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【5/16~ コミカライズ連載開始!】悪役令嬢になりましたが、何か?【完結済】  作者: みなと
学園編

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二度目の初めまして

 カディルに干渉されない生活がこれほどまでに快適だとは……!と、フェリシアは一人心の中で嬉し泣きをしながら拳をぐっと握り締める。

 テストの面倒も見なくていい(フェリシアは前回学園に通っていないにも関わらず課題をさせられていた)、魔力操作の下手くそ極まりない練習に付き合わなくてもいいだけでこんなにも快適なのね!と内心喜び踊る。


 確かに、カディルは授業の成績は良かった。


 だが、一筋縄ではいかないのが王立学院。

 課題に関しては授業で習ったことを覚えている、あるいは応用できる前提で、普通に調べても分からないような課題が山盛り出ていたのだ。

 基本はできているカディルだが、応用ができない。

 頭が固いから、例えば『AをBに変えるにはどうしたらいいか』という質問に対して、『変えなければいい』と返す頓珍漢っぷりを発揮したりもした。


 変えなければいい、という答え自体がそもそも問題の趣旨に合っていない。

 どうやって変えたらいいか、に対しての答えが返されないから学院側の採点は当たり前だが『間違っています』というものになってしまう。

 これが嫌だったカディルは、フェリシアに『お前やっとけ』と課題を丸投げしていたのだ。そもそも通っていない学院側の意図なんか分かるはずもなく、フェリシアは色々と調べ、丁寧な答えを作っていたのだが、これが学院で大ウケ。結果としてカディルはまたフェリシアに頼む、という流れが出来てしまっていた。


「授業を受けたら分かるのだけれどね……」


 午前の授業が終わり、とんとん、と教科書を整理してから机に入れる。


施錠(ロック)


 盗難防止のために自分の机には鍵を。

 入学して教室に入ってまず言われたのが、これだ。


 クラスによって取り扱う教材が異なっているから、うっかり盗難でもされればまた買い直すことが必要になってきてしまう。教材といえど値段はそこそこする。だから、自分の身は自分で守れ、持ち物を守ることもそうだ、というのが学院側の思っているところらしい。


「……よし」

「フェリシア、鍵はかけまして?」

「えぇ。お昼に行きましょう」


 フェリシアに声をかけたのはミシェル。

 入学式の後、ミシェルを家に招待してお茶会をし、フェリシアから『友となってくれないか』と申し出たところ『是非』と快諾してもらえたのだ。

 しかしミシェル曰く、『私の方がフェリシアと先にお友達になりたいと思っていたのよ!』だそうで、二人で顔を見合せて、クスクスと笑ってしまった。


 会話のテンポもそうだが、話す内容のレベルが同じだから、とても会話がしやすい。

 フェリシアもミシェルも、知識に対しての欲がとても大きいから、二人であれこれ論議したり、図書館で勉強したり、でも時には女の子らしく買い物に行ってみたり、と色々できている。

 ちなみに、学院でのお昼は、二人で食べることが常になっていた。


 カディルはどうにかして二人の邪魔をしたいらしいが、そういうタイミングで二人を守らんとすべくやって来るのがリルム。


『あらぁ……、またフェリシア嬢にいちゃもんをつけるつもりかしら?』とリルムがガンを飛ばしながら睨むとすごすごと去っていく。

 それにフェリシアはお礼を言い、流れでミシェルを紹介したところ、リルムが去ってからミシェルから泣きながらお礼を言われた。

 なお、ミシェルの父からもお礼状が届いた。『ローヴァイン公爵令嬢の友のご両親ならば、信じるに値するに十分な方々だ』と、王家主催のとあるパーティーでリルム直々に声をかけてくれた、ということらしい。

 王家主催のパーティー、はて、そんなものがあったのか、と首を傾げていたフェリシアはユトゥルナに聞いてみる。


「あぁ、国王陛下が側妃様を正式に王妃代理として取り扱うことのお披露目パーティーよ。参加資格が限られていたから、さすがのフェリシアも参加出来ていなかったの、ごめんなさいね」


