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第9話  完璧な獣

 目的の武器――「火ノ加具土命」を何とか手に入れ、とりあえず一息付く俺達。だが、まだ目的を全て果たした訳じゃない。

 まだ、やらなければならない事がある……そう思い、俺はフェニックスに話し掛ける。


「あの、少しお話があるんですが……」


「……ミナマデイワンデモヨイ。ワレヲ、シモベニシタイノダロウ?」


「お見通しですか……」


 フェニックスは最初から分かっていたのか、こちらの意図するところを指摘してくる。


「トウゼンダ。ソモソモ、ソナタガヤラナケレバナラナイノハ、ソノケンヲテニイレルコトデハナイ。ワレラシュゴシャヲ、クップクサセルコトダ」


「……そうしなければ、このダンジョンからは出られないからですか?」


「ソウダ。アノ、ショウワルオンナノオモイドオリニウゴカサレルノハ、キニイランダロウガナ」


 性悪女、か……フェニックスにそこまで言わせるとは、予想通り相当性格が歪んでいるらしい。


「それで、しもべにはなって頂けるんですか?」


 分かっているのなら、回りくどい事をしても意味はないので、ストレートに聞く。しかし――


「……ワルイガ、ムリダ」


 と、拒絶されてしまう。


「そんな!?」


 フランが悲痛な声を上げる。まあ、一筋縄ではいかないとは思っていた。しかし、こうも明確に拒絶されると次の手のとっかかりも掴めない……そう考えたが、フェニックスの言葉には続きがあった。


「ハヤトチリスルナ。ハナシハ、サイゴマデキケ。ワレハ、コレカラ『テンセイキ』ニハイルノダ。ヨッテ、『ワレジシン』ヲシモベニスルコトハ、デキナイトイウイミダ」


「あっ! ……そうなのですね……」


 フランは、フェニックスの言葉に1人だけ納得して、少し寂しそうな顔をする。


「フラン、1人だけ納得していないで説明してくれ」


 また、人を置いてきぼりにして話が進んでいるので、フランに突っ込む。


「も、申し訳ありません! えっと、転生期とは転生する期間という意味です。フェニックスは、寿命が来ると自らを焼き尽くして灰になり、再び幼生体に生まれ変わるんです。その際、生前の記憶を全て失うと言われています」


 なるほど……だから「我自身」と言ったのか。確かに何かの伝奇で、フェニックスは死んでも灰から生まれ変わるという話を読んだ事がある。


「ソウイウコトダ。ヨッテ、シモベニスルナラテンセイシタ、ヨウセイタイノワレニスルガイイ。ウマレカワッタバカリノ、ヒナノジョウタイユエ、シモベニスルノハタヤスカロウ」


 フェニックスの言葉を聞き、嫌な予感がして聞き返す。


「雛って事は、その……」


「ソナタノソウゾウドオリダ。センリョクニハ、ナランダロウ」


 少し声に含み笑いを帯びた返答が返ってくる。ハァ~……と思わず溜息を付いてガクッとする。

 今のフェニックスと一緒なら、フランと力を合わせてベヒモスと戦える可能性があった。だが、生まれ変わったばかりの雛は、やはりレベル1らしい。戦力として数えるのは論外だ。

