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コンタクト・マテリアル  作者: 本橘創
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プロローグ


昔の名残りが残る街、美詩町みうたちょうにまた一人、少女が誕生した。少女は両親に大切に育てられ、やがて小学生。そして中学生になった。彼女は天真爛漫な性格で周りの人を巻き込み明るい空気を作り出す、まさに元気っ子。そんな少女には1つ上の姉がいる。姉は妹とは違い内気な性格の為、友達が少ない所がたまに傷。2人は幼い頃から毎年夏になると両親に広く一面黄色に輝く向日葵畑へと連れて行ってもらう。夏は海や山というイメージだと思うが、少女たちは"丘"へと連れて行ってもらうのである。文句一つ無く母の行きたい場所へとついて行くのは向日葵が母の好きな花だから。そして母の笑った顔が好きだから。母の笑顔に後押しされてなのか、いつしか少女は"ある夢"を抱き始める。


"私は皆を笑顔にする仕事に就きたい。"


そんなある日のこと、信じがたい出来事が起きてしまう。少女は学校で授業の途中倒れたのである。幸い学校側の早急な対応により大事に至らなかったが、運ばれた大学病院の医師からこう告げられたという。「あなたの指はその内、だんだん動かなくなるでしょう。」と。

突然告げられた余りに残酷な宣告に何一つ言葉を返せなかった。その場に相応しい言葉が出なかったのである。涙も出ない程ショックが大きかった。少女は悲しみの余り、診療室を飛び出し人気のない病棟の通路へと向かった。逃げてきた長い通路の先から両親の少女の名を呼ぶ声が聞こえるが、今のこの表情を親に見せる自身が無かった。徐々に名前を呼ぶ声が小さくなっていく。笑顔が似合う母の悲しむ顔は見るに耐えられない。私も恐怖の余り平常心を保てず過呼吸になってしまった。過呼吸は暫くすると落ち着いてきたが、運ばれた病院から家までは徒歩で帰れる距離であった為、両親を病院に置いて一人帰った。病院の外へ一歩出ると静寂に包まれた黒の世界に見事な程の満月が現れた。


それから3年という歳月ときが流れた。当時、中学一年生だった少女は高校へと進学し高校一年生になった。そして少女が抱いた"ある夢"を叶えるヒントを得る為武道館へ足を運んだ。すると武道館の入り口付近にポニーテール、ツインテール、ストレートヘアーという髪型が見事にバラバラな三人の同い年くらいであろう女の子達が一定の間隔を空け立ちすくんでいる姿を見つけた。武道館の近くにいる人は、あの場所に立っている女の子三人だけである。関係者らしき人が会場から頻繁に出入りしているので扉が開く度、観客からの歓声が漏れるように聞こえてくる。歓声が聞こえる度に会場の方向を見つめる私を見てなのか、なんと三人の女の子たちは入場チケットを買って一緒にバトントワリングを観ない?と誘ってくれたのである。私はここに一つの輪が出来た様な気がして嬉しさのあまり「是非!」と大きな声を発してしまった。


大会が始まると、どの高校チームもしなやかで美しいパフォーマンスだと感動させられた。ここに立てるのは日本全国から選ばれた数組のみ。この世界の厳しさを肌で感じるが私はバトントワリング未経験者である。そして、まだチームも結成していなければメンバーも居ない。よいパフォーマンスをする為には監督・コーチといった指導者が必須である。まずチームを結成する為にやらなければならない事が山積みで頭を抱えたい気持ちだが、諦めるという選択肢は私の中には無い。


バトントワリング全日本選手権が終わり会場を出ると、不思議な事に大会の余韻のせいか今日この日が初対面だったのに大会のあれこれやバトントワリングのパフォーマンスの感想等をいつしか共有し合っていたのである。女性の初対面から友達と呼ぶまでの線引きは非常に考えさせられるものがあり、かつ難しい。すると「あの・・・握手、しませんか?もしかしたら私たちが目指す位置ゆめが同じかもしれませんし。それにまた会えるかもしれませんし・・・。」とツインテール少女が顔を赤らめ少々照れくさそうに提案する。一緒に居たポニーテール少女とストレートヘアー少女は私を含め、ニコッとお互い笑顔で握手を交わした。きっとまた会える。そう信じて私たちは別れた。そして全国を相手に共に戦うチームメンバーが直ぐ側にいる事など予想だにしなかった。あの時までは。


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