ニクラス・マルーンとの遭遇2
そんなニクラスが何の用だ!とばかりに内心身構えていた私に、不遜な笑みを浮かべながら
「先日の茶会で私の従姉妹と婚約者候補との意見の相違を諫めてくれた事感謝する。あの後我が家でも話し合いがあり、結果として私の従姉妹が婚約者として内定した。私としても大変嬉しく思う。全てアルバイン嬢のおかげだ、ありがとう。」
スラスラっとここまで言い切った所を見ると、親に言われて家で結構練習してきたようだ。
「いえいえ、そんな大した事はしておりません。いずれにしましても、マルーン様、婚約者内定おめでとうございます。」
とりあえずにこにこしておく。
「ふんっ、でだ、ナターリャがどうしてもアルバイン嬢に直接礼が言いたいと言っている。あいつは貴様のためなら時間はいくらでも作ると言っている。明日でも良いか?」
………は?貴様?明日?あいつぅ?いろいろ言いたい事は山ほど有るが、全部マルッと包み隠して笑みを深める。
「明日、でございますか?私は一向に構いませんけれど、まずウチの両親に確認しないといけません。お父様は夜にならないとお帰りになりませんからお返事は明朝になりますわね。そこからナターリャ様のご両親の許可を頂かれてからになるとすると…ナターリャ様が大変お忙しくなってしまいますわねぇ。」
嫌味たっぷりにそんなことも知らないのか?と、貴族のお嬢ちゃんの常識をぶつけてやった。良い所のお嬢様がおいそれと出歩けると思うなよ?
面食らったようにウグッと固まったニクラスだったが、
「この俺が言付ければ問題無い!」
「まあ!マルーン様自ら伝書鳩の真似事を買って出て下さるなんて素晴らしいですわ!」
少々言い過ぎたかと思ったがまあ良いでしょう。
「ふっ、ふん!俺はマルーン家の長男だ!出来ない事はない!」
「ナターリャ様と明日お会い出来る事を楽しみにしておりますわ。」
出来るもんならやってみろ。
その後小一時間ほど偉ぶるニクラスの戯言を片っ端から叩き落としながら、
『これ俺様と言うより我が儘坊っちゃんじゃねーか?』
と思った私は完全に微笑ましい物を見るような感覚に浸っていた。
そうして、「今日はこのくらいにしておいてやる!」とかなんとか訳の分からない事を宣うニクラスを丁寧に見送ったのだが、案の定翌日にナターリャ様との都合が付く訳が無く、マルーン家からは詫びと、アルバイン家とヘンティヒ家とで日取りを決めてくれと当たり前な内容の書状が入ってきた。
「マルーン公爵は外務大臣を務めているからそんな阿保では無いはずなんだがなぁ。」とお父様が苦笑混じりに呟いていた。
親バカは世界共通だという事だろう。
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。




