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そして人形つかいはスローライフを送る(はず)

本話で完結ですのでよろしくお願いします。


 城内の中庭で木漏れ日が入る、非常に穏やかな場所だ。お茶をするには最高ですね。



「ローンよ、そう言えば妾は名乗っていなかったな。妾が現在の魔王、ニュート・フェルミオンである。

 お主の師匠、クオーク・フェルミオンは推察通り妾の祖父じゃ」


 ティーカップを傾けながらそう名乗られた。話して思うが魔王様はフランクな方らしい。

 立場的には威厳を保たなければ、とお付には言われるが気にしないとのこと。

 実力主義万歳。

 昨日切り捨てられた話をすると微妙な顔をされる。

 こちらも反応に困りますが。


「いや、奴らがお主を切り捨ててくれてよかったわ。

 愚かな勇者共には感謝せんといかんかのう」


 そしてじいちゃんの話で盛り上がる。

 やはり先々代の魔王で、暴龍帝の二つ名で呼ばれていたとか。

 今度言ってみよう。

 魔王様が生まれた時にはすでにこの地に居なくて世界を放浪していたと。

 たまにふらっと帰ってきて土産話をしてくれたそうだ。


「あ、魔王様、よかったらじいちゃんと話します?」


「久々だから大歓迎じゃが、どうやってやるのじゃ?」


 首をかしげる魔王様の前に一枚のヒトガタを取り出す。

 長方形の紙で既に人形はしていないが。

 勇者達には内緒にしていた通話用のヒトガタだけど、魔王様にとっても珍しいものかもしれないね。


「じいちゃんのと接続」


 すぐにパスが繋がった。

 いつもすぐに繋がるよな。

 前から思ってたけど、じいちゃん暇なのかな?


