第18話 皇と皇座の破片
リアとフランの親子喧嘩というか、言い争いが一段落着いた後、俺達はリアに連れられ自身の城の自室へと招かれていた。
豪華絢爛と言って良いほど豪勢な部屋だったが、決して下品ではない洗練された作りの部屋に瞬間移動で案内された俺達は、今までの経緯や俺を招いた目的等、色々と聞く為に同じテーブルに着いていた。
テーブルの上には、三人分の飲み物が用意され、凰華やラゴウはテーブルの脇でのんびりしている。
「さて、何から話そうか……」
そう言って、飲んでいたティーカップを置くリア。
「……先ずは、あのダンジョンから説明しろ。何で俺をあんな所にいきなり放り込んだ?」
真っ先に一番理不尽だと感じた部分を突っ込む。流石にあの扱いには納得がいかない。
「アキラの事だから、察しは付いているのだろう?」
「リアの意図を全て理解した訳じゃない。経緯をしっかり説明してくれ」
あの結晶体に触れた時、俺の中にある力から記憶が伝わってきて、リアが何者で俺がどういう存在なのかは何となく理解はしている(理解が及んでいない情報も多いが……)。
ただ、どうしてあんな方法を取ったのか等の真意は分からない。そう伝えると、リアは左手で形の良い顎を触りながら思案顔で説明を始めた。
「ふむ……では説明するが、あのダンジョンは元々は『皇核』を守る為に作った場所だ」
「『皇核』……あの赤い結晶体の事だったか?」
頭の中にあのダンジョンで見た紅に輝くキューブ型の結晶体の姿が浮かび上がる。
「そうだ。あれはこの島の要であり、『皇』の力の根源でもある。まさに超重要な最上級アイテムだな」
そんな重要アイテムを気軽に説明するリア。大胆なんだか大雑把なんだか……。
「その超重要アイテムと俺を接触させる為に、いきなりあそこに放り込んだ、と?」
「ああ、アキラは私の皇座の破片だからな。アレに触れればアキラの中に眠っている破片が覚醒する。そうすれば、私が何者で己が何者なのかを識り……破片に宿る記憶も伝わって、力も自在に使えるようになる」
だから、いきなりダンジョンのラストフロアだった訳か……。しかし――
「その割には、肝心の入り口が塞がっていたんだが?」
と、不信感を前面に押し出した表情で指摘する。
「その文句はラゴウに言え。入り口を壊したのはそやつだ」
「え?」
リアの発言に驚いて、テーブル脇にいるラゴウを思わず見る。ラゴウは、頭に凰華を乗せた状態で我関せずと伏せて、目を閉じていた。
「あ~……ラゴウ、そうなのか?」
ラゴウに話し掛けると、伏せていた顔を上げて答える。だが――
「ガウ?」
と、よく分かっていない返事が返ってくる。
「こう言っているが?」
「何も言っておらんだろうが!」
「お母様、言い訳ならもっと上手いものを用意するべきですよ?」
フランも呆れた声で追随する様に指摘するが、それを聞いたリアは、立ち上がって自身の言い分を述べる。
「言い訳ではない! 私はラゴウに侵入者を階段下に行かせるなと命じてアキラを迎えに行った。それなのにそやつは変な知恵を働かせて階段周りの祭壇を壊して塞いでしまいおったんだ! 私とて焦った……アキラを連れて帰ってきた時には塞がれていたんだからな! 最初にあそこに逃げ込ませる筈だったというのに……」
そう言ってラゴウを睨みつける。どうやら嘘を言っている訳ではないらしい。
「ですが、それでしたら直接あの部屋に主様を転移させたら良かったのでは?」
フランが俺の疑問を代弁してくれる。もっともな意見だ。早々に俺を覚醒させたかったのなら、そうした方が手っ取り早い。
「あの部屋は、『皇核』を守る要の部屋だ。外敵の侵入を容易に許さぬ様、転移を阻害する結界を張ってある。よって私でも直接あの中への転移は出来ん」
そう言って立ち上がった状態から、不満げな顔でドカッと椅子に座り直すリア……なるほど、筋は通っている。
「だが、何の説明も無しに放り込む説明にはなってないぞ?」
そのせいで何度死に掛けたか……目的は理解したが、何の説明も無しに放り込む意図が分からん。だが――
「一から十まで説明せんと行動出来ん奴に、私の皇座の破片は務まらん」
と偉そうに言い放った。
「皇座の破片、ね……」
皇座の破片……俺の『審判の瞳』の核となっている力の源であり、俺が今回の件に巻き込まれた根本の原因……記憶映像で見たあの七つの光の事だ。
