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3話 町案内①

俺は日本に召喚されてから、SSK教団本部の建物に住み生活をしている。勿論タダでという訳ではない。当初聖は俺が教団に入団するならばタダでも良いと言ってくれた。だが前世の俺を崇拝しているらしいこんな怪しい教団に入る気など一切起きず、話し合いの結果、教団内の仕事の一部を家賃代わりに引き受けるといった形に落ち着いた。前世の俺は大学時代は経営学部で会計を専門として学んでいたので、経理なら任せろと言ったところ聖はとても喜んでくれた。  




そういうわけで最近始まった俺の仕事となっている作業が一段落つき、昼食に行こうと部屋の扉を開ける。


「ぴぎゃっ」


ん? 何かぶつかったぞ。 それに珍獣みたいな鳴き声も聞こえてきた。


「あー、お前大丈夫か?  ていうか何で扉の前にいるんだよ。 怪我はしてないよな?」


 今度はぶつけないように扉をゆっくりと開けると、そこには小さな女の子がおでこを両手で押さえつけて痛そうにしている姿が見えた。何か聖に似てるなこの子。ミニ聖って感じ。もしかしたら妹なのかもな。


「う、うーん、だいじょおぶ。 あ。もしかしてもしかして、あなたが最近入った新人さんですか? ゆいはねえ、お姉ちゃんにたまに全身下着まみれになろうとする新人が入ったから、下着ドロをされる前に下着を売っているお店を含めてこの辺の地理を叩き込んで来て下さいってお願いされて来たの!」


 ゆいって言うのは名前かな。初対面である俺にもこんなに元気いっぱい話してくれるなんて、いい子だなこいつ。問題はそんないい子に対する俺についての説明が悪意に満ち溢れてやがるってことだ。誰だこんなこと言ったやつ! どうせ聖だろ! っていうか俺に対してこんなトゲのある言い方をする奴を俺はあいつ以外に知らない。まぁ、多分日本に来たばかりの俺を気遣って教団本部周辺を案内してあげたいと思ってこの子を派遣してくれたんだと思うけど。あいつ最近新規団員募集強化週間とかいうのですげえ忙しいって言ってたし。


「その新人ってのは多分俺の事で合ってるぞ。ちなみにたまに全身下着まみれになんて俺はならないからな。なったのは偶然そんな状況になった一度だけだ。だからそのお姉ちゃんは色々と勘違いしている。それにしてもお姉ちゃんって聖のことか? お前聖と髪型とかそっくりだもんな。」


「そっかそっか、勘違いかあ。うんうん分かったよ、新人さんも大変だったんだね。そしてお姉ちゃんについてはその通りなの。だけど血とかは繋がってないよ? 私は両親が死んじゃって色々あってここにお世話になってるんだけど、お姉ちゃんはゆいととってもとっても仲良くしてくれるからお姉ちゃんなの。」


「やっぱそうだったのか。お前も色々事情があるんだな。 

よし、分かった。それじゃ、早速で悪いがこの辺を紹介してくれるか? 最初は旨い飯屋が良いな!」


「任せてよ新人さん。 すっごくすっごくおいしいお店を紹介しちゃうよ! あとあと、一杯大人な下着が売ってるお店も案内するから楽しみにしといてね?」


「お、おぅ、ありがとな?」


 あぁ、旨い店を教えてくれるのはすごいありがたいのに何故大人な下着のお店まで……。流石に外見年齢15歳の俺と、小学校低学年くらいのゆいちゃんがランジェリーショップに行って下着を物色するのは危険すぎる。ま、お店に入る前までに誤解を解けばいいか。





「ここがゆいおすすめのおいしいお店なの!」


 そう言って俺が連れてこられたのは、狭い路地裏にある暗い雰囲気の一件の店だった。お店の看板も塗装が所々剥げ、一人でここを発見したとしても絶対に入らないような店だ。


「食事処ガンジーか……。すげえ名前だな。ゆいはよくここに来るのか?」


「くるよー。あのねあのね、ここのお肉料理は絶品なの!」


「そ、そうなのか。この雰囲気から肉料理っていうと、ネズミとかハムスターの肉でも使ってんじゃねえかと疑いたくなるが、そんなに旨いっていうなら食ってみたいな。」


「そんなお肉使ってないよお、多分。早く速く! 中に入ろ!」


「ごめんくださーい、おじさーん、おばさーん、いるー? ご飯食べに来たよー。」


そう言って店のドアを開け、店内に入店していく。店の中は店の外見からは想像もつかないほど綺麗な内装で俺は驚いた。そしてお昼時なのにも関わらず客もいなければ店員もいないのを見て、よく店が存続するなと違う意味でも驚いた。

ゆいの声が聞こえたのだろう、奥の方から「あ、ゆいちゃん来たのね。ちょっと待っててー。  ほらあんた! 仕事だよ!」と女性の声が聞こえる。


しばらく待っていると、恰幅の良い中年の女性とその夫なのだろう筋肉ムキムキ、ガタイMAXなスキンヘッドの中年男性が出てきた。

な、なんだこの男! 威圧感が半端ねえ! サングラスこそしていないもののその外見はシティなハンターに登場する☆坊主そのものだった。


「いらっしゃい、ゆいちゃん! 今日も食いに来てありがとうなー!! 

