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処女作、見切り発車です。
これからの流れから完結まである程度は考えておりますが、誤字脱字矛盾あるかと思います。
何卒お付き合いいただけると幸いです。
ガタゴトと揺れる荷馬車に、私と聖職者と、ひとりの男。
聖職者は瞼を閉じて静かに座しており、男は両手にきつく縄が縛られ、顔が見えぬように麻布を深く被らされている。
その男はいわゆる、戦争犯罪人であった。
両手の甲にそれの烙印が押されていて、顔や素性を知らずとも彼が何者なのかがわかる。
かくいう私も、賎業一家の人間だ。
私には市民権どころか、人権もない。
法的な結婚をすることもできないし、家を買うことも許されない。
果ては墓石に刻まれるのは、ただの名前ひとつだけ。
この男とさして身分は変わらない。
そう教わり、学び続けた二十年だ。
幼い頃は痛んだ心だが、今や何も思わない。
「刑吏の女、此奴の罪状は読んだか」
「…拝読させていただきました」
「ならいい」
聖職者は、瞼を開ける事すらしなかった。
この男はつまり、悪魔そのものである。
先の戦争における捕虜虐殺や拷問、文民を対象とした無差別殺戮。略奪、凌辱、なんでもござれであった。
果てには呪術を用い、村から町規模の生活区域を丸ごと消し去ったとされる。
この男を悪魔と呼ばず、何をそう呼ぶというのだろうか。
「…恐ろしいものだな、刑吏の」
聖職者は軽く十字を切ってから、男に被さる麻布を剥いだ。
その男は眩しそうに瞼を閉じ、口を歪ませた。
眠っていたのだろうか、と考え、悠長なクズだと感情が揺れざるを得なかった。
「傷は目立つが、目鼻立ちは悪くない。
こんな風体で「ママぁぁぁーッ!!」
男の狂声に、聖職者はのけぞる。
私は先の潰れた剣を男の首筋に当て、殺気をそれに纏わせた。
「少しでも動け、ここで断罪してやる」
男は私と首筋に当たるものに何度か視線を往復させ、ただ「何が起きてるの」とだけ言った。
聞くにこの男は、喋ることが少なかったはずだった。
何度か"尋問"に立ち会ったが、機密のひとつ吐くこともせず、ただ血を流していたのをよく覚えている。
しかし風体や何ひとつ変わらずに、気持ちの悪い違和感を覚える。
なにか…未だ温もりが消えぬ生首を始めて手に持ったときのような、なにか反対の性質を同時に持つ感覚である。
「…貴様、なにをした」
男は当てられた刃に裂かれることのないように、首をゆっくりと横に振った。
「いや、あの、多分なんですけど、人間違いだと思います」
「間違うことがあるか」
男は先ほどより速度が緩まった馬車から周辺を見回し、喊声がごとく叫んだ。
「ここどこだよォォー!日本に帰らせろやァァーッ!!」