「おおローン、久々よのう。

 魔王城についたかの?」


 懐かし…… くない声が聞こえてくる。

 週に一回以上連絡をとってたら懐かしいってところじゃないよね。


「うん、魔王様とお茶してるとこ。

 魔王様がじいちゃんの声が聞きたいらしいから、代わるねー」


「つ、通信魔法をこんな手軽に……」


 そばで硬直している魔王様の手にヒトガタを渡す。


「はい、どうぞ。

 少し魔王様の魔力は使いますが普通に話して大丈夫ですよ」


 硬直から解けた魔王様がヒトガタに話し出す。


「お、おじいさま、お久しぶりでしゅ、ニューですわ」


 噛んだな。あ、その眼力で睨まないで、


「おお、ニューか。元気でおったか?」


 まあ積もる話もあるだろう。

 魔王様もかなり魔力を保有しているようだから少々長話しても切れることはない。

 ので終わったら声をかけてもらおう。

 しかしこのお菓子も美味しいな。食べ物が旨いここはいいところだ。


-


 しばらくの後、魔王様よりヒトガタを返される。

 まだ繋がっているようなのでじいちゃんとお話。

 パーティーを追放された話、じいちゃんを追放しようとしている話とか。

 間違えてもプロムに斬られたところは話してはいけない。

 後で再修行、ということになるから。


 じいちゃんとの話の後、出されたお茶をおかわりし、お茶菓子を堪能していると、伝令っぽい兵士がこちらへやってきた。

 魔王様の前で跪き、口を開く。


「魔王様、四天王が勇者パーティーを拿捕しました」


「おお、見事だ。兵たちの損害は如何ほどか」


「はっ、早めに四天王全員に出ていただいたためかも知れませんが、50人ほど死者が出ました。

 怪我をしたものはおよそ300人ほど」


「そんな程度で済んだのか。

 勇者と名乗る割に手応えの無い連中であったの。

 ひょっとして勇者を騙る偽物かも知れんな」


 魔王様、何故僕を見て笑うんですか。


「拿捕、ということは未だ生きているのだな。

 処刑するのも大々的にやらんといかん。

 そうだな、そいつら全員闘技場へ連れて行け。

 後ほど妾自ら検分しよう」


「はっ」


 伝令兵が去っていく。


「さてローンよ。

 あやつら、どうするのが良いと思う?」


 魔王様がこちらを見て問いかけてくる。まあ答えは決まっているんだろうけど、


「見せしめに首だけにするのも、生かして奴隷にするのもご自由に、と思いますが」


「いや、奴らにお主の顔を見せてやるのはどうかと思ってのう」


「うーん。僕が裏切ったと言い出すに違いないですが。

 この通信用ヒトガタを賭けてもいい」


「まあ言うであろうな。

 というかそれ、お主の魔力認証が必要なものであろうが」


「ご明察です。

 正直四人全員と感動の対面はしたくないですが、僕を斬った勇者に関しては言いたいこともなくはないんで、できればこうしていただけたら、と思います」


 で、僕は魔王様に少しお願いをした。

 快諾されたので、ずっと貼ってあったこの能力抑制符剥がしてちょっと準備運動をしておこう。

 この符剥がすのは久々だから調整しないと。


 魔王城に隣接して建てられている闘技場へ魔王様と移動する。

 ついていく僕は魔王軍の軍服をお借りし、認識をゆるくぼやかせる符を貼っておく。

 これで勇者たちからは謎の魔族に見えるはず。

 自分から説明するとその相手へのぼやかしは無効になるという微妙なものだけど、今回はこれでオーケー。


 おーいたいた。全員まだ生きてるねー。

 武器防具は外され、後ろ手に魔力を封じる手枷かー。

 四天王さんがそれぞれ手枷の鎖を持つのはゴージャスな感じ。

 犯罪者みたいだなあ、あ、跪かされてる。

 四天王さん睨んでも意味ないよー。

 ひざまずく四人の前に少し距離を取り、魔王様が立つ。

 微笑み、口を開いた。


「妾が魔王、と呼ばれているものである。

 その方ら、よく参ったの」


「くっ、俺たちは!

 本来の力が出せれば、お前たちなどに!

 正々堂々と戦えぬ卑怯者共が!」


 プロム…… いや、どこからどうコメントしていいのやら。

 魔王様の笑みが絶えないよ。


「ほう。本来の力が出せなかった故に負けた、というのか、妾自慢の四天王に」


 笑みを絶やさぬまま、そう返す。

 彼ら怯んでるし。


「そ、そうだ! 本来の力さえ戻れば!」


「「「そうだ/よ!」」」


「ふむ。妾としてはこのまま処刑でも問題無いのだが、魔族のみならず人族に対しても等しく機会は与えるべきよの。

よし、一度だけチャンスをやろう」


「チャンス、だと!」


「そう。妾の横に立っているロー、ロランはこう見えて我が軍で四天王の次に位置する者。

 このロランとその方らの誰か一人、ここで一騎打ちするが良い。

 勝てば鞭打ち100回の後追放してやろう。

 但し、負ければ、諦めよ。

 このチャンス、受ける勇気はあるかい?」


 魔王様、バラさないでね。

 顔を見合わせる四人。

 こそこそと話してなにやら決めたようだ。


「魔王よ、二言はないな!」


「無論」


「ならば俺が出る!

 本来の力は戻っていないが、そいつ程度ならどうとでもなる!」


「勇ましいものよの。勇者よ、今一度武器と防具を返そうぞ。

 ではロ…… ロラン、その方も準備を」


「はっ」


 剣と革帽子、肩当てなど最低限の防具を借りて闘技場の中心へ。勇者は防具と武器を返してもらい、装備する。


「うぉおっ、力が漲るっ!