ん? そこの男は何だ? もしかしてストーカーか? ったく最近の男は陰湿でいけねぇ。 ゆいちゃんが可愛いのは分かる、ものすっごく分かるぞ? だがそれとこれとは話が別だ。ゆいちゃんに群がる害虫は俺が握り潰す! おいてめえ、うちのゆいちゃんに何してくれてんだ、股間握り潰されてえのか? あぁ?」


 怖っ! 何だこの人。勝手に一人で俺をストーカー認定して、害虫認定してるぞ。ひぃっ、股間を潰される! まだ、新品なのに!!


「おじさんおじさん、この新人さんはストーカーさんじゃないよ? 最近ゆいたちの本部に住み始めたからお姉ちゃんに言われて、今ゆいがこの辺を案内してあげてるの!」


「そ、そうだったのか。聖ちゃんがゆいちゃんに頼んだのなら仕方ねえか。 わざわざこんな羽虫を案内してあげるなんて、ゆいちゃんは偉いねえ。

 おいお前! そうお前だ。今はこれで勘弁してやるがもしも! ゆいちゃんに手でも出そうものなら、オレが地獄の果てまでも追いかけてお前の股間を握り潰しに行くからな? よく覚えとけ!」


「お、おぅ。肝に銘じておくよ。てか流石にそんなことにはならないと思うけどな……。」


「んだと? それは何か? ゆいちゃんは手を出す程の女の子じゃねえってか? おい母ちゃん、チェーンソー持ってきてくれ。こいつの股間を切り落として目を覚まさせる。」


「バカ言うんじゃないよ! 何でそんな犯罪の片棒をあたしが担がなきゃいけないのさ。 あんたからしたらこの子がゆいちゃんに手を出さないってことでそれでいいじゃないかい。

ったく、ゆいちゃんのことになると見境なくなるのはあんたの悪い癖だよ。あんたこそ局部を切り落として目を覚ました方がいいんじゃないかい?

おっとゆいちゃん、それよりご飯だったよね? そっちの子の分も一緒に今作るから待ってておくれ。」


 何なんだこの夫婦は。癖が強すぎるぞ? てか股間を切り落とせば何でも解決出来るとでも思っているのか? 恐ろしすぎる…。






 ところで料理を頼んでも無いのに料理を作りに行ったが、メニューは無いのか?とゆいに聞くとこの店はその日その日で出て来る品が決まっており、その品に全身全霊を掛けているからこそ旨いのだとそういったことを言っていた。なるほど、中々気合の入っている面白い店だな。旨かったら俺も通おうかな。

 ちなみに後日店の奥さんに聞いたところ、昔は様々なメニューを用意していたそうだがあまりに客が来な過ぎて、たくさんの食材を用意したり仕込みをするのが馬鹿馬鹿しくなり現在のシステムにしたと言ってた。俺はこの真相を知らず、店の夫婦がどこよりも旨いものを作るためだけにこんなシステムにしたと思っているゆいには内緒にしておこうと思った。





その後出てきたとんかつ定食はゆいがおススメしていただけあってめちゃくちゃ旨くて、10数年ぶりにとんかつを食べた俺は感動で「うぅまぁあいいいぞぉぉぉおお」と口から謎の光線を出してしまった。いやー、ホントに旨いとあの現象起きるんだな。特定のアニメ限定の現象かと思ってたぜ。

俺の横に座っていたゆいも面白がって何度も「うーまーいぞおー」と俺の真似をしてはしゃいでいた。はまっちゃったんだろう。きっとこれ小学校の給食の時間にもやるんだろうな。なんか変なこと教えちまった。まあ、後悔はしてないがな!




 食事を食べ終わり、店の外に出て来る俺達。

ちなみに会計はもちろん俺が支払った。会計の際に筋肉親父に「おいてめえ、ゆいちゃんの食事をおごったくらいで勘違いするんじゃねえぞ? ゆいちゃんにタワマンの一つや二つプレゼントしてようやくてめえはゆいちゃんとの友達関係を認めてもらえるんだからな。 それ以上の関係になりたきゃ、オレを倒してからの話だ。」と熱い口調で言われた。過保護すぎるだろこいつ……。


「新人さん! ゆいのおススメのお店はどうだった? すっごくすっごくおいしかったでしょお?」


「あぁ、確かに絶品だったな。これからもあの店に通わせてもらうよ。」


「よかったあ。昔はね? 小学校のおともだちを連れて行ったりしたんだけど、みんなお店の外見を不気味がったり、おじさんを怖がったりしてあんまり気に入ってくれないの。 だからだから、気に入ってくれてすっごく嬉しいの!」


「そうだったのか、確かに小学生にあの筋肉親父はハードルが高いだろうな。ま、時間が合ったらまた行こうぜ。」


「うん! それじゃあね、まちの案内を再開するよ! 次はゆいが良く行く公園に行ってー、その後は新人さんお待ちかねの大人な下着の売っているお店に行くよおー!」


 あぁ、そういえばゆいは俺が下着大好きな変態野郎と誤解したままだったな。何てことだ、こんないたいけな少女にそんな悲しい誤解を受けるなんて。何とかしてこの誤解を解かないとな。

誤解……解けるんだろうか?


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