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プロローグ


「へ、変態だ。 あいつ、体中下着だらけじゃねえか! おい、誰か衛兵を呼んできてくれ!!」

 そんな声がした。

 

すると、周囲の人も騒然となっていき、「うわ本当だ」「最低ね」「女物だけでなく男物まで……」「レベル高えな」「あぁ、ありゃプロだな」といった声が聞こえてくる。騒ぎが騒ぎを呼び、今やほとんどの人は仕事や買い物を中断し、その変態の様子を伺っていた。


しばらく様子を見ていると、ごつい体をした町の衛兵が全力疾走でやって来るのが見えた。騒ぎが起きてから来るのが早いな。この衛兵は優秀なんだなきっと。


人々が注目する中、衛兵が変態の近くで足を止め、息を整え終えると言った。

「おいそこの変態! どんな事情や性癖があるのかは知らないが住民の皆さんに迷惑を掛けるんじゃない! まったく、なんでこんなことをしたんだ。詰め所に連れていく前に軽く話くらい聞いてやる。」


 衛兵は変態を睨みながら近づいていく。いや、この言い方は少し違うな。近づいていく、ではなく近づいてくるというのが正解だ。


なぜかって? だってその変態は俺だもの。もちろん誤解をして欲しくはないのだが、俺は好き好んで下着まみれになっているわけではない。いろいろと不幸な事故が重なった結果がこの現状だ。だからしっかりと説明すればきっと俺を侮蔑の目で見ている人々にも分かってもらえるはず。そう思いこの悲しい誤解について説明しようと口を開いた。


「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」


失敗した。失敗した。失敗した。所々から悲鳴が聞こえる。俺は顔面下着だらけで呼吸もままならないせいで全く喋れなかった。というか呼吸をして酸素を取り込むので精いっぱいだ。誤解を解くどころか自らの変態性を証明してしまった気しかしない。段々頭もぼおっとしてきた。しかしこのままだとマズいと思い俺は最後の手段ボディランゲージに打って出ることにした。




ボディランゲージは世界共通言語と言っても差し支えないだろう。相手が英語を喋っていようが、ポルトガル語を喋っていようが手を振れば多くの人は手を振り返してくれるし、中指を立てれば多くの人はブチ切れる。


 そんな超便利なボディランゲージさんを使って俺は今から対話を行う。周囲の人々の俺に対する変態という認識が誤解であると伝えるために。しかし悲しいかな、今の俺は色々やらかして何をやっても効果が無いように感じる。そこでまずはブレイクダンスを行い周囲の皆に俺は無害だ。君たちをこのダンスで楽しませる友好的な存在だと訴えかけることにした。


 そしてブレイクダンスを開始し、そろそろ本格的にダンシングしてやろうかと思ったその時、俺は足元にあった石で体制を崩し頭から盛大に転んでしまった。その強烈な痛みにのたうち回っていると、


「何だ今の」「何かの儀式なんじゃないかしら?」「いや地面に欲情したんだよきっと」「レベル高えな」「さすがだな。痛みによる快感で痙攣してるぞ」といっと心無い声が聞こえてくる。最悪だ。


くそ、目元にあるのがスケスケパンツだから視認性良好じゃん、助かる~とか思ってた俺のバカ! これで俺の変態性は確固たるものとなってしまった。いや、最初から確固としていて覆せなかったような気もするけど。


そんな変態の様子を汚物を見るかのような目で見ていた衛兵は世の為人の為にも判断する。


「これは処刑するしかないな」






この世界に生を受けてから早14年、いや今日で15年か。俺サミュエル・キーンはなぜか生まれながらに前世の日本での記憶を持っていたこともあり幼い頃は天才だ、神童だと村の人にもてはやされていた。

(ちなみに前世の名は笹木咲という「さ」と「き」しか名前に使われないギャグみたいな名前だった。といってもこの名前はめちゃめちゃ覚えてもらいやすく俺も中々気に入っていた。なので昔から親しい人にはサキと呼んでくれと言っていた。)


