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コンタクト・マテリアル  作者: 本橘創
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好きな名前、大好きな名前


ー 人生を楽しく生きる方法、見つけました ー  

           

私の名前は橘 笑咲エミ。今から2年前に亡くなった母が名付けてくれた大切な名前。よく初対面の人に自己紹介すると「「エミ」って、どう書くの?」と聞かれる。そしてそれを説明する事が私は好きである。


あの日、"あの場所"に居た3人の女の子は見事にそれぞれが初対面であった。名前までは聞いていないがポニーテール、ツインテール、ストレートヘアー。そして髪色が3人とも異なるという個性の違いは何か通ずるものを感じていた。その中でも風に靡く茶色に等しい色をしたポニーテール少女の美しさに目を奪われがちだが、彼女の肩に背負うバッグから少し飛び出ている物は私の知る、そしてこれから目指す"夢のバトン"である事は容易に分かった。しかし彼女たちは、この日この会場で開催される「バトントワリング全日本選手権」に出場する選手ではないようだ。身を乗り出すように会話に食いつく私を見てきっと察したのだろう。バトントワリング全日本選手権のチケットを持っていない事を。初対面であるにも関わらずツインテール少女が何やら自らのバッグを探り始める姿に期待を込めて目を凝らすがバックの中から取り出した物は今大会に出場する学校名やチーム名が記載されたパンフレットであった。しかし期待が裏目には出たものの、そこに書かれている出場校の意気込みやパフォーマンスの写真から"私達"の身体に伝わって来るものはきっと同じであるだろうと確信した。


私が中学生の頃から抱いている「皆が笑顔になる仕事に就きたい」という未来の私へ向けた時間箱タイムカプセルを掘り起こしに懐かしい面影残る学び舎へと足を運ぶと既に当時埋めたであろう場所を囲むようにして同級生達が集まっていた。正直、この学び舎で月曜から金曜の毎日6時間の生活を共に過ごした同級生はあの日と殆んどと言っても過言ではない程変わってはいなかった。特別「今、何しているの?」であったり「何の会社に就職したの?」という会話もしない。何故ならばこのタイムカプセルを小学校6年生で埋めて高校2年生で掘り起こすのだから。時間箱に入れられた数々の未来への手紙にとっては「もうカプセル開けちゃうの?」状態であろう。運が良いことに手紙には顔が無い。また表情も無い。ふと安心感からかホッと一息自身も聞き慣れない声が飛び出る。「皆が笑顔になる仕事って何なんだろう。」と自問自答する日々が中学時代から暫く続いたが、それは昨年の夏に芽を出した。


高校一年の夏、夏季課題で植物の生態について調べる為、学校内の図書室へと向かった。最初は特に何の植物を調べると言った目的も無いまま足音が聞こえ過ぎる程静かな室内を進んだ。図書室の図鑑コーナーに行くと理由はないが向日葵が表紙になっている植物図鑑に手を伸ばしていた。向日葵を見ると母を思い出す。母に会える様な感覚になるのである。もう一度、母に会いたい。会って「ありがとう」を笑顔で言おうと決めているのだ。手に取った向日葵が表紙の図鑑のページを開かず、それを直ぐさま貸し出しカウンターへと持っていく。余りに俊敏な動きだったようで周りの生徒たちから熱い視線が注がれてしまったが、私はこれでも平常心である。借りてきた植物図鑑は学校でも擦り切れるくらい熟読したがそれでも足りず家へと持ち帰り、父へ真っ先に報告した。


「お父さん、これ覚えてる?向日葵!お母さんの好きな花だったよね・・・。」


この言葉には勇気が必要であった。それは2年前に母が亡くなってから父はあまりのショックで仕事に行けず会社を度々休むという日々があり、いつしか母の話は家の中で話してはいけないという暗黙の了解が敷かれてしまったからだ。しかもその翌日、姉の日向が突然家から居なくなってしまったのである。数日すれば帰ってくるだろうと心配な気持ちを押し殺すが、変わらぬ状況に耐えられなくなり警察へと捜索願いの届け出を申し出た。願う事、姉が無事である事。それに尽きる。姉が居なくなってしまった原因は定かでは無いが恐らく父のそんな姿を姉として見ていられなかったのではないかと私は考える。少々、言葉足らずではあるものの、父に懇願すると私の気持ちを尊重してくれた。そんな父は昔っから寡黙な人ではあるが誰よりも家族の事を大切に想ってくれている理想の父親像なのである。


その週の休日休み、早速私を連れて行ってくれたのである。まさかそんなにも早く連れて行ってくれるとは思っておらず驚かされたが、この日の父の様子には変化を感じた。綺麗な向日葵畑が一面に広がる丘までは私の住む街から片道約1時間半の道のりを車で走ると見えてくる。そしてこの場所は幼い頃、私と姉が父と母に海や山どこよりも最初に連れて行ってくれた思い出の場所であり母に名付けてもらった私の名前である笑咲エミと姉の日向ヒナタという名前の由来になった場所でもあるのだ。この日は風が心地よく"私たち"の背中を母がそっと押してくれている様な気がした。





To be Continued・・・


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