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魔王の弾丸  作者: eXi
第二章 冒険の書 一部 イグルー
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第二話 タイヤとゴム

皆さんおはようございます。

私はまた、けたたましく鳴り響く時計を一生懸命分解しています。


というのも、今日はクリントさんと話がしたいと思い

クリントさんがこの街ではいつも朝一以外居場所がよくわからないと

ロレーヌさんから言われて、真っ先に幌馬車に向かおうと思ったからです。

クリントさんはかならず朝一番に幌馬車にやってきて中身の安全確認と

馬の手入れをしていくそうなのです。




というわけで身支度も早々に私は自宅を駆け出しました。

一応、紙とペンは持ちました。

ばたばたとロレーヌさんの幌馬車に向かうと

ちょうどクリントさんは馬の手入れをしているところでした。

そしてそのクリントさんに付き合うようにロレーヌさんは

クリントさんと何かを話しているようです。


二人が並ぶ姿に、思わず足を止めました。

大人びた雰囲気が絵になるようで、少し見とれてしまったんです。




しかしそんなことで私の好奇心を止めるわけにはなりません。

意を決して挨拶をしました。


「おはようございます!」


「ああ、おはよう」

「おはよう、フリーナ。相変わらず研究三昧みたいね」


二人の反応は、人間って本当に人によってぜんぜん違うんだなという

興味を抱かずには居られないほどに対極的です。


クリントさんは実は温かみを持つ人だと私は理解していますが

こうして話すと最低限のことしか話してくれず、初めて話す人はきっと

無愛想で人付き合いの悪い人だと思われてしまいそうな気がします。


……言っていて自分で自分のことを突き刺している気分になりました。

そこに関しては今後頑張りたいと思いますぅ……。


一方でロレーヌさんは私の頭を撫でると、幌馬車の中に入っていき

どうしたのだろうと眺めているとブラシを持って戻ってきました。


ロレーヌさんは私の後ろに回り込むと私の髪の毛を

ブラシでほぐすように、優しく髪の毛をほぐしてくれました。


「フリーナ、あなたせっかく可愛いのに髪の毛がボサボサじゃもったいないわ」


あくまでも優しくブラッシングしてくれているのですが

私が手入れを怠っているため、軽くブラシを差し込んでも

ちょっとしか動かないのですが、ロレーヌさんは根気強く

軽く、少しずつブラシをなじませるように髪をすいていきました。


そんな私とロレーヌさんの姿をみていたクリントさんが声をかけてきました。

「それで、俺に何か用があると聞いていたがなんの用だ?」


少し意外でした。

私はクリントさんには用事があることを伝えておらず

実は連絡が取れたロレーヌさんにだけそのことを伝えてました。

私は背が低いロレーヌさんの姿を見ようと後ろを振り向くと

ロレーヌさんはなにもいわず、微笑むだけでした。


再びクリントさんの方を見ると、ロレーヌさんが髪の毛にしっかりと

ブラシを差し込み始めました。少しずつほぐれていく感覚が伝わります。


私はしっかりと顔を見据えるのを忘れずクリントさんにいいました。

「き、きき、聞きたいこと、が、いっぱい、あるんですが」


慣れてきたとはいえ、吃る癖はまだ治りそうにありません。


そうするとクリントさんは幌馬車によりかかり

水筒を取り出すと水を飲みつつ声をかけてきました。

「たくさんは困るな……君の質問に答えるのは、俺にとってリスクがあると思ってくれ」


と、不思議な回答を受けました。

クリントさんの言葉は、嫌だというより事情がある感じでした。

それで納得することにしました。


いずれにしろ聞くべきことは聞かなれけばなりません。

ただし、たくさんは質問できないとなるといちばん大事なところから

質問するべきだと思った私は、魔導機関車についての構造的欠陥について

アドバイスを貰うべきかと思いました。


クリントさんは非常に特殊な魔法を使う方です。

召喚魔術を主としていますが、一般の方の召喚とは原理原則も違いますし

なにより召喚物が工作物を扱うという極めて変わった方です。

しかもその工作物は私はまだ一度しかみていませんが

あれは明らかにオーバーテクノロジーとでも言えばいいのでしょうか。

私の理解を遥かに超越した構造物です。



過去の話になりますが……


以前私は最近発明された火薬という物質を元に

矢ではなく金属の弾を射出するマスケット銃というものを考え

図面を引いてみたことがありましたが、

火薬を使うということで銃自体が爆発してしまう危険性を考え

作成には踏み切らなかった背景があります。


水晶球を作ったときも私は聞き馴染みのない

二酸化珪素という言葉を使っていたのを覚えています。

きっと彼は、私たちが知らない膨大な知識を持っているんだと思います。


しかし今日クリントさんからの言葉はそれをすべて語ることは出来ないと

先に釘を刺されてしまいました。

でも、全く話してくれないと言っているわけでもありません。


「おい、どうした? なにか聞くことがあったんじゃないのか?」


?!

