序章
「“ ”兄さん頑張っているね」
そう聞こえ振り返る。そこいは、弟の“ ”がいた。俺は振り返り元気よく答える。
「当たり前だろ。こんなので、疲れていたらこの役割もやっていられないからな」
弟は軽く笑みを浮かべながら、玉座に座って作業している俺に近寄ってくる。
そして弟は俺を気遣うように言った。
「そのようでは、体を壊してしまいますよ。一旦休憩してはどうですか?」
「嫌、大丈夫だ。この“調停者”の役割もようやく慣れてきたところだ。もう少しやっておきたい。」
「わかりました。頑張ってくださいね。兄さん。」
弟に気づかわれてからしばらく時間がたった。かなりの時間集中していたため体に大きな負担がかかっている。そんな様子を見て、弟は手を貸してくれる。本当にできた弟だと心底思う。
だが、そう思うのも後、数分なのだった。
「ところで、私たちがこの座についてどれくらい経ちましたっけ?」
弟がそのような疑問を聞いてきた。そんなことは考えたことがなかったから戸惑った。しかし、過去を振り返り思い出してみると、懐かしく思う。
「どうだったかな。確か1000年ぐらいな気がするぜ」
「調停者の座は兄さんが受け持ったから、私はその下働きになったんでしたよね」
「言い方は悪いがそういうことだな。あの頃は懐かしいぜ。神なんて存在しないと持っていたし」
そうあの頃の俺たちは、神なんて信じていなかった。自分たちの力がすべてだと信じていた。だから、俺は努力した。自分がなんでもできるように。人との関わりも気お付けた。兄弟のために。他人の協力なんていつ裏切られるかわからない。家族いや兄弟こそ唯一信じられるものだと思っていた。それは今も変わらない。俺はそう思っていたよ。
グサっと鈍い音がした。俺の腹に剣が刺さっている。今の状況が頭に入ってくるまでに時間がかかったがようやく理解した。俺は弟に刺されたのだ。
「グハ」
今、俺は唯一信じていた弟に裏切られた。痛みが全身に走る。意味が分からない。俺は必死の思いで叫んだ。
「なぜだ!なぜ俺を刺した!」
「なぜってあなたの“調停者”の座を奪うために決まっているではありませんか」
薄気味悪い顔で俺の質問に答えた。今まで見てきた弟とはかなりの違いようだ。これが、俺の弟かと疑うほどに様変わりしている。
「実の兄だぞ。“調停者”の座を奪うという理由でまかり通る理由にならない。もしかして、お前操られているのか!」
突然の裏切りで悲しみの感情と死への恐怖から怒りが収まらない。
だが、冷淡な視線をこちらに向かけて答える。
「そんなわけないでしょ。私はただ、あなたが嫌いだった。憎かった。才能を持ちながら、努力する力もあり、人格までよい。はっきり言って自分が劣っているように見えるのですよ。うざい、最悪、理不尽。だから、殺すのです。今まではあなたに付き従ったのもこの機を待ち望んだからです。私の願いのためにも死んでください。さようなら兄さん。いままでありがとうございました」
殺される瞬間弟はいままでに見たことがないほど恐ろしい顔していた。
まさに恐怖の権化を具現化したような姿。
「マジかよ」
俺は悔やみながら最後の言葉を口にするのだった。
スパっと首が飛んだ。そして、兄“ ”は死んだ。
「ハハハハハハハハ。兄さんはこれで死んだ。“調停者”の座は俺のものだ。やっとだ、俺の夢が願いが叶う。実現する。」
弟は兄の亡骸を蹴り飛ばして、玉座に座った。そして、また高笑いしながら言った。
「それでは、ゲームを始めよう」
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「次のニュースです。昨日の午後9時ごろ春宮市内で“ブルーマンデー”の犯行とみられる殺人事件が発生しました。警察によりますと被害者は春宮市に住む3人家族であり、母と娘一人の死体が発見されたようです。調べに対し警察は、・・・・・・」
「また“ブルーマンデー”の事件か。気お付けるんだぞ。楊」
「お父さんのいう通り気おつけなさいよ。楊」
「わかっている。行ってくるよ。親父。おふくろ」
そう言って俺は家を出た。
俺は高校に通う17歳の嘉志 楊。親父の名前は嘉志 湯信。おふくろは嘉志 貴美子。
嘉志家は家族3人の普通の家庭だ。今まで、特別なことがあったわけではない。ましてや、危機的状況になったこともない。この生活がいいと思う人もいれば、悪いと思う人もいるだろう。俺は後者の考え方だ。普通といえば聞こえはいいと考える人が多いと思うが、それは刺激がないということでもある。だから、普通は好きではない。いや、嫌いだ。だが、家族が嫌いではない。自分のことを唯一認めてくれて、素でいられる人だからだ。
なぜこんなことを考えているかというと・・・・・・
学校に着いたからだ。学校は俺を縛る。そして、“自由”を奪っている。刺激もない、感情の高揚もない一番つまらない場所だ。退屈な場所と定義するのがいいだろう。
そう思いながら校舎に入ろうとしところ。
「うす。嘉志。相変わらず顔が死んでいるな」
