか変わるだろうか?


私は宿舎へと足を向けました。

心は浮かされるような熱さと緊張の間で弾けそうな気分でした。

目指すはロレーヌさんの元です。


宿舎にたどり着くと、ロレーヌさんはちょうど幌馬車に荷物を積み込む作業をしていました。

相変わらず、華やかな赤い色のガラベイヤが素敵で、街の中でも人目を引いていました。

ある意味そんなロレーヌさんが交易商人として作業に取り組んでいるのは不思議な光景でした。


私はロレーヌさんにゆっくり近づいていくとロレーヌさんはこちらに気が付き

逆にロレーヌさんからはなしかけられました。


「あら、フリーナじゃない。 元気にしてたかしら?」

そんなフリーナさんの表情はにこやかでしたが、どこかぎこちない気がします。

「ええ……まぁちょっといろいろありましたが」


そこまでいい終えてふと気が付きました。

今日はクリントさんとヤンさんがいません。

私は疑問を口にしました。


「あの……他の方々は今日はいらっしゃらないんですかね?」


それを口にするとロレーヌさんは待ってましたかと言わんばかりに不満げな表情を浮かべ

まるで高速で回転する歯車のように言葉を浴びせかけてきました。


「ほんとよね、ちょっと聞いてよフリーナ。

 あいつらときたらどうせ大した用事もないと思って

 私が交易品の買い出しを手伝ってほしいって頼んだのよ。

 そしたらクリントは『忙しい』とか一言だけ言って無視して立ち去ろうとしたのよ!」


「忙しい」と口にするクリントさんはあまりにもわかりやすく

まるで頭の中で映像が浮かび上がりそうでしたが

ロレーヌさんの不満は止まりません。


「だからちょこーっとだけイラッとしちゃって肩を掴んで『少しぐらい手伝ってよ!』

 って言ったのよ。そしたら『知らん。用事があると言っただろ』とかいって

 無視してどっか言っちゃったのよ。信じられる? か弱い女子を一人置いてよ?!」


まぁロレーヌさんの言い分はわかるのですが、なんとなくか弱い女子という表現には

少しだけ違和感を感じずには……。

私から見てもロレーヌさんは強い女性の代表格みたいな気がします。

しかし言ってしまうと更にロレーヌさんの言葉が止まらない気がしたため控えました。


「ヤンさんはどうですか?」

「ヤン先生ねぇ……朝方はまた大木相手に拳を殴りつけてたけど飽きたみたいで

 今頃は酒場で飲んだくれてるわね、戦力外だわ」


呆れた表情をするロレーヌさんも可愛らしさがあります。

私にはない女性らしさの魅力にあふれるロレーヌさんですが、ふと表情が真顔になりました。


「それで、フリーナ。あなたの用事はなにかしら?」


いきなり言われてドキッとしてしまいました。

まさか心の中を読み取られたのではないかとあり得もしない妄想が頭の中をよぎります。

胸が高鳴る。けれど、足は震えていた。でも、ここで言わなければ、何も始まらない。


「ロレーヌさん、私をロレーヌさんのパーティに加えてほしいんです!」


 


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