 本来の力が戻った今、影の薄いお前など敵に値しないが、諦めてくれ」


「ぐっ」


 戦いの前にダメージを受けた。視界が滲むじゃないか。

 観客席は元気だな。


「プロム、私の為に頑張って!」


「頼むぞプロム!」


「雑魚いの、ちゃっちゃっと切り捨てて帰ろ!」


 三人の方を見、剣を高らかに掲げるプロム。三人もらしい応援ですねー。

 外した符をもう一度防具に貼ってあげたからなー。

 今回は僕自身に貼ってあった抑制符、外してあるんだけど、わかんないかな。


「戦いの開始後、終了まで声援や魔法などは一切届かぬ仕様である。

 良いな」


 立会人、さっきの赤い人だ、が注意事項を告げる。


「応!」「おー」


 そんなに力んでも、剣筋が単調になっちゃうよー。


「開始!」


「うぉぉぉ!」


 剣を大上段に振りかぶり、切りつけてくる。

 わかり易すぎる攻撃は当然かわす。


「!」


 かわされると思ってなかったのか、体勢が崩れる。

 あまりにあっさり終わらせるのも何だから放置。

 立て直したプロムが再度切りつけてくる。

 今度は細かく振るね、学習してるじゃん。

 まあ見えてるんで当たりませんが。


「くそ、こんな雑魚に、なぜ、当たらない」


 残りの三人を見ると唖然としている。

 大勢の前でこちらも手札を見せたくないし、もういいや。

 何度目かの振り下ろされた剣の腹に向けて剣先を突く。

 バキッ。

 勇者の剣がその部分より砕け、柄のみの状態になる。

 こちらの剣の強度が心配だったけどうまくいった。


「は?」


 愛用の剣による渾身の一撃をかわされた上、砕かれた事実が受け入れられないのか唖然とした表情で立ちすくむプロム。

 ついでに膝に蹴りを入れて座らしておこう。

 ピシッ、あ、やりすぎた。


「ほう」


 赤い人、やっぱり見えてたか。

 感心してくれるとうれしいな。

 なんか僕を見る目が鋭くなってきてますが。

 声は聞こえないけど、三人も固まっているね。

 武器も無くなったし、お別れ前に解説タイムに入ろうか。


「また会えたね、プロム」


「な、ぜ、魔族が俺の名を?」


「僕は魔族ではないからね」


「そ、その声はもしや…… ローン、なのか?」


「そうだよ。どうかな? 勇者の権能を持ちながら勇者ではない僕に負けたのはどんな気分だい?」


 まだ混乱しているようだ。長話はしたくないけど確認させようか。


「ねえプロム、権能とは、何だい? 答えてご覧」


「け、権能とは、能力が訓練などにより常人ではたどり着けない領域まで伸びていくというもの、だろうが」


「そう。逆に言うとね、権能を持っていなくても能力は訓練などである領域まで伸ばせる、んだよね」


 権能持ちはちゃんと自覚すれば訓練の最適化もできるらしい、とはじいちゃんから聞いたが。

 よくわからん話なので省略。

 僕の権能は想像力依存なところがあるんで最適化をしづらいんだけどね。

 あと権能持ちだけが使える技があるとも聞いたけど、あれもそれっぽく模倣できるのよね。


「だから僕は君たちの権能に相当する能力を常人の限界近くまで伸ばしたんだ。魔力も結構伸ばせたよ!」


 まあ能力の訓練はじいちゃんと暮らし始めた六歳頃からやらされていたような。

 基礎になる部分をそれこそ朝から晩まで訓練していたような気がする。 

 実はその頃から訓練するほうが基礎部分が伸びやすいから、ってのは後で聞いたこれまたじいちゃんの受け売り。


 といってもやはり生で権能を使っているところを見るのは便利だったね。

 訓練が捗ること捗ること。

 細かいところを身につけられるのは良かったね。


 じいちゃんと二人で暮らし始めてから十歳くらいまでの訓練も大概だったけどねー、旅立つ迄の数年は僕じゃなかったら死んでたんじゃないかなあ。

 村の周りをうろつく魔物退治とか、盗賊を払うとか。

 ワイバーンの群れ狩りとか。一人で数十人の盗賊団を壊滅しろ、と言われた時は耳が受け入れを拒んだよ。

 生死の境、ギリギリまで追い込むことで能力がより伸びるのだ、って。


「見たところ、君たちの現在の権能は常人の限界にもほど遠い段階だよ。だから君たちの権能を持たない僕にも勝てない」


 権能でいうところの鑑定、だったっけ。これも訓練するとある程度模倣できるのよね。

 修行時に盗賊や魔物の強さ、特性や弱点とかを把握していないと大変だったから(遠い目)。

 更に、僕の権能、バフとは別に能力とか権能とかを増強できるんだよね。

 彼らの体に無理が来ない範囲だと三倍くらい、僕は理解しているから十倍くらいまでは問題なし。

 これを使うと自分でも大概な強さだと思うんだけど、じいちゃんにはいまだに歯が立たない。なんで?