 と言われた。

 そういえば、父と母が何やらめかしこんで出かけていたな、とフェリシアは思い出し、納得する。

 なるほどそんなパーティーが、と思う一方、どうやらリルムとその母リーリエにとっては、ローヴァイン公爵家としてのあの行動は、とてつもない好印象だったらしい。

 裏に叩き落とされていた側妃と、才能ある王女。王妃を跳ね飛ばし、王太子になりかけていたカディルも今や単なる第一王子、というだけで王太子にはもうなれない。

 自滅の道を自ら歩んでいるのだから、どうにもこうにも救いようがないのだから。


 つまり、日陰にいた存在を引き上げたのがローヴァイン公爵家であり、立役者はフェリシア。そしてベネットとユトゥルナ。


 思いもよらない友人一人ゲット、とフェリシアは思いつつ、『頼りにもなるし便利でもある人が味方になってくれたものだ』とまた密やかに笑う。


 前回では有り得なかったことが次々に起こっている。嗚呼、なんと楽しいのだろう。そう思っていると、隣から指が伸びてきて、むに、とフェリシアの頬がつつかれた。


「んむ」

「悪いお顔をなさっているわよ?」

「ちょ、ミシェル、ツンツンしないでちょうだい。んむむ」

「やだフェリシアのお肌ふにふにしてる」

「柔らかいところをつついてるのだから、それはそうよ。んむ」


 その様子を見た他の生徒たちからは『見て、お二人は相変わらず仲がいいわ』や、『あそこに交ざりたいけれど我が家では到底釣り合わないわ』などという声が聞こえてくる。

 羨ましがられても大したことはないけれど、と思いながらもフェリシアは時にはこうして子供らしく振る舞うことも大切だ、と学んだ。

 こうしていると、簡単に釣り上げられる。


「……恐れながら、申し上げます」


 フェリシアとじゃれていたミシェルがぴたりと止まり、雰囲気がじわりと剣呑なものになっていく。


「学院といえど、高位貴族であるお二方がそのような幼稚な振る舞いはいかがかと思いますわ」


 そう、やっと引っかかった。


「………」

「………」


 フェリシアもミシェルも、黙ってイレネの言葉を聞いている。

 あまりに無反応だから、イレネは段々とイラついてきたらしく頬を引き攣らせながら更に言葉を続けた。


「聞いておられるのでしょうか」

「……」

「公爵家令嬢ともあろうお方が、わたくしを無視するの?!」

「……フェリシア、答えてあげたら?」

「嫌よ」


 きっぱりと言い放たれたフェリシアの台詞に、イレネは愕然とする。


「え……?」

「こちらが良しとしていないのに勝手にベラベラ喋っている奴の話を、どうして私が聞かなければならないのかしら」

「な、っ」


 カッとなるイレネだが、フェリシアは更にこう続けた。


「学院は身分問わず、学生であるうちは平等たれ。学院長のお言葉よ」

「だからそれは」

「それと、私とミシェルが学生生活を楽しんで、貴女に何の影響があるというのかしら」

「そ、それは」

「クラスも違うお前に、何をどう、まるで弁明するかのような行動を取らねばならないの?」


 ぷっ、と誰かが噴き出した。

 イレネは勢いよく振り返り、その人を探そうとするが簡単には見つからない。

 昼食時なのだ。学院のありとあらゆる生徒が集まっているこの場で、噴き出した一人目を探そうだなんていう方が無理なのだから。


「~~~っ」

「仲良くもないお前が、どうして私とミシェルの大切な時間を奪いに来る権利を持ちえているのかしらね」


 はぁ、とわざとらしくため息をついてから言うと、ずんずんと歩いてくる人が。

 あぁコイツか、と思っているとその人物はイレネを庇うように前に立った。


「俺の婚約者だから、礼儀をお前に教えてやろうとしただけだ!立派な行動をお前が咎めるというのか!えぇ?!」

「…………………………馬鹿が湧いた」


 とてつもなく低い声で、恐らく聞き取れたのは隣にいたミシェルだけだろう。

 フェリシアの暴言に笑いそうになるのを必死に堪えながら、まるで体をはって止めようとするかのごとく、フェリシアにミシェルは抱き着いた。


「(笑わせないで……!)」

「(だって馬鹿じゃないのアイツ)」

「(そうだけどね、そうなんだけど笑いを堪えるのが大変なのよ!)」

「(あらやだうっかり)」


 ひそひそと内緒話をしているのが気に食わなかったらしいカディルは、フェリシアとミシェルの昼食が置かれたテーブルを思いきり拳で殴りつける。

 きゃあ!と小さな悲鳴と、ガシャン!という大きな音が響いて食堂はしん、と静かになった。


「まぁ……とぉっても乱暴ですこと」


 フェリシアの愉しむような声が、ただ一言響いた。


「さすが、私に殴り掛かり、更には髪を鷲掴みにして引っ張り、振り回したお方ですわ」

「な、っ」

「フェリシア、殿下に謝りなさいよ!」

「…………はぁ?」


 イレネに呼び捨てにされたフェリシアの、眼光がとんでもなく鋭くなる。


「っ、え」

「誰が、呼び捨てにしていいだなんて、言ったの?」

「あ、の」

「お前は、公爵令嬢たる私に……いえ、わたくしに、何をどう意見するつもり?」

「み、身分を、盾に、するなんて」

「最初に身分の話を出したのはお前よ、ハイス侯爵令嬢」


 立ち上がり、フェリシアは一歩、イレネに近付いた。

 カディルが身を呈してかばいにかかっているが、視線はイレネにだけ向けられている。


「……()()()()()()()()()()()


 たっぷりと乗せられた嫌味をイレネが気付かないわけもない。

 ぐ、と押し黙ったままフェリシアを睨む勇気だけは褒めてやらなくもない、そう思いフェリシアは続ける。


「自分から言い出したことの後始末もつけずに、仲良くもなんでもないわたくしを呼び捨てにして、皆様のランチの時間を妨害する。何ともまぁ、……ねぇ」


 ニタリと笑って指摘する内容は、まさにその通りだから、周りからの視線はイレネに批判的なものが突き刺さる。

 しかし『身分を笠に着るとは』という声も聞こえてくる。そうだ、それでいい。


 でなければ、フェリシアは悪役になれないではないか。


「改めて()()()()()、ハイス侯爵令嬢。わたくし、フェリシア=フォン=ローヴァインと申します。ローヴァイン公爵家の娘で、次期当主となる予定ですので、別に知らなくてもいいけれど社交辞令として、こう言わせていただきますわ」


 にこ、と綺麗すぎるほどの微笑みを浮かべ、完璧なカーテシーを披露して、フェリシアは言う。


「どうぞ、お見知り置きを」

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