 これもあの女の想定通りなんだろうか? という考えが頭に浮かぶ。正直、とことんこちらを追い込む手口には、舌を巻かざる負えない。

 そんな俺を見て、考えている事が分かったのかフェニックスが笑う。


「クククッ……ナンギナモノニ、ミソメラレタモノヨナ」


「フェニックス様、他人事みたいに笑わないで下さい! 幼生体の貴女も危険にさらされるんですよ!」


 フランが、フェニックスの態度に文句を言うが――


「フン、シランナ。ウマレカワッタラ、モハヤベツノソンザイダ。ワレノ、カンチスルコトデハナイ」


 と、文句は一蹴され、ウウッと悔しそうな顔をしてフランはフェニックスを睨む。そんなフランを見て、フェニックスが呆れた声で言う。


「……ヤレヤレ、スッカリホネヌキニサレオッテ。……マア、テンセイマエニイイヨキョウモミレタ。サイゴニ、センベツグライハノコシテヤロウ」


「選別ですか?」


「ソウダ。ソコニ、ソノケンヲモウイチドサシテ、サイダンノシタマデサガッテイロ」


 俺達はフェニックスが言う通りに、祭壇に刺さっていた位置に再び剣を刺して下がる。祭壇の一番下まで下りると、フェニックスがこちらに話し掛けてくる。


「デハ、コレカラ『テンセイノホノオ』デ、ワレハミズカラヲヤク。ソノホノオヲ、コノケンニクワセテヤロウ」


「ほ、本当ですか!?」


 その提案に、フランが驚いた声を上げる。


「凄い事なのか?」


「はい! 転生の炎は、別名『神炎(しんえん)』と言われる程に強力な炎です。何せ、炎の化身ともいえるフェニックスすら焼く炎ですから」


 確かにそう聞くと、凄そうだ。そんな炎を火ノ加具土命に喰わせて俺に託してくれる。粋な選別と言えるだろう。


「マア、アノ『カンペキナケモノ』ニ、ドレダケツウジルカハ、ワカランガナ」


「完璧な獣?」


「ソウダ。カミノケッサクトショウサレル、カンペキナケモノ……ソレガヤツダ。ダガ、ソレガギャクニヤツノジャクテンデモアル」


 完璧である事が弱点? どういう事だ? フェニックスは、意味深な事を言う。その言葉に頭を傾げる俺に、フェニックスが聞いてくる。


「……ソナタ、ナヲナントイウ?」


「あっ、名乗ってませんでしたね。申し訳ありません。俺は、神座 晃と言います」


「カミクラ アキラ、カ……ヨイナダ。……カミクラ アキラ、ヤツヲクップクサセタクバ、オモイダスコトダ。オノレガ、ナニモノナノカ(・・・・・・・)ヲ、ナ」


 そう言ってフェニックスは大きく羽を広げると、フワッと空中に浮く。そして、凄まじい炎が体から噴き出して、全身を焼く様に炎を纏っていく。


「デハ、サラバダ。カミクラ アキラ、ドリュアス――イヤ、フランヨ。ソシテ、ツギノコンジョウノワレヲ、ヨロシクタノム」


「はい」


「我が真名、フラン・リデュエールの名に誓って」


 その言葉を聞いて、フェニックスは満足そうな顔をすると、炎が一層激しく燃え盛り、オレンジ色だった炎は、やがて白色となり、そして最後には青白くなっていった。

 そして、フェニックスの姿は炎の中へと消えて行き、後に残った炎は吸い込まれる様に、火ノ加具土命へと集束して消えて行く。

 炎が消えた後、祭壇にフェニックスの姿はなく、うず高く積もった灰だけが残されていた。


「逝ってしまわれましたね……」


 フランが、少し寂しそうな声音で呟く。


「ああ……だが、美しい最期だった」


「ええ」


 俺たちは、先ほどの熱量が嘘の様に引いた祭壇の上に昇り、灰の山を見つめる。すると、灰の中がモゾモゾと蠢き、やがてそこから美しい深紅の羽を持つ、1匹の鳥が姿を現す。


「クルルル……」


 小さな鳴き声を発しながら、身に付いた灰を落とす様に羽を広げる。フェニックスと比べると小さいが、それでも大人のハヤブサぐらいの大きさがある。

 そして、そのフェニックスの幼生体は、クリッとした瞳を俺に向けて、ジッと見つめてくる。


「主様」


 フランに即され、俺は頷いて『審判の瞳』を使用し、幼生体のフェニックスの真名を口にする。


「初めまして。よろしくな、『凰華(おうか)』」


「クルルッ!」


 凰華は、嬉しそうに一鳴きして飛び上がり、俺の左肩にフワリと止まった。こうして俺は、2体目の守護者フェニックス――『凰華』をしもべとした。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 凰華を左肩に乗せ、腰に火ノ加具土命(鞘は、祭壇の後ろの宝箱に納めてあった)を下げた出で立ちで、俺はダンジョンを歩いていた。向かっているのは、フランのいた左の区画にある庭園だ。

 武器を手に入れ、2体目の守護者もしもべとする事が出来た。凰華は、生まれ変わったばかりで戦力にはならないが、こちらの言う事は多少理解は出来るらしく、簡単な意思の疎通は出来そうだった。