「さて、おしまいにしようか。

 えーっと、僕に言った最後の言葉はー」


 魔王軍から借りた普通の剣を下段に構える。


「ちょ、待てよ。

 ゆ、友人に剣を向けないんじゃあなかったのかよ!」


「殺す気で剣を向けてくる友人など僕には居ない。

 もういい、さよにゃらだ」


 噛んだ、が剣先は確りとプロムを斜めに切り裂いた。

 プロムはそのまま後ろへと倒れ、血溜まりが広がる。

 全く、殺す気で人に剣を向けるなんて。

 じいちゃんはよくやってくれましたが。

 それはそうと友人、て居たっけな。

 おっと、後始末をしないと。


「「権能増強符」、結縁解除」


 勇者があっさりと倒されたのを目にした残りの三人は、唖然としたまま兵士に連れさられていった。

 その後は知らない。


 審判をしてくれた赤い人が僕と話したそうな雰囲気をしている!

 でも僕は魔王様に感謝の言葉を言わないと。


「魔王様、ありがとうございます。

 気持ちの整理がつきました。

 通話符については後でいくつか用意ししますね。

 魔力認証はその際に相談しましょう」


 友人の存在について振り返り、また目から汗がでたが棚上げし、魔王様に礼を言う。

 お願いを聞いてくれる条件で通話符を要求されたからオッケーしたけど、あんなの別に大したことじゃないと思うけどなー。

 釣り合っていない気がするがいいのかなー。


「目が潤んでおるのう。

 兎も角、気持ちの整理がつくのは重畳。

 で、この後はどうするのじゃ? 村へ、は帰らんのじゃろう?」


 すこし誤解されている? まあいいか。


「はい。先程じいちゃんと話した時に、じいちゃんもあの村を出ていくと言ってましたし」


「ローンが良ければ、じゃが、この地で暮らすのはどうじゃ? 希望の職があれば紹介してやるぞ。

しれっと城にも入ってきたローンじゃから、妾の護衛とかでもいいんじゃが……」


 最後の方は小声で言う魔王様。後半は何言ってるのか聞こえなかったよ。でもありがたいね。


「是非! 農家をさせてください!」


「農家とな?」


「はい! 前々から夢だったんです!

 ど、どこかいただけるんですか!」


 食い気味に話すローンに対し、気圧されながら魔王様が答える。


「そ、そうよの。先程我々と勇者が戦ったあの地はどうじゃ。

 とりあえず手の届く範囲で開墾を許そう」


「ありがとうございます! ここ食べ物も美味しいし、いいとこだなーと思ってたんですよねー」


「時折妾とお茶をするとかもな」


「あ、はい」


 農家をできる嬉しさで魔王様が何を言っているか耳に入らないが無問題。

 むふ。何を育てようかな。

 夢が叶うなんて。ありがとう、天国のじいちゃん(死んでない)!


「おう、ローン、俺と仕合おうぜ!」


 名前も知らない赤い人、何言ってくるんですか。

 僕はこれから戦いとは無縁の農民になるんですよ。

 ねえ、もう一回闘技場へ引っ張っていかないでーー。



 人形つかいのスローライフ(になるといいな)はここより始まる。



-



 勇者パーティーをまるまる失ったキャドミア村。

 怒りに身を任せた辺境伯と村長は、前倒しでクオークを追放しようとした。

 前よりそれを阻止していた前村長は王都へ旅行中であり、その隙を突いた面もある。

 だが村外れの住居に押しかけたときには既に蛻の殻で、メッセージが残されているのみであった。


「皆の衆、せいぜい治安維持に励んでくだされい」


 近年キャドミア村周囲で凶暴な魔物が出なくなった理由。

 クオークと友人であったプラット前村長に請われ、住み着いて近隣の魔物や盗賊を退治しまくっていた。

 ローンを引き取ってからはローンの修行がてら二人で魔物等を狩りたおしていた為である。

 先日ローンより現村長による追放の話を聞いた時点で、この村を去ることを決定。

 無論旧友のプラットにも話を通してあり、プラットが王都へ行くのは嘘では無いながら、この村に帰って来る予定は無い。


 抑えを喪った村の近隣に再び凶暴な魔物が跋扈するのは、もうすぐ。



-



 魔王城を中心とする城下町の前にある肥沃な平野。

 頑丈な城壁の外に広がるそこは以前に勇者との決戦が行われた古戦場であるが、現在は一面とある農家の畑となっていて色々な作物が育てられている。

 現在も打倒魔王として時折勇者たちなどがやってくるが、農地に足を踏み入れたが最後、その農家の怒りに触れて蹴散らされ、魔王城に辿り着くことは無いという……



END

お読み頂きありがとうございました。


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