第2章 共犯者
第2章 共犯者
「貴方の役職は?」
「今は、一巡査です」
「大学は、何処、出てるの?」
「私立の○○大学です」
「ふーん、結構良いとこ出てんじゃん。一巡査は勿体無い。私の父方の祖父は、県会議員しているから、今年の4月の異動で、捜査一課に行ってもらうわ?」
「何故、私が、捜査一課に行くのです?」
「勿論、この私が、これから殺人を起こすからよ。その時のために、最新の内部情報を報告してもらう。また、捜査に協力しているフリをして、色々、捜査妨害も頼みたいのよ」
「しかし、強制性交罪と殺人罪の共謀罪では、罪の重さが違い過ぎる。この取引は、私にとっては、現実問題として、あまりに不利なのでは……」
「ガタガタ言ってないで、さっさと、私と、タッグを組みましょうよ」
「その替わり、時間さえ余裕があれば、いつでもさせてあげるわよ。さっき、とても良かったでしょう?」
「う、う、うーん、毒を食らわば、皿までか……」
「そう言う事。まあ、これからお互いに、共犯者になるのよ」と、平然とした顔で、北川恭子は言った。
その年の4月、先ほどの警官、竹本雄一は、捜査一課に異動となり刑事になった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あれから2年後の今。
その彼女が、衝撃を受けたニュースがあった。それは、「札幌のすすきの」のラブホで起きた、「頭部切断持ち去り事件」だった。
しばらくして、犯人が捕まったが、何と実行犯は若い、と言っても、30歳前の女性であり、その家族も関係しているとか、いないとか?特に、実行犯の父親は、精神科医だとか?これは、一体どう言う事なのだ。
しかし、
「フフン、私なら、もっと、うまくやってみせる」と、北川恭子は、呟いた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ギーコ、ギーコ、ゴキッ!!!
奇妙で不気味な、音が、ユニット・バスに流れる。
「フフン、フフン……」と、北川恭子の鼻歌が流れる。
更に、ギーコ、ギーコ、ゴキッ!!!
このゴキッと言う音は、頸椎を切った時に、出る音だ。
奇妙で不気味な、音が、ユニット・バスに流れ続ける。
「フフン、フフン……」と、北川恭子の鼻歌も調子が良い。
「ふー、やっと、生首を節切断出来たか。だが、いよいよ、これからが勝負だ、最後の賭けだな……」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
しかし、一体、どうやって、北川恭子は、この急場を乗り切るつもりなのだろうか?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
この金沢市のラブホ「ピンク・シャトー」での、頭部切断事件も、即、マスコミが飛び付き、日本中で、大問題となった。
大概は、札幌のすすきののラブホで起きた頭部切断持ち去り事件の、模倣犯だと、喧伝した。何しろ、すすきの事件の2週間後に、勃発した事件だったからだ。
しかし、実は、ここに、札幌のすすきのの事件とは、全く、違う事が一つだけあったのである。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「捜査係長、これを見て下さい」と、刑事の一人が言う。
「何だ?」
「このラブホの、入り口にある、少々、映りの悪い防犯カメラの映像ですよ」
「一体、何が、どうなんだ!」厳しい口調で、捜査一課係長が言う。
「いいですか。これが、前日の入店時の二人の画像です。大柄の男は、被害者の男性A、帽子をかぶりマスクとグラサンをして完全に顔を隠しているのは、多分、犯人と思われる人物ですが、この映りの悪い画像を見ても、この犯人と思われる人物は、体格等から判定して、これは女性だと断言できます。」
最新AIによる人物判定でも、一人は男性で、もう一人は女性と出てました。で、問題はここからなのです……」
「ここ、ここなのです。これが退出時の犯人と思われる画像です。先ほどと同じように顔を完全に隠しており誰かは全く特定出来ません。しかし、この犯人と思われる女性の持ち物は、小さな簡単なバッグだけなのです。入店時と全く同じ格好で、出て行ったのです。
ここで、最大の問題は、被害者男性の首が、切断されて現場から忽然と消えています。 では、この切断された首は、何処に行ったのでしょうか?このバッグには、絶対に入りません。絶対に」
「貴様は馬鹿か!それを探すのが、お前らの仕事だろうが……大方、別の部屋の何処かか、ダスト・ボックスにでも放り込んだのじゃ無いのか?」
「それも徹底的に調べましたが、全く、忽然と消えてしまっているのです?
札幌のすすきのの頭部持ち去り事件とは、この点において、実に根本的に違うのです。 あの、すすきの事件のような、背負い型バッグやスーツケース等、大きな入れ物が何も無いのです」
「では、確か数年前、隣室のアパートの女性の死体を粉々に切断して、トイレに流した事件があったろが……そこは、調べたのか?」
「勿論です、しかし、いかなる痕跡もありませんでした。この二人の泊まったラブホのユニットバスが犯行現場なのは、間違いがありません。ここで首を切断した。それは、ルミノール反応で確認できます。
しかし、その切り取った首を持って出た様子が、入り口兼出口の画質の悪い防犯カメラには、全然、映っていないのです」
「では、外の部屋に、誰か泊まっていなかったのか。そいつに預けたとかは?」
「それが、その日に限って、どう言う訳か、夜10時から、犯人と思われる女性がラブホを出て行く朝の5時までの間、泊まっていたのは、この一組だけです。ガイシャの、死亡推定時刻、午前12時前後ですので、もはや、この一組のみだけだと、どうしようも有りません。
もっと言えば、この女性の犯人らしき人物は、何故か、至る所に隠して付けてある我が石川県警が誇る特殊秘密防犯カメラの位置を全て暗記しているかのように、全く映っていないのです。そして、うまく、ラブホ「ピンク・シャトー」に辿りついています」
「うーん、ここまで、話を聞くと、今までの考え方を、改めるべきななのかもなあ……」と、捜査一課係長も、急に、弱気になっていったのである。
「ならば、札幌のすすきのの事件のように、親が精神科医だとしたら?この面から、捜査してみたらどうだろう?」
「当然、それも疑いました。札幌のすすきのの事件の模倣犯なら、その親も精神科医でないかとね。
で、極秘で医師会を通じて調査したのですが、全く、ヒットしないのです」