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第3話  複雑怪奇なダンジョン

 別れた道を真っ直ぐ進んでから、大分ダンジョンの探索を行った。

 それはもう、かなりの距離を歩いたが最初に会ったモンスター以外に出会う事は無かった。それは良かったのだが……。


「何なんだ、このダンジョンは……」


 俺は生徒手帳に書き記したダンジョンのマップを見て、思わず呟く。そこに記載されていたのは、あっちこっちに道が枝分かれしまくっている複雑な通路群だった。


「明らかに入った者を迷わせる作りだな……そういう意味で言えばダンジョンらしいダンジョンだが……」


 どうも違和感がある……この手の知識は、友人とゲームをした際に色々やり込んだ。

 特にRPGを作りたいと相談してきた友人とは、夜通しダンジョンをどんな構造にするか考えた事がある。色んな罠を考えたり、どんなモンスターを配置するか等、色々深く話し込んだ。

 しかし、このダンジョンは罠の類は無いし、モンスターも最初の奴以外には見当たらないという中途半端感を漂わせる作り――まるで作り掛けの様なダンジョンだった。


「あの女が作ったと言っていたが、こんな作り掛けのダンジョンに、何の意図があって俺を放り込んだんだ?」


 意図が全く読めなくて、正直気味が悪い……だが、それよりもっと深刻な問題がある。


「かなりの距離を歩いたせいで、疲労が溜まって来た……それに水分を補給しないと体力を消耗する」


 ここに来てもう1時間近く歩き回ってる。水分を取らないと、人は4~5日しかもたない。

 脱出にどれだけ掛かるか分からないから、何とか水だけは確保したかった。水さえあれば生き延びれる期間は意外にも延びるからだ。

 俺の身長は182センチ、体重は72キロ、体脂肪率22パーセントといったところだ。それらを基に計算すると、基礎代謝、脂肪重量、備蓄エネルギーが割り出せる。そして、そこから割り出せる水だけで生き延びれる日数は「42日間」だ。

 ただ、これはおよその目安であり理論値に過ぎない。体力・気力・根性――要するに体力面や精神面は加味していない数値。

 流石に絶食や断食に挑戦した事は無いので、それだけもつ可能性は低い。

 だが、水さえあれば生存期間を延ばせるのは事実だ。だから、先ほどから探してはいるのだが、見つからない。


「参ったな……」


 流石に弱音が口から洩れる。こうなってくると早期の脱出が求められる。急いで出口を見つけなければならない。


「しかし、この構造を見ていると最初のあの部屋が一番奥まった位置にある……そして、あの部屋を守るかの様に、あの付近を巡回する巨大モンスター……何かあるのか? まさかスタート地点が出口なんてオチはないだろうが……」


 あの部屋に出口らしい場所は無かった……怪しいとすればあの瓦礫の山だが、俺の力じゃどうしようもない規模だ。

 だが、もし逆ならどうだ……あそこが一番奥で重要なのだとしたら、対極の位置が出口の可能性が出て来る。

 ダンジョンという場所は、基本は侵入者から何かを守る構造である事が多いだろう。宝だったり、ダンジョンの主だったり……もし、あそこが一番重要な場所と仮定すれば、そこから最も遠い場所が入り口――つまりは出口である可能性が高い。

 まあ、そもそもそんなダンジョンのラストフロアをスタート地点とした、あの女の意図は測りかねるが……。


「……その可能性に賭けてみるか」


 俺はマッピングした地図を見て、今までの通路の分岐、構造と通路の広がり方。そして、最初のあの部屋を最深部という前提を基にして、どうダンジョンを設計するかを想像し、入口の方向を予測する。


「……あっちだな」


 俺は予測した方向に進み、マッピングをしながら進路を調整しつつ進んだ。相変わらず、モンスターも罠も無い通路を進み、そして、1時間程進んだところでようやく開けた場所に出た。


「ここは……」


 正面には巨大な下り階段が設置され、その降りた先には巨大な扉が鎮座していた。恐らく入口の扉だ。

 俺はようやく見つけた事にホッとし、周りを警戒しつつ階段を下りて扉の前に進む。


「でかい扉だな……」


 それは、人が潜るには少し大き過ぎる扉だった。よって、ちょっとした不安が頭を過る。

 その不安を払拭する為、扉のすぐ前まで進んでドアの引手らしき部分を思いっ切り引っ張る。しかし、案の定というか扉はビクともしなかった。


「最悪……」


 念の為に押してもみるが、それでも扉に何の変化も与える事は出来なかった。

 重過ぎるのか、それとも何かしらの力で閉じられているのか……後者なら、方法を探す選択肢があるが、前者なら完全に終わりだなと、溜め息が出る。

 一応、目の力でも見ようと考えたが、それで答えが得られなければ、無駄な体力を消費するだけに終わる。何だか、いざっていう時になっているのに、あまり役に立たない力に少し腹が立ってきた。


