来た客
客足もまばらとなった平日の昼過ぎのコンビニエンスストア。スーツ姿の青年は雑誌コーナーで立ち読みをし、子連れの主婦は幼い我が子とお菓子を選んでいる。
レジを担当しているバイト学生の男子は、何とはなしに店内のそんな光景を眺めていた。
そこへ、慌てた様子で一人の中年男性が駆け込んできて言った。
「すいません、トイレを貸してください!!」
余程我慢も限界だったのだろう。バイト学生の男子は、
「トイレは右奥です」
と、トイレの場所を指し示すと、中年男性はドタドタと足音を立てながらトイレに走っていった。その後ろ姿をバイト学生は見ていたが、お菓子を持った小さな子が母親とレジ前にいる事に気付き、自身の仕事に戻った。
それからしばらくの時間が経ち、バックヤードから出てきた店長がバイト学生に聞いた。
「やあ、お疲れさん。何か変わった事はなかったかい?」
「はい、とくに変わった事は…」
そこまでを言いかけて、バイト学生はふと、先ほどトイレに入っていった中年男性の事を思い出した。トイレがあまりにも長いのだ。
「店長、さっきトイレを借りにきた中年の男性なんですが、中々出てこないんです。もう三十分は入っているかもしれないなあ」
「それは長いな。心配だ。ひょっとしたら、中で何かあったのかもしれない。一応声を掛けてみよう」
店長は奥からトイレの鍵を取ってくると、二人でトイレに向かった。
店長はトイレの前に立つと、軽くノックをして、中の中年男性に尋ねた。
「すいません、お客さん、大丈夫ですか?」
…。
中からの返答はない。今度は少し強めにノックをしながら言った。
「もしもし、大丈夫ですか? お客さん、開けますよ? いいですか?」
…。
やはり返答はなく、意を決した店長は、用意したトイレの鍵を使い、ドアを開けた。
飛び込んできたトイレ内の光景に、バイト学生は驚きの声を上げた。
「これはどういう事だ!? ぼ、僕、警察に電話してきます!!」
バイト学生は電話をする為、バックヤードに走っていった。
店長は声にこそ出さなかったが、便器から溢れた床一面の臓器と、骨と皮だけになり、フニャフニャの状態で便器に覆い被さっている中年男性を見て、
(きっと彼は出し過ぎたんだろう…)
と思った。