5話 妹としての才能
「キーンさん、あなた今日一日でゆいちゃんに何をしたんですか?」
教団本部に帰ってきて自室でくつろいでいると聖がこんなことを言いながら部屋に入ってきた。訂正。俺はドアに鍵を掛けていたから蹴破ってきたが正解だな。ちなみにドアの鍵は当然ぶっ壊れている。恐ろしい女だな聖…。完全にヤクザのカチコミじゃねえか。
「何って? 俺達はただ飯食いに行って公園で遊んだだけだぞ?」
「それでは何故ゆいちゃんはキーンさんのことをお兄ちゃんと呼んでいるんですか? お昼頃までは面識すらありませんでしたよね。もしかして無理矢理そう呼ばせているんですか? あなたは年下の女の子は妹にしか見えないんですか? そういう病気なんですね。そうですか、分かりました。 この変態・・・・・・。」
「いやいやいや、違うよ!!? ぜんっぜん違うよ!? お兄ちゃんってのはゆいが勝手に呼び始めただけであって……」
「違う? もしかして年上の女性まで含めて世の女性はすべからく自身の妹であると? 重症ですね。これはもうさしもの私でもお手上げです。はっ!? まさかこの私まで妹にする気ですか? くぅ、私はあなたなんかに屈しませんよ!!」
「何でそうなるんだよ!? いくら何でも業が深すぎるだろ俺! っていうかそんなに言うならゆいを呼んで来いよ! ちゃんと俺の無実を証明してくれるはずだからさ。」
「キーンさんがそんなに言うなら分かりました。今からゆいちゃんを呼んでくるので少し待っていてください、 お兄ちゃん。」
「お兄ちゃんって言っちゃったよ! 僅か数十秒で屈しちゃってるよ!」
しばらくすると何故かゆいが一人で俺の部屋にやって来た。
「あれ? ゆいだけか? 聖はどうしたんだ?」
「やっほー、お兄ちゃん! お姉ちゃんは、ちょっとおくれるって言ってたよー。」
ふーん、まぁトイレか何かだろと思った次の瞬間、俺の部屋の窓が開きそこから聖がどこぞの特殊部隊の突入よろしく凄まじいスピードで部屋に入り込んできた。
こ、こいつは俺の部屋に普通に入ってくることが出来ねえのか!
「お待たせしました。」
突然のことに驚く俺に対して、これが私の日常ですが何か?みたいな顔してそう言う聖。
「なぁにが『お待たせしました』だよ! 普通に部屋に入って来いよ! 何? ちょっと遅れるってこのダイナミックエントリーをするためにちょっと遅れたの!? てかここ2階だよ? その謎のスペックの高さは何なんだよ!」
「これくらいは出来て当然です、メイドですから。」
眼鏡を掛けてもいないのに指で眼鏡をクイッとする仕草をする聖。それメイドの仕草じゃないよね?
「いや、聖お前メイドじゃねーだろ!? なに最近のメイド、執事最強ブームに乗っかろうとしてるんだよ。」
「このビッグウェーブに乗り遅れるのはどうかと思いまして。
そう言えば私はメイドではありませんでしたね。すいません、私はキーンさんの妹なのにも関わらずメイドだなんて名乗ってしまって。」
おい!
「えっ? お姉ちゃん、お兄ちゃんの妹になったの!? おめでとう!」
聖め。まださっきの世界中の女性は全て俺の妹設定を蒸し返してくるか。ゆいもなぜかウェルカムようこそ妹へ♪みたいな雰囲気になっちゃてるし。これ以上妹はいらん、勘弁してくれ。
「ゆい、聖が妹って言っているのは冗談だぞ? 本気で言っているわけではないから適当に聞き流しとけ。」
「ふふふ、ゆいはね知っていたよ。お姉ちゃんがじつは妹力もかなり高いっていうことを! そしてまえまえからお姉ちゃんは妹にもなりたかったんだってことを!」
「え? ゆ、ゆいちゃん? 妹力って何? というか私は妹になりたいなんて思ってないよ?」
「妹力っていうのはねー、妹としての総合力の事だよ? ちなみにゆいは53万だよ? 変身もあと2回も残してるの!
そしてお姉ちゃんはすいてい30万もの妹力を持っているの! これは地球人としては有り得ないほどのとんでもない才能なのよ! きっと立派な妹になれるの!」
聖は聖の妹発言をゆいが真に受けてしまったことでちょっと焦っていた。そしてゆいもなんか訳分らんことを熱く語っている。ゆい、お前地球人じゃなかったのか……。それにあと2回も変身できるなんて。って変身!? 返信じゃないよね? 変身? メタモルフォーゼ!?
それにしても変身ってゆいは妹というのを何だと思っているのだろうか。変身すれば妹力とやらが上がるのか? うーん謎だ。
「いや、ゆいちゃんもれっきとした地球産まれ地球育ちの地球人だからね? ゆいちゃん、お姉ちゃんはね、本当の本当に妹になりたいと思っていないのよ? 私はゆいちゃんのお姉ちゃんであればそれでいいの。」
「うーん、お姉ちゃん、それはもったいないよー。せっかくそんなに溢れる才能があるのにぃ。」
「そんな才能私には必要ないから!」
「えー、お兄ちゃん何とかしてよー。お姉ちゃんがなかなか妹にならない!」
そりゃならないだろうな。ってか何とかしてって言われても俺には無理だ。
「うーん、どうすればこの才能をつぶさずにすむのか。あっ! そうだ!! お姉ちゃん来週に公園で参加費無料の大会があるんだけどそれに一緒に出よう?」
ん? なんかいきなり話が飛んだな。なんで突然公園の大会の話になったんだ?
「大会? でも私最近は教団員を増やすための活動で忙しくて……。」
「なんでも優勝賞金は50万円らしいよ。」
「是非出ましょう!」
この決断力、流石である。
それにしても参加費無料で優勝賞金50万円ってちょっと怪しくないか?
いやでも50万円は大きいよなー。俺も出てみようかな?
「なぁゆい、その大会には俺も出てもいいか?」
「お兄ちゃんが出場するのはあまりお勧めしないよ? というかやめておいた方がきっといいと思う。」
「そうなのかー。俺も50万目指して頑張りたかったんだけどなあ。ちなみにその大会ってなんの大会なんだ?」
俺が出るのはお勧めしないってことはミスコンとかそういう系統なのかな。
「ふふふふ、よくぞ聞いてくれたねお兄ちゃん! その大会はね、今年で50回目をむかえる歴史あるすっごい大会なんだよ。
その名も『天下一妹道会』!」
「「・・・・・・はい?」」
次回天下一妹道会開幕!