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【5/16~ コミカライズ連載開始!】悪役令嬢になりましたが、何か?【完結済】  作者: みなと
最後の仕上げへと

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友人への協力要請と謝罪と

 さて、何をどうしたものか。

 まさかハイス侯爵夫妻がこちらに助けを求めてくるとは思ってもみなかった。


「……と、いうか……」


 フェリシアは、部屋で一人呟いた。


「助ける、って……」


 どちらにせよ、イレネの時間は残り少ないのだ。

 何せ前回、がっつりと寿命を吸ってしまっているから、救うにしても多分普通には救えない。


「……」


 どうしたものか、と掌にある刻印をじっと見る。

 今のイレネはヒロインであることを思いきり有効活用しているし、所謂物語の『強制力』により、どれだけフェリシアが国のために尽くそうともそれをひっくり返してしまえるだけの民意を味方につけている。

 それはそれでいい、そのまま突っ走れば我に返った人達にも、とても愉快な絶望を味わわせられるから。


 何かの力が働いたとはいえ、イレネの言うことをただ信じ、従い、こちらを排除にかかるのであればそれはもう『敵』でしかない。


 フェリシアは、己の信じている道を進むのみ。


「まぁ、救いにも色々あるわよね」


 手にしていたペンをデスクに置いて、決裁を済ませた書類を父のところに持っていく。

 フェリシアが実務として公爵の業務に取り掛かっているとはいえ、まだフェリシア自身は公爵を継いでいない。

 父ベナットの執務室まで歩いていき、ノックをすれば室内から『どうぞ』という声が聞こえる。


「お父さま、失礼いたします」

「フェリシアか、おいで」


 扉を開けて室内に入れば、巻き戻った頃よりは老けたけれど、フェリシアに対してはいつだって両腕を広げて迎え入れてくれる優しい父の姿。


「わたくし、もう小さな子供ではありませんことよ?」

「分かっているさ、だが……いつまで経っても、親は子が可愛いんだよ」

「もう……」


 笑いながら、ベナットは優しくフェリシアの頭を撫でる。

 ふ、とフェリシアは表情を緩めたが、すぐに気持ちを切り替えてベナットを見上げた。


「お父さま、今後についてを改めてミシェルにも報告したいのですが……よろしくて?」

「……そうか、頃合になっていたのか」

「はい」


 ミシェルにはある程度報告もしていたし、情報共有もしていた。

 だが、リルムに報告するよりは少なくしていたために、計画が本格的に動き始める前には行動に移していた方が良いのでは、と判断したのだ。

 あまり情報共有をしなかったのは、ひとえにミシェルが文官資格を取ると決めていたからなのだが、ある日突然『ついでなら上級文官資格をとって、国政に携われるようにしておこうかしら』と言ったから、なのだが。


「ミシェルのご両親も含めて、近々説明をしたいと思います。わたくしたちが、この国ごと切り捨てるための『物語』を」

「あぁ。イレネ嬢が、今のこの状態を『決められた物語』だというならば、我らは新たな物語を紡ぎ、そちらへと移動するだけの話だからね」

「えぇ。そのためにあのお馬鹿さんにだけは気付かれないように慎重に皆、行動してきたのですから」


 ふふ、とフェリシアは楽しそうに笑った。

 何もしていない人にたいして悪役と罵り、フェリシアのことを『カディルと幸せになるための踏み台』として扱おうとしてみたり、二度目の今は何をとち狂ったのか無理に時属性魔法を使っているが、イレネの使用している魔法はあくまで紛い物。

 フェリシアやベナットが使っている魔法とは相容れないくらいに、質が違うものだ。

 しかし知らない人からすれば、『イレネが時属性魔法を使っている。すなわち、イレネはローヴァインの血縁なのでは!?』とも見えるが、本質を知っているローヴァイン一族は相手にしていない。相手にしていないこと、イコール、『嘘ではない』なのだが……イレネによる強制力だかなんだか分からないが、イレネの周りの人達は、聖女の時属性の魔法の力は本物だと信じる人ばかりとなっている。


「都合のいいことばかりを信じる輩が多いものだな」

「……そうした方が、生きやすいですから」


 ふ、とフェリシアは寂しげに笑う。

 巻き戻す前、揃いも揃ってイレネの言葉を信じ、どれだけ王家や国に尽くしたと叫んでも聞き入れず、ありもしない罪ばかりをでっち上げられ、ただ、殺されるのを待っていたあの時。


「あの時も……殿下や民衆、国王陛下は、イレネの言葉だけを信じていた」

「……そうだな」


 ベナットやユトゥルナがいれば、ある程度話を聞いてくれていたのだが、イレネが絡んだ途端に皆揃ってお馬鹿さんになってしまう。


「だから、そうならないように行動した。結果、イレネにとっては最低最悪の結末でしょうけれど……知ったことではないわ」


 ぐぐ、と強く拳を握るフェリシアは、あまり力が入りすぎないように大きく深呼吸をして、気持ちを切替える。

 前回のようなことにはならないよう、色々なことを調整したうえで、最後の仕上げにかかる。そのためにはミシェルの力だって必要になるのだから。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「フェリシア」

