表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不運の女神、譲られました  作者: 白瀬あお
六章 女神は譲られました
34/34

巻きこまれました

 直央が目をまん丸にして固まるから、俺はもしかして言葉を間違えたかとうろたえた。


「ゆ、ゆずっ、譲くん」

「なに?」

「近い……!」


 直央の頬が真っ赤だ。そのくせあたふたとベンチの端に逃げようとする。

 俺はむっとして、直央の頬を両手で挟んだ。やっぱり熱い。


「ゆぐるるん!」

 譲くん、と言ったんだろうな。俺が頬を挟んだせいで、口元がひしゃげている。

「ん」

「あわいかっ……」

「悪い、なに言ってんのかわかんない」


 頬に当てた手の力をゆるめると、直央が水から上がった人間のように「ぷは」と息を吐いた。


「だから近いって言ったの」

 律儀に言い直すのが可笑しい。ちょっと怒った風なのも。

「あのさ、こういうときはまず返事じゃねーの?」


 限界まで顔を火照らせた直央は、面白い顔をしていた。目があちこちをさまよって、きょろきょろしている。


「そ、そうだよね。なんかもう、いかにさりげなく伝えるかって考えるばかりで、ほかのことはなんにも考えてなかったから」

「いいから、返事」

「ひゃい」

「ひゃいって、噛んだ?」

「噛んだ」


 直央が悔しそうに唇を噛む。

 挟んだ手で直央の顔を引き寄せて唇をついばんだ。また直央の目が見開かれる。目ん玉落ちそうだな。


「こんなのでもよければ、いくらでも……」


 もごもごと直央が言う。いつもの威勢はどこへ行ったんだか。

 直央の肩越しに、ベンチの脇に置いた紙袋が目に入った。描き上がりまであと一歩のウェルカムボードに、すずらんの花。


 不運の女神? とんでもない。


「直央がいい。なんかいつまででも笑ってられそ」


 幸運に、巻きこまれたな。それも特大の。ああもう、離したくねー。


「譲くん!? 笑ってくれるのは嬉しいけど、お笑い要員ではないからね?」


 幸運の女神がさらになにか言おうとする前に、俺はその口をふたたび塞いだ。


(了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