「ハァ~……さて、どうしたものか……」


 苛立ちを吐き出す様に溜息を付く。

 扉に背を預けながら腕を組んで目を瞑り、思考の海に意識を沈める……考えろ……思考を止めるな……考えるのを止めたらそこで終わりだと、自分自身に訴えながら。

 そして、今まで考えないようにしていたあの謎の女に関して、突き詰める事にしてみる。目を開き、生徒手帳を内ポケットから取り出して、気になった事を纏めたメモ欄を開く。

 そこには、断片的な言葉が並べて記載してある。それを眺めながら、気になるワードを探す。


「戦い抜いて生き延びろ、か……」


 まず気になったのはこれだ。これを基にして論理を組み立てて行く。

 生き延びろ……つまり、あの女は俺に死んでほしいとは思っていない。なら、なんでこんな過酷な状況に俺を放り込んだ? しかもこの状況で生き残るには、この扉を開けて外に出るしかない筈だ。しかし、扉は開かない……つまり逃げる選択肢は用意されていない。

 戦い抜いて……まさかあのモンスターを倒す事がこの扉を開く鍵、という事か? 戦う……あのモンスターと? 無理だ。レベル差は圧倒的で武器もないんだ、勝ち目等ある筈も無い。それぐらいあの女も分かっている筈……という事は、他にもモンスターが?

 いや、入口に来るまでそれらしいモンスターはいなかったし、気配も皆無だ。その可能性は低い……という事は、レベル100の差を覆す(すべ)があるという事か? そうでなければ戦い抜いて生き延びろという言葉は矛盾している。

 少なくとも、倒す方法が用意されている可能性はある。その場合、まだ行っていない道にそれが隠されているのかも知れない。


 思考が纏まり、少し希望が見えた。再度メモ欄に目を向ける。次は――


「頭の上を見ろ……ちゃんと見えている様だな……これだな」


 この言葉にも引っ掛かりを覚えていた。そう思い、頭の上を見る。

 最初にここに来た時に見せられた表示だ。まるでゲームステータスの様な内容で、頭の上にレベルやHP、MPが表示されている。

 いきなり見えるようになったコレ……多分、あの女の仕業だろう。だが、なんでこんなものを見えるようにする必要がある? それはおそらく、これが無ければあのモンスターと戦えないからだろう。

 相手のHPやMP、そして自分自身の物も見えるのは、アドバンテージ的には有利だ。だがそれは、ますますあのモンスターと戦わないとならない可能性が高まる結論だ。


「正直、その結論は勘弁して貰いたい……」


 否定したくて思わず呟く。あんな絶望的な化け物、2度と会いたくないのが普通だ。正直言って相対するなんて正気の沙汰じゃない。


「そして、極めつけが――それに見た所、既に開眼もしている様だ、か。あの女、俺のこの目の力を知っているのか?)」


 開眼という言葉に、俺は左目に触れる。幼少期に目覚めた特別な力……久しぶりに使ったせいか、あまり上手く使えなかったが、使ってみてやはり特殊な力だと実感する。


「(子どもの頃、がむしゃらに使っていたこの力……もしかしたら、ここに連れて来られた事と関係あるんだろうか?)」


 暫し、この目に関して熟考するが、情報が少なく結論には至れない。今は深く考えても時間の無駄になりそうだ。

 そして、他の事を考えるかと切り替え、他には何があるか、とメモ欄を見ながらあの女の姿を思い出す。

 ……正直綺麗な女だったと思う。こんな酷い目に合わせてくれた女にそんな事を思うのは癪に障るが、思わず見惚れてしまったのは確かだ。

 白銀の長い髪……整った顔立ちに赤い燃える様な瞳……白磁の肌にスレンダーな肢体……あそこまでの美人は初めて見た。そうして再び女の姿を思い浮かべる。

 だが、ある部分が残念なのを思い出し――


「胸は小さかったけど……」


 と、呟いたその瞬間だった。


<誰がペチャパイだ!>


 と頭上から声が響いた。


「へ?」


 思わず、驚いて声を漏らす。


<あっ、しまった……>


 つい口が滑ったという感じで、間の抜けた台詞が頭上に響いた。何やら気まずい雰囲気がその場を支配する。

 今の反応……ずっと見ていたのか? 今までもずっと? 俺があのモンスターに怯える姿も、延々と歩き、足を棒にしてダンジョンを探索している姿も、ずっと高みの見物をしてたって事か?

 しかし、よくよく考えればその可能性は考慮すべきだったと気付く。

 自分の間抜けさと、あまりの理不尽な状況に沸々と怒りが湧いて体が震え、静かに頭上に向かって質問する。


「おい、コラ……まさかずっと見てたのか?」


<…………>


 しかし、女は答えなかった。


「無視するな、このペチャパイ!」


<だから、ペチャパイではない!!>


 身体的特徴を再び叫ぶと、否定の叫びが返ってくる。どうやらかなり気にしている様だ。

 このチャンスを逃す訳にはいかないと、俺は、怒りを言葉に乗せながら頭上に向かって叫んだ。


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