気がつくと長々と私は頭の中で色々と考えすぎていたようです。


「ぜ、前回の魔導機関車なのですが……先生とも話し合ってですね……」

クリントさんは少しだけ片手を口に当てて考えるような風にして思考しているように見えます。

「地面に触れているときは粘着していて、離れるときには潤滑油を垂らしたかのように

 滑らかに地面から離れる物質はないか……という話をしたんです」


そういうとクリントさんは少しため息を付いて両目を閉じてしまいました……。

聞いてはいけないことに触れてしまったのかと私は戦々恐々としています。




しかしそういうわけではなかったようで、クリントさんは簡単に回答してくれました。

「そんな都合の良いものはない」

……流石にクリントさんでもこれは難しい質問だったようです。

「ははは……ですよねぇ……」

「そもそも勘違いしてるみたいだが俺は技術者でも科学者でもない。

 見知ってる程度のものはあるが専門家じゃないんだよ」


そういい、彼はぼりぼりと頭を掻いていました……。

私は納得できませんでした。


「そんなはずはありません! そうでなければあんな精巧な水晶を作成したり

 魔導機関車が横転しそうになった時に取り出した不思議なアイテムの説明が

 つかないじゃないですか!」


その会話にロレーヌさんもブラッシングを止めて参加してきた。


「そうなのよねぇ、私もよくわからない技術を彼はよく知ってるのよ。

 傭兵というよりは魔法使いのような、技術者のような。

 よくわかんない男よね……まぁそんなところが気に入ってるんだけれどもねぇ?」


そういい、色っぽい表情でロレーヌさんはクリントさんを見てました。

まるで女性として誘ってるかのような……ロレーヌさんは踊り子でもあると聞いてるため

そういった所作が日頃から身についてるのかもしれないと感じました。


ただ町の人達はそんなロレーヌさんの様子にびっくりしたり

……露骨に鼻の下を伸ばしてる男性も居ますが、クリントさんは

まるで石像かのように反応を示しません。


「戦いっていうのは半分が知識で半分が経験だ。

 十分な知識がないやつは相手の意図しない行動にハメられて死んでいく。

 経験は訓練も含まれる。当然訓練不足のやつは何をやらせてもダメだ。

 また経験から得る知識というものもある。

 俺はそれがたまたまいろいろ知る機会があっただけに過ぎないよ」


思った以上に得られた情報は少なく、少し肩を落としました。

でもクリントさんがこんなに饒舌に喋るのは珍しいなと感じました。

そんな事を考えてボケっとしてるとロレーヌさんはいいます。


「ふふっ、こうみえても彼、案外話したがりなのよ」

「誤解を招く表現をするな、俺は無駄なことは嫌いだ」


やはりこの二人はとても仲がいいなと思います。

しかしやはり取っ掛かりすら得られなかったかと少し落胆していたところに

クリントさんは水を飲みつつも目を閉じていいました。


「あんた技術者なんだろ、硬さと強さ。この言葉の意味はわかるか?」


硬さと強さ……何のことでしょう。

ある意味物体に対してはどちらも同じことを指しているように感じますが……


「じゃあもう一つだけヒントだ。ダイヤモンドは加工したことがあるか?」

「あります、とても硬いですが、ヒビが入ると一気に割れてしまう

 扱いの難しい物質ですね」


そうするとクリントさんは私の方を指さした。


「それだ。それはつまり硬いが脆い。じゃあ一方で鉄はどうだ?」


その試すような眼差しに私は答えた。


「ダイヤよりは硬さは劣りますが引っ張ったり叩いたりしても伸び縮みして

 簡単には割れませんね」


指をおろしてクリントさんの講座は続く。


「それが強さだ。鉄はその両方を兼ね備えている。

 じゃあもし柔らかくて強い物質があったとしたらどうなる?」


柔らかくて強い……車輪としての強度を保ちつつも接触面を維持しやすくなる!?

私は天啓を得たような気持ちになった!


「クリントさんありがとうございます!どうしてもわからなかったら

 また聞きに来ます!」

「おいおい、俺は何でも教えるわけじゃ……」


礼を終えた瞬間、胸の中に熱いものが込み上げてきました。

この感覚を逃したくなくて、私は工房に向けて一気に駆け出しました。


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