しかしそんな状態がいつまでも続くはずがなく、最近ではその評判も落ち着き年の割には良く出来るといったものになっていた。そりゃそうだろう。だって前世で俺は20歳までしか生きていないし、入っていた大学も偏差値55くらいのごく普通の大学生だったからだ。そんな俺がいつまでも天才だなんだのと言われるわけがない。


そんな俺だがこの世界では彼女こそいないものの、友達や家族に恵まれ前世よりも幸せで満喫した生活を送っていた。まさに順風満帆なセカンドライフ?と言えるだろう。また、ここまで異世界に適応出来たのは、この世界が日本における明治時代くらいの文明で娯楽は少ないものの生きていくには困らなかったというのも大きいと思う。


しかしこの恵まれた人生を過ごしてきた俺はなぜ人生初の死刑宣告を受けているのだろうか。今日が誕生日の俺に対するこの世界からの小粋な贈り物(数え切れない程の下着)とちょっとしたサプライズ(周囲からの変態認定と死刑宣告)いったところだろうか。ふざけるな。いくら前世と今世で計35年もの間チェリーボーイとして研鑽を積み続け、見事真の魔法使いへと進化した俺でも、この状況で下着に囲まれても喜べない。というかそもそも男物の下着がある時点で台無しだ。


などと色々と思考を巡らせていると衛兵は、腰に差した刀を抜き俺に、「最後に何か言い残すことはあるか」と聞いてきた。


えーー!? 死刑宣告から死刑執行までテンポ良すぎだろ!! 裁判とかないのかよ! やばい、何か喋って死刑をやめてもらわないと。


「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」


 そうだったー! 今呼吸困難の真っ最中だったー!! やばいこれじゃあ死ぬ寸前まで興奮しっぱなしの変態野郎じゃねえか! これはさすがに死んだか、俺? と思い衛兵の表情を見ると、さっきまでの侮蔑の表情とは打って変わりなぜか笑顔を浮かべていた。


「そうか、最後までお前は自分自身を貫くというのか。その信念を他の事に向けていれば何か大きな事も成し遂げていたろうに。いや、これはお前の信念に対する侮辱か、忘れてくれ。……お前とは違う形で出会いたかったよ。」


なんかめっちゃ誤解されてるーー! 俺の変態性が一週回って衛兵のなにか琴線に触れったっぽい! 


「俺とお前の仲だ。痛みの無いようにしてやろう。」


 いや俺とあんたとの間には最初から最後まで誤解しかなかったよ! なに分かり合った仲みたいな雰囲気出してるの!? と心の中で突っ込んでいたら横にいる衛兵が俺の首を落とそうと刀を振り下ろしてくる。

 あぁ、死ぬのか俺。二回目だな…。


 来るであろう痛みに備えて俺はおもいっきり目を閉じた。



 中々痛みが来ないな。なんでだ? もしかして衛兵が最後の最後で誤解に気付いた? それとも誰かがこの突然すぎる処刑を止めてくれたのだろうか。現在の状況を確認するために、俺は恐る恐る目を開く。

 

すると、目の前に見えるのは先程までの変態の処刑を見ていた人々と、その処刑を執行しようとしていた衛兵はおらず、代わりに黒いローブを着た人物が10人程いた。しばらく静寂を保っていたのだが段々とざわつき始め最終的には俺に対して土下座する人まで現れた。俺はもう何が何だか分からず混乱を極め、思考を放棄した。うん、死んでないからオッケー。今はそれでいいや。


こちらが混乱しているのを知ってか知らずか中央にいた人物が俺の前に歩み出て、少し震えた声で言う。


「悪魔召喚の儀に応じて頂きありがとうございます。詳しいお話はおいおい説明させていただくと致しまして、まずは一言。  ようこそ日本へ!」


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