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魔王の弾丸  作者: eXi
第一章 出会いの書
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十六話 魔導機関車

「本当に全力でいいのか? また割れても責任は取らんぞ?」

「ええ、全力でお願いします!」


その瞬間、水晶玉から誰もがこの世で見たこともないほどの

まばゆい光を放ち、屋外にも関わらず世界はマナの光の奔流に包まれた。






剣と魔法の世界には似つかわしくない。

金属を加工する摩擦音や加工音が鳴り響く。


要塞都市サガルマルドの比較的中央部にあるミデサンの工房は

日夜異常な音や奇妙奇天烈な物品が並び、ミデサンの風変わりな性格から

あまり積極的に人を寄せ付ける空間とは程遠く

むしろ避けて通るものも多いその工房の入口には一際でかい

現代に例えるのであれば蒸気機関車の機関部のような装置が置かれており

そこには二人の技師がせっせと装置の改良に勤しんでいた。




この風変わりな男ミデサンだが、時の皇帝シャルルにはとても気に入られており

魔王討伐から日々の生活品まで、どのようなものでも構わないと言われ

研究に没頭する毎日を送っているのだが……。


一般人からしたら使い切れないほどの大金を毎月もらっているにも関わらず

高額な素材や古代の書物、他の都市への出張など散財に散財を重ね

日々の食費にも困る貧しい生活を送る、まさに変人であった。


そんな彼が何の気まぐれか、突如弟子と称して一人の娘を養子にとった。

彼女の名はフリーナといい、貧民街の子どもたちと会話していて馬鹿にされていたところを

突然養子にすると言って引き取ったそうな。


彼は言う。


「私は誰よりも努力をしてきた自負があるが、所詮は一介の凡夫に過ぎず

 彼女のようなものこそが真の天才なのである」と。



実際、ミデサンは極めて研究熱心であったが、彼が得意とするのは「改良」であり

新しいものを「生み出す」力に乏しかったのである。


この世界における弩は彼が弓から着想を得た「近代兵器」の代表であり

ここ最近では連射型の弩である連弩の開発に成功したばかりであった。


一方のフリーナはといえば彼に負けず劣らずの変人であった。

齢16になるにも関わらず、外見には無頓着であり

本来ストレートであるはずの黒い髪はろくに風呂に入らず油まみれの

作業をしているせいでぎとっとしており、変に癖っ毛のような状態になっていた。

当然服装もシャツに作業着を常用しており、一言で言えば汚い女だった。


誰もが彼女を指差し言う。

「ミデサンがミデサンより変な女を連れてきた」と。


おまけに幼い頃、自らの話をすると同年代の子供達は彼女の話が理解できず

時には嘲笑われることも多々あったため、物を言うのが苦手になり

話す時に吃ってしまうようになってしまった。


そんな彼女がミデサンのところに来てから初めて「理解者」を得られたのである。


そんな彼女はミデサンの下でのびのびと生活を初めたが

彼女は努力を苦としない性格であり、一日中休む日まもなく研究に没頭した。

結果、彼女が発明したものは数しれず。

ミデサンのところに来て三年、初めての発明が彼のかけているメガネからはじまり

試作品ながら火薬式のマスケット銃からはじまり

機械仕掛けの時計、水車を作り上げた。

特にメガネと水車はその需要から瞬く間に人間世界に広まり

水車は食料品の生産力の飛躍的向上に貢献したのは言うまでもない。


その彼女の三年間の集大成が今完成を迎えようとしていた。


ミデサンは言う。


「彼女は私が見つけた時に地面に多数の円を描きそれが稼働する『歯車』を

 既に自らの知識から生み出していた。彼女は歯車に愛されている」


その歯車をこれでもかと言うほどに搭載した魔導機関車。

難しい魔法構築を必要とせず、蓄えられたマナのみで走る

まるで蒸気機関車かのようなその装置はマナの効率性を上げ

その力から生み出されるパワーを源に車輪を稼働させて走る。

恐らくこの時代における初めての自動車の概念がここに生まれていた。


なお、この魔導機関車を完成させる前のプロトタイプとして

フリーナは蒸気機関による車両の設計図を描いていたが

その案を破棄してこの魔導機関車の作成を行った。


コレにはミデサンとの論議があった。

「蒸気機関であればマナの乏しい人間であっても誰でも使えるのでは?」

とのミデサンの問にフリーナは

「蒸気機関は動力効率が良くないです……それにメンテナンスも多岐にわたり

 結局専用の運用技術を持つ方が必要になります。

 なにより……魔王軍に押し込まれた私達には薪を無駄に使う余裕はありません。

 これらはまず先にマナを使えない一般人の暖を取ることや料理に使われることが

 望ましいと考えます……仮にこれが実用化されて配備された時

 燃料が木材であれば、皇帝陛下はきっと村人たちから日々の糧となる

 燃料用の薪も徴用するでしょう……その点、燃料がマナであればそのような心配は

 ありません」


「ふむ……」と眼鏡に指を当てて思考にふけるミデサン。


ミデサンは言った。


「確かにその懸念は最もだが、肝心のマナの供給はどうするかね?