「……」

「ねぇ、わたくしの大親友、フェリシア」

「……」

「返事をなさい!」


 後日、ミシェルをはじめとしてアベリティス侯爵夫妻も一緒に招待して客間に通し、諸々の現状を伝えたところ、ミシェルが激怒した。

 そして、フェリシアは物凄い勢いでミシェルから視線を外している。


「(あなた、フェリシアがとってもばつの悪そうなお顔だわ)」

「(珍しいね)」


 うんうん、と頷いているベナットとユトゥルナはとっても冷静に娘とミシェルの様子を見ているのだが、アベリティス侯爵夫妻はとてつもなく冷や汗をかいている。


「み、ミシェル。ほら、フェリシア嬢だってお前のことを想って、だな」

「そうよミシェル、ちゃんと教えてくれたんだし」

「お父さまとお母さまは黙ってて」


 両親にも容赦のないミシェルの怒りは、思ったより大きい。

 おずおずとフェリシアが視線を戻せば、まさに般若のごとき形相で自分を睨んでいるミシェルと視線がかち合ってしまった。


「あう」

「ああ、ようやくこっちを見たわねわたくしの親友」


 向いた瞬間、どこにそんな瞬発力を持っていたんだ、という勢いでミシェルがフェリシアの頭をがっちり掴んで固定し、無理やり視線を合わせているのだがミシェルの迫力がとてつもない。


「ミシェル、痛いんだけど」

「痛くしてるのよお馬鹿さん」

「……だって」

「何よ」


 ミシェルの時間を、奪いたくなかった。

 彼女には明確な目標があって、上級文官資格を取りたい、と聞いていたからそちらを優先してほしかっただけなのだ。

 だが、結果としてミシェルは怒り狂っている。


「……邪魔、したくなかったのよ」

「そうね、わたくしの夢の上級文官資格はきっちりと取ったわ。……でもね、フェリシア。肝心なところであなたはとってもお馬鹿さんよ」

「……え」


 不意に、ぼろりとミシェルの目から涙が落ちた。


「ミシェル……?」

「わたくしを、舐めないで!」


 悲鳴のように叫ばれた言葉に、フェリシアは驚いて目を丸くした。


「このわたくし、ミシェル=フォン=アベリティスを舐めないで、って言ったのよ! 馬鹿フェリシア!」


 あまりの驚きにフェリシアが何も言えないままでいると、ミシェルは勢いよく反論させる暇もなくつらつらと言葉を重ねていった。


「文官資格を取りたかったのも事実だけど、あなたの力になることの方が大事よ! 資格取得が一年遅れたくらい、自分の実力でどうにかできるわ、でもね!」

「……っ」

「あなたの助けに……『今』なれないのは……嫌なのよ……」


 ああ、迂闊だった。

 フェリシアはすとん、と今の気持ちのやるせなさが、胸の奥に落ちた。

 大切な、学園に入学してからの一番の友達を、傷つけてしまった、なんて。友人を優先したつもりだったけれど、その行為そのものがある種の思い上がりだったんだ、と今になってようやく分かった。


「ばか! フェリシアの、大馬鹿!!」


 テーブルをはさんでいるから、ミシェルの体勢はとてもきついに違いない。しかし、そんなこと気にもしていない様子でミシェルがフェリシアに対して気持ちをまっすぐぶつけてきているから、フェリシアも真剣に答えなければいけない。


「……ミシェル、ごめん」

「何に対しての、ごめんなの」

「あなたの気持ちを、わたくし、分かっていなかった」

「……」

「……ごめんね」


 フェリシアは手を伸ばし、ミシェルの体に浮遊魔法をかけて、自分の膝に移動させて乗せてから、ぎゅうっと抱き締める。『ちょっと!?』とまたミシェルが怒ったけれど、フェリシアは何より謝罪を優先させようと考えた。

 そして、自然とフェリシアの頭の位置がミシェルの胸元付近にあるため、ミシェルはじっとフェリシアのつむじを見下ろしつつ手入れのされた髪をそっと撫でた。


「…………ごめん」


 そういえば、まだ初等科のころに大喧嘩をして、こんな風にフェリシアがミシェルに謝ってきたことがあったな、と思い出してよしよしとフェリシアの頭を撫で続ける。

 そうしていると落ち着いてきたのか、けれどフェリシアが本気で反省して、しかも泣いていたようで『ぐす』と鼻をすする音が聞こえた。


「(あなた、あなた、フェリシアが!)」

「(ミシェル嬢の前では年相応というか、一人の女の子、だね)」

「(まぁ……なんて可愛らしい)」

「(意外な一面が……あるんだねぇ……)」


 各々の両親がそれを見てほっこりしているのを、本人たちは理解するとじわじわと恥ずかしさがこみあげてきていた。


「フェリシア」

「……重ね重ねごめんなさいねミシェル」

「離れてくださらない?」

「いや」

「フェリシア!!!!」


 いつになったら、うちのフェリシア様は本題を切り出してあれこれ話すんだろう……と、執事長とメイド長は気配を消しつつ考えていたりするが、四人はそれに気付いていなかった。


 ――フェリシアが気付いて、ミシェルも呼吸を合わせたように気付くまで、残り、五分くらい。

ミシェルに対しては甘えっこになれるフェリシア。

リルム様に対しても甘えるけれど、付き合いの深さでいけばミシェルが一番なんです。

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