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 ちらちらと時計に目をやりながらトラックを走らせる。凪は代わり映えのない外の景色に飽きてしまったのか、車内を物色し始めた。

 

「飾り気のないトラックですよね」

「飾ってどうする。飾るのは好きじゃない」

「ぬいぐるみとか置きましょう」

「嫌だよ」


 そういえば美海もぬいぐるみが好きだったと思い出す。王道の動物から意味不明なものまで色々集めていた。手足の生えた大根のぬいぐるみがベランダに干されているのを見た時、陸は我が目を疑った。

 

「6時半に倉庫に着けばいいから……まだ時間余裕ある。次のサービスエリアで休憩しよう。ケツが痛くて」

「痔ですか?」

「違うわ。そのうちなるかもしれないけどまだなってない。あるだろ? ずっと座ってると痛くなること」

「ないです。前回は寝たきりの老人の枕元に2年半ほど座っていたのですが、大丈夫でした」

「2年半も……休みなく?」

「ええ。それが私の初仕事でした」


 凪はともかく、陸は4時間おきに休憩を挟まねばならない。「挟まねばならない」と言っても道路の状況や駐車場の空きなど、様々な事情からそう都合良く休めないことも珍しくない。休んでいては運べる荷物も運べないこともある。


 今回も案の定、サービスエリアの駐車場は埋まっていた。海ほたるまで我慢するかと諦めかけた時、ちょうど1台のトラックが出ていった。陸はすかさず空きたてのスペースに突っ込んだ。今日は『見事な死相』が出てることを除けば運が良かった。長い渋滞もないし、意外とお喋りなお供もいる。

 

 小雨の降るなか、陸だけがトラックから降りた。凪いわく、死の姿は他の人間には見えないらしく、食事や排泄も必要ないので待っている方が良いとのことだった。

 トイレを済ませ、手洗い場の鏡と向かい合う。先ほどよりはいくらか顔色がマシになっていた。だが相変わらず目の下の隈は酷いものだ。


 ――幻覚でも見てるんじゃないのか? とうとう頭がおかしくなったか?


 そう自分に問いかける。もしかしたらトラックには誰もいないのかもしれない。すべて自分が頭の中で作り出した幻なのかもしれない。いや、そうに違いない。そんなことを考えながらトラックの前まで来ると、助手席に凪の姿は無かった。もちろん運転席にもいない。凪は消えていた。


 ――ほら、やっぱり幻覚だ。


 安心するべきなのか、怖がるべきなのか、寂しがるべきなのか、よくわからなかった。ただ、心にぽっかりと穴が開いたような奇妙な喪失感だけが残っていた。

 小さくため息をつきながらトラックに乗り込み、そういえば座席後ろのベッドスペースに食べ物を置いていたなと思い、カーテンをめくった。


「あ」


 寝そべっている凪がいた。「バレたか」とでも言いたげに声をあげる彼女をよそに、陸はコンビニのビニール袋を引っ掴むと、無言で再びカーテンを閉めた。


「無視ですか」


 カーテン越しに凪の声が聞こえてくる。嬉しいような悲しいような、なんとも言い難い感情が頭の中で渦巻いている。


 ――美海?


 もう一度カーテンを開ける。やはり凪は無表情のまま寝そべっている。いたずらを企てているようには見えない。真っ黒な瞳がちらりとこちらに向けられる。


「やっぱり――」


 陸は言いかけてやめた。事実がどうであれ、今彼女は別人としてここにいるのだ。何かしらの事情があるのだろう。それにそもそも眠いだけかもしれない。


「なんでもない。もしかして眠い?」

「寝る必要はないです。人間ではないので」


 凪は淡々と答える。

 

「じゃあなんで」

「興味本位です。楽々足が伸ばせるんですね。ちょっと寝心地悪いですが」


 陸は再び無言でカーテンを閉めた。


 ――別人だ。別人……


 

 


 


 





 

 

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