表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/25

哲学者カント、当時の食事を思い返す

 ラーメン屋、という料理屋に向かう道中、私は黄色天使に尋ねてみる。


「なんだね、その、ラーメン、というのは」


 私の質問に、黄色天使はさも何事でもないかのようにそう答える。


「ああ、ラーメンというのは、現代の日本のごく一般的な料理ですよ。スープに浸った麺料理のことです。麺は小麦が主な原料で、具は肉や野菜、茹でた卵などですね。スープにはいくつか味の種類があって……」


 と、黄色天使は説明を続けるのだが。


 小麦の、しかも麺料理が庶民にまで浸透している、ということに軽い衝撃を覚えた私は彼のその後の説明がまったく頭に入らなかった。


 私が生きていた時代、つまり18世紀の欧州(アーベントランド)では、アフリカやオリエントとの貿易の活性化、新大陸の発見、それから科学的知識の普及も相まって、外国由来の新たな考えや舶来品が急速に広まった。


 そしてそれは食料品も例外ではない。トウモロコシ、ジャガイモ、トマト、コショウ、カカオ、コーヒーにティー、そういった「文化的」食料品も徐々にヨーロッパに広まっていったのだが、それもまずは富裕層に限られてのこと。少なくとも、私がまだ活力と共に生活していた頃のケーニヒスベルクでは、これらの食品は一般市民の日常食ではなかった。


 一般市民の日常の食事といえば、主にキビやライ麦といった安い穀類と、ごくごく少量の小麦の混ぜ物で作られた粥やパン、豆のスープ、卵に乳製品、それから嗜好品としてのハチミツ。


 肉や上質なライ麦パン、そして小麦の白パンなどは、富裕層の食べ物。私も自分で食べていては何だが、一種のステイタス・シンボルであったと言える。

 

 富める者も、貧しい者も、等しく口にするものといえば、水、ビール、ワインくらいのものであった。


 それから麺類についてだが、プロイセンよりはるか南方、イタリアにはキビやトウモロコシで作られたポレンタの他に、パスタも食べられてはいる。私もスープに浸った麺料理はよく食したものだが、一般市民からすれば、そんなものは日常食ではない。


 そういうことで、私はこの黄色天使のもてなしに何を期待していたかというと、ライ麦のパン、よくて豆のスープ。チーズが口にできれば万々歳、なのである。


 つまり、私が何を言いたいかというと━━


 「一般市民にまで小麦の麺料理が広まっている、と?しかも具には肉が付いている、だと?なあ、黄色天使よ。これは人類が真に啓蒙された結果の一つ、と言えるのかね?」


「え?ああ、うーん……」


 なぜか、黄色天使はそこで黙ってしまった。

「ラーメンってなんぞ」

「麺料理っす。スープと肉がついてます」

「え、待って。人類啓蒙されてる?!」

「(何言ってるのこのおじさん……)」

こんな話でした


Esskultur der frühen Neuzeit

https://de.wikipedia.org/wiki/Esskultur_der_frühen_Neuzeit

2019.6.14


Vorländer, Karl (1924) 4.1 Kants Körper. Beginnendes Alter. In; Vorländer, Karl (1924/1992) Immanuel Kant - Der Mann und das Werk. 3. Auflage. Fourrierverlag.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >「え?ああ、うーん……」 めちゃ噴いてしましましたww [一言] 確かに肉の入った小麦料理と聞けば、昔の方からすれば超高級料理にも聞こえますよね? (;'∀') 卵も高そうだし、バル…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