 マナにする場合はその貯蔵庫が問題だ。エーテル薬ではそれこそ

 莫大な量を使用することになる」


するといつもは吃って声が出ないフリーナはスラスラとそれに回答した。


「マナであることは短所もありますが、自由度が高いという長所があります。

 機関部にはある程度自動的に停車時に自然上のマナを回収する機関を作ります。

 また稼働時においても車輪の稼働コストからマナを生成してマナの消費コストを

 軽減することができると思います。あとは膨大な魔力量を持つ魔法使いがいれば

 とても効率的に稼働することができるはずです」


その発案に唸るような声をあげながら頭に手を当てて室内を落ち着かずに

歩き回るミデサン。


「量産性より少数の性能重視を選ぶということかね?」

その問いにはっきりとフリーナは断言した。

「現状はそれがベストだと考えます。量産化は魔王が討伐され人間が

 豊かな土地を取り戻した上で行うべきかと」

そういいながらフリーナは蒸気機関車の図面を破り捨てた。

その「意図」を察してミデサンは言った。


「そこまでの決意ならもう止めまい、ただ開発は手伝わせてくれたまえよ?

 私も君の作る魔導機関車の完成をぜひいち早く見届けたい」










まばゆい光を街中にばらまきつづけたそのマナの光は

緩やかに収まっていき、次第にそれは収束した。


「すごい……これだけのマナを持っている人間がいることもですが

 それをすべて吸い取ったこの水晶も恐るべき性能です」


そんな感想を述べていたフリーナだが、急にその水晶をヤンは

フリーナに渡すと、地べたに座り込んでしまった。


水晶は未だに中央部が若干発光しているものの、緩やかに消失しつつあった。

それは水晶が莫大なマナを取りこぼし無く吸い取っている証左である。


大切に水晶を抱えつつもしゃがみ込んだヤンを心配するように自らもかがんで

ヤンの目線に合わせて問いかける。

「大丈夫ですかヤンさん?!」


ヤンにしては珍しく汗をかいており、目を閉じて呼吸を整えていた。

「大丈夫じゃわい……しかし最初はなんだかんだで若干手加減しておったんじゃが

 全く手応えがなくて全力を出してもマナを吸い取られる一方でびっくりしたぞい」

「ヤンさんのマナ量にもびっくりでした……でもおかげでめいいっぱいマナを蓄えられたみたいです」

「……みたいじゃな」


フリーナの手元にある大きな水晶玉は未だにマナの光を放っていた。


「これを装置に取り付ければ再稼働できそうです! ありがとうございました!

 あ、この後試走をしたいので良ければヤンさんも来てください!」


そういうとバタバタと足音を立ててフリーナは立ち去っていった。


「最近飲んだくれてばっかりおったからなぁ……ああいう年寄り使いが荒いぐらいの

 若いもんがおるとこっちも張り合いが出るというものだな」


そういうヤンの顔は疲労感以上に野心的な笑みが浮かんでいた。









そして昼下がりの時間。

フリーナは皆を招待してのお披露目会を開催した。


「え、えっと……今からこの魔導機関車の試走をしたいと思うのですが……

 良ければ皆さん乗ってみませんか?」


高い煙突に加え、カラクリじかけのたくさんついた車輪と違和感づくしの

鉄の塊に対して三者三様の反応を見せたが、結局全員が乗車することとなった。


文句を言うものは全員ロレーヌに言いくるめられたのだ。


「ち、ちなみに馬より倍ぐらい早いので、皆さん振り落とされないように

 気をつけてくださいいぃ」


そういうとフリーナは魔導機関車をゆっくりと発信させた。


この機関車には通常イメージされるものとは違い、後輪に操舵機能が存在するため

レールの上でなくとも自在に街の中を駆け抜けていく。


そして街の外の手前、城門間近までくると再び来る時に通過した関所を通過した。

もちろん同じ場所を通ったのは同じ説明を二度するのが面倒だったからである。


関所を通過し、石畳の道から土の道に切り替わるとフリーナは言った。

「ここからは加速テストをしたいと思いますので皆さんしっかり捕まっててください!

 全速力で走らせますよ!」


そういうと先程は町中ということで馬が歩く程度の速度で走らせていたのを

一気にフリーナはフルスロットルにまで速度設定を上げた


鉄製でできた車輪は激しく空転し、砂埃を巻き上げつつも徐々に加速していく!

そしていよいよトップスピードに到達しようとした時である。


最初に異変に気がついたのはクリントだった。

「まずい、みんなどこかにしがみつけ!」


クリントが声を上げるのとほぼ同時に車両はグリップを失い

激しく空転を始めた!

慌ててフリーナは原則を試みるが車両は激しく回転を続けており

そして横転しそうという瞬間である。


ドガーーーン!!!


クリントは瞬時にバズーカ砲を生成し、反動で車両は転倒を辛うじて防ぐ事ができた。


「……流石に今のは俺も冷や汗が出た」

「転倒してたらアレ、私達やっぱり……アレよね?」

「すみませんですぅぅ」


停車した機関車に寄り添いつつもフリーナは申し訳無さで泣きじゃくっていた。

しかしまだ誰もこの四人が成し遂げる物語を知る余地もなかった。

ここまでで第一章、出会いの終わりとなります。

続きは第二章、冒険の書で会いましょうということで

しばらくはストックをためたいと思いますので

良ければ評価やブックマークなどいただければ幸いです。

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