こいつは、亀ヶ谷 健介。クラスメイトだ。クラスの中心的人物であり、身長も俺と同じくらい高くてイケメンだ。だからか、高校入ってから彼女がいなかったことがないらしい。それでいて、人当たりがいいからと周りのやつらに人気だが俺は嫌いな人種だ。亀ヶ谷言っていることにうさん臭さを感じる。あと、最近いい噂を聞かないが、もともと築き上げた信頼で話題になっていない。俺はふとした疑問を聞いてみる。
「自慢の彼女どうした。いつもなら一緒に登校しているだろう」
「ああ今日、あいつは風邪をひいたんだ。だから、俺が一人で来たってことだよ」
一瞬間があったように感じたが、気のせいか。俺はこいつが嫌いすぎて疑り深くなったのか。
気にしてもしかたがないと思いつつ、こいつとクラスに向かった。
教室に着いた俺たちは、それぞれの座席に向かい座る。
「今日のニュース見た?」
「見た。見た。ほんと怖いよね」
「春宮市にも“ブルーマンデー”がでたって聞いたぞ」
クラスでは“ブルーマンデー”の話題で持ちきりだった。“ブルーマンデー”。毎週月曜日に猟奇的な殺人事件を起こすことから名付けられた。半年前から起こっている事件であり、すでに78人の犠牲者が出ている。その殺人鬼がとうとうこの市にやってきたのだ。話題になるのもしょうがない。警察は何をしてんだっていう話だがやっと犯人につながる手がかりを見つけたとニュースキャスターが言っていたため安心だろう。
ガラガラガラと教室のドアが開き、先生が入ってきた。
日直は号令をかける。
「おはようございます」
日直に続き俺たちも言う。
「おはようございます」
つまらない一日の始まりだ。
四時間目の授業も終わり、友達と昼食を食べる。友達は少ないが、俺は狭く深い関係を友達で作っていた。たわいのない話、つまらなさは紛れるが俺が求めるものは手に入らない。
五・六時間目も終わり、家に直で帰ろうとしたところ担任の先生に呼び止められた。
「嘉志。お前この前の中間考査で赤点取っただろ。今日補修だからな」
とかなり口をとがらせて言った。内心最悪だと思いながら返事をした。
「はいはい。わかりました」
自分でも思うが学校では素行が悪いし、ひねくれていると思われているため、先生からは厳しい目で見られている。これは俺なりの学校への反抗の仕方であり、学校に縛られていないことを示しているのだ。
「つまんないな」
そんなこと思いながら重い足を動かすのだった。
そんなこんなで補修も終わり、今日の学校生活が終わった。相変わらず授業はつまらないし、特に何も感じない一日だった。帰るときに補修で呼び止められるのは予想外だった。そんなことを思いながら帰る。
「こんな生活を壊してくれないかな」と神に願う。意味がないことなんて理解しいるし、神なんていないと思っている。所詮は偶像だ。誰かが見たわけでもない。会ったわけでもない。そんなのを信じるほうが間違っていると思うのだ。だが、このときは違った。本気でこの退屈な人生に終止符を打ってくれないかって。でも、何も変わらない。当たり前だ。最初からそんなものはいないのだから。
「ただいま」
「おかえり。楊。ご飯できているけど食べる」
「先に食べるよ」
洗面所に向かい、手を洗ってから食べる。
「いただきます」
「いただきます」
後から続いておふくろが言う。今日は補修があっていつもより頭を働かしたからいつも以上にご飯が進む。
「楊。今日帰るのがいつもより遅かったけどどうしたの?」
「補修をくらって帰るのが遅くなったんだよ」
うちの家庭は勉強にはうるさくないため気楽だがこのままというわけにもいかない。17歳であり、来年は大学受験をしなければならない身なのだ。でも、俺の成績は下から数えたほうが早い。だから、今からでも少しづつ勉強しないといけないと思っている。おふくろと親父にも心配かけたくないし、安心してもらいたい気持ちもある。
「今日は楊の好きなハンバーグなんだけどどうかしら」
「とてもおいしいよ。また作ってほしいな」
「そんなに気に入ったのならまた作ろうかしら」
「期待しているよ」
そんなたわいのない話をしながら夕食を食べた。
「ご馳走様。また作ってくれよ」
「お粗末様です。わかったわ」
おふくろは上機嫌で言った。
ご飯を食べた後はお風呂にはいり、明日の身支度をした俺は自分の部屋のベットで寝転がって目をつぶっていた。
そして、目を開けたら知らない場所にいた。周りを確認しても自分の部屋らしきものはなく、ただ目の前には大きな玉座があった。あまりにも非現実的なことが起きていたが、自分の心の中にはとてつもない高揚感があった。心臓が高鳴り、高笑いしそうなくらいだ。
玉座に座っていたものが動き出しこちらに近づいてくる。
「我は神“タナトス”であります」
その言葉を聞いた瞬間、俺は退屈な人生に終止符が打たれることを悟り、俺が求めているものが手に入るのだと思った。それと同時に今までにないほどの高揚感とうれしさが俺の心の中を突き刺した。
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