 俺を親(インプリンティングだろうか?)の様に思っているのか、俺の肩から離れようとしない。フランが、それを何やら羨ましそうに見つめている視線が気になる。


 ベヒモスを屈服させる方法は未だに思い付いていなかったが、着実に前に進んでいる実感はあった。

 しかし、如何せん疲労が激しい。フランからも「フェニックス様の試しはかなり過酷だったので、疲労がかなり溜まっている筈です!」と指摘され、庭園で1度休む事を提案された。

 フランの言う通り、正直堪えてはいた。多少休んで回復したとはいえ、精神力をギリギリまで削られたので本調子とは言い難い。それに1度ゆっくり体を休めれば、良い案も浮かぶだろうと考えていた。


 そんな、半ば少し楽観的な考えで、俺はダンジョンを進んでいた。そして入口の門の付近……フランの庭園の区画に向かう十字路に差し掛かった、その時だった。

 ソイツは不意に――何の前触れもなく、その姿を俺達の前に現した。


「なっ!?」


 十字路の中央、そこに1匹の巨大な獣が鎮座していた――ベヒモスだ。余りに突然過ぎる遭遇に、思わず驚愕の声を漏らす。

 その声に気付いた奴は、こちらを睨み据えて凄まじい咆哮を上げた。


「グウオオオオオオッーーーー!!!」


 その声は、ダンジョン自体を震えさせるぐらい凄まじくその場に木霊した。その影響でこちらも完全に身が竦んでしまう。そこに、無慈悲にも巨大な前足による薙ぎ払いが襲い掛かる。


「主様!!」


 フランが咄嗟に飛び出し、俺を横に押しのけて自身の前に蔦の壁を出現させ、奴の攻撃を防ごうとする――が、奴の爪はいとも容易く蔦の壁を引き裂き、そのままフランを薙ぎ払う。


「キャアッ!?」


 フランは、勢いよく弾き飛ばされてダンジョンの壁に叩きつけられる。その際、グシャッ! という嫌な音が鳴り響いた。

 フランはそのまま力なく地面にドサリと落ち、ピクリとも動かず倒れ伏す。


「フラン!!」


 フランの名を叫ぶが、反応はない。慌ててステータス表示を見ると、HPが半分近く減っていた。死んではいない様だが、俺の呼ぶ声に反応がない。


「クソッ!?」


 俺は、自分の不甲斐なさに悪態を付きながら、火ノ加具土命を抜き放ち、その身に宿した炎をありったけ噴出するよう命じながら、奴に向けて振る。

 すると、凄まじい炎の奔流が剣から解き放たれて、奴を覆い尽くした。


「ギャウッ!!?」


 と、一瞬叫び声を上げて後ろに下がり、身悶えるベヒモス。その隙に、俺はフランの下へと駆け寄り、フランの状態を確認する。

 咄嗟に体を庇ったのか左手に裂傷を負い、頭から緑色の液体が血の様に流れ出ていた。口からも吐血が見られる。 

 俺はフランを抱きかかえて、呼び掛ける。


「フラン! しっかりしろ!! フラン!!」


「ウゥッ……あ、主様」


 フランが薄っすらと目を開く。まだ意識がしっかりしていないのか、声は弱々しい。俺はフランを抱き上げて、急いでその場を離れ様とする。だが――


「クルルルルッ!!」


 と、頭上から警戒する様な凰華の鳴き声が響く。先程突き飛ばされた際に空中に飛び上がっていたらしい。

 俺は背後を向くと、炎に包まれていたベヒモスが、身体を大きく振るわせて炎を吹き飛ばし、消し去る姿が目に映る。

 そして、炎を受けた筈のベヒモスの姿を見て愕然とした。あれだけの炎を浴びながら、黄金の毛は何の変化もなく健在で、ベヒモスの皮膚にも火傷らしき跡が1つも見つからなかった。事実、ベヒモスのHPには何ら変化は無い。


「完璧な……獣……」


 驚愕し、思わずフェニックスが言っていた言葉を呟く。そこには正に、いかなる脅威に晒されようとも揺るぐ事がない、完璧な獣の姿があった。


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