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とある日本の大学生、哲学者カントと夜の散歩をする②

章を設定してみました。それに伴って、これまでの「第一話」を「プロローグ」と「新・第一話」に分割しました。

 少しの間その場に留まって、無言で夜空を眺めていたおじさんは、ふと何かを思い出したかのような顔をして僕を見つめた。


「おい、知っとるか、私の墓になんと刻まれとるか」


 仮にも哲学者カントをテーマにした卒業論文を書いている僕からすれば、それは愚問だった。


「ええ、もちろん、もちろん知っていますとも。お墓に刻まれた、最も美しい文句の一つとして、今や世界中に知られていますよ」


「ふふ、そうだろうそうだろう」


 僕の答えに満足したのか、おじさんは、嬉しそうに微笑んだ。



◇◇◇◇


 深く深く、内省していくにつれ、二つの事柄が、常に新鮮な、そして膨れ上がる感動と畏怖の念でもって私の心を満たしていることに気づかされる。

 天に輝く星々と、私の中の道徳律。


◇◇◇◇




「なあ、黄色天使よ」


 現代科学に楯突いて、星座に感動した後、自分の墓に刻まれた文句をそらで暗唱したおじさんは、どうやら酔いからさめたようだった。


「私はなぜこの地で目を覚ましたのだろうな」


 そんなこと、僕にわかるはずもない。


 というか、あなたが本当に哲学者カントであるか、正直なところまだ分からないのだけれど。でもまあ、そのことについては、僕はひとまずこのおじさんを「信じてあげる」ことにした。


「それはわかりませんが、何か、『やること』が残されているのではないでしょうか。そういうの、今日では『ボーナスステージ』といいます。偶然の出会いでしたが、寝る場所と食べるものは提供しますから、どうか気を落とさないで」


「ほほう。そうか。神が私に与えた試練かとも思ったが、『ボーナスステージ』、か。私は基本楽観主義であるし、まあせいぜい楽しんでやるとするか。黄色天使よ、君にはこれから迷惑をかけることになるが、いずれ礼をしよう」


 こうして、僕と哲学者イマニュエル・カントを名乗る変なおじさんとの一日目は終わった。

※追記:カントのお墓にこの文句が刻まれたのは、彼の死後100年のことだそうです。この物語では、カントはなぜかそのことを知っている、ということにしますそうします。


お墓に刻まれた文句は、筆者による意訳です。原文は:

“Zwei Dinge erfüllen das Gemüt mit immer neuer und zunehmender Bewunderung und Ehrfurcht, je öfter und anhaltender sich das Nachdenken damit beschäftigt:

Der bestirnte Himmel über mir und das moralische Gesetz in mir. ”


Vorländer, Karl (1924) 4.8 Die letzten Jahre.Tod und Begräbnis. In; Vorländer, Karl (1924/1992) Immanuel Kant - Der Mann und das Werk. 3. Auflage. Fourrierverlag.

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