皇座の破片とは、それを受け継いだ者の事を言うようで、俺の持つ破片はあの映像ではリアが手にしていた物だ。
「お前の持つ破片を俺が受け継いだ……だから、俺はお前の皇座の破片って訳か?」
「そうだ!」
自信満々な面持ちでそう告げるリア……。
「(好きで受け継いだ訳じゃないのに、堂々と言い切りやがって……)その皇座の破片とやらは、どういう存在なんだ?」
「皇と共に在り、皇と共に歩く者……そして、分かたれた世界を統合する為の鍵となる者だ」
「分かたれた世界を統合する為の鍵?」
なにやら大仰な言葉が飛び出して来た……確かに皇核に触れて見た記憶でも、世界が七つに引き裂かれ分かたれるシーンがあった……それを一つに統合する鍵という事は――
「……リアの目的は、その分かたれた世界を一つに統合する事が目的、なのか?」
俺の言葉を聞き、リアは笑みを浮かべ答える。
「フフッ、やはり察しが良いな。まあ、概ねその通りだ。だが、まずは国内を安定させる事が最初の目標だ。その為には皇の力と権威の象徴でもある皇座の破片が不可欠となる。だからアキラには私の右腕になって貰い、国政に力を貸して欲しい」
そう言って、ティーカップを手に取って満たされている琥珀色の液体――紅茶を一口飲む。
「国政……やはり、リアは一国の『皇』なのか?」
城下町があったから、他にも人が住んでいる事は予想していたが……。
「そうだ。私はこの浮遊大陸『紅の大陸』の主であり、そこに唯一ある国の皇だ。そして、その皇に付き従う皇座の破片は、さっきも言ったが国の権威の象徴……故に国民皆がアキラを認め、受け入れなければ意味がない」
「だから、ワザと過酷な状況に放り込んだと?」
「そうだ。何処かの獣のせいで、随分と予定が狂ったがな……」
そう言って恨みがましくラゴウを睨む。ラゴウは、相も変わらず顔を伏せて目を瞑っている。先程からこちらが喋る度に耳がピクピク動くので、話を聞いてはいる様だ。まあ、どこまで理解しているかは怪しいが……。
「じゃあ、あのステータス表示はお前のサービスだった訳か?」
「お! 良く分かったな!」
俺の指摘に嬉しそうな顔をするリア。
「何か違和感があったんだよ、アレは……おまけにダンジョンから出たら見えなくなってるし……」
そう言ってフランの頭の上をチラリと見ると、あのステータス表示は消えていた。あのダンジョン内だけで見える仕様だった様だ。
「簡易的な物だが、指標としては役に立っただろう? アレはダンジョン内にいる者の肉体や精神状態をリアルタイムで数値化する物だ。分かりやすい様にアキラの世界のゲームを参考にして作ってみた。おまけにダンジョン内でしか見えんから、手を貸していたと国民には分からんしな」
こ、小狡い事を考える……まあ、清廉潔白だけでは一国の皇は成り立たないとは思うが……。
「後は、アキラの知る通りだ。お前は見事に窮地を潜り抜け、私の用意した物を全て手に入れて私の前に来た。この結果に文句を言う国民はいないだろう」
そう言って、「良くやった」とでも言う様な得意気な顔をする。
「(偉そうに……まあ、皇なら偉そうなのは当然か……)」
事情はあらかた分かったが、だからと言っていきなり全てを受け入れる事は難しい。
リアが皇として国を背負っているのは理解したが、いきなり俺もそれを背負う義務はないし、俺にも選ぶ権利はある筈だ。有無を言わさず、無理難題を背負わされる謂れはない。
……だが、そんな事を言ってもリアは引かないんだろうな~、と思う。
「……俺に皇座の破片にはならないという選択肢はないのか?」
そう念の為に聞くが……
「ない! お前の運命だ、諦めろ!」
そうキッパリと言われた。それを聞かされ、ガクッと首を落とす。それに追い打ちをかける様に、更なる宣言をされる。
「それにもう国民達には周知の事だ。今更引くに引けん!」
「ハァ!?」
そう驚きの声を上げた瞬間、外から物凄い歓声が鳴り響き、窓ガラスが震える。
「な、何だ!?」
「気になるなら、そのバルコニーの外を覗いてみる事だ」
そう言って、窓を指差す。その先には確かに窓からせり出したバルコニーがあった。
「……嫌な予感しかしないんだが?」
「いいから出ろ。私もついて行くから」
そう言ってリアは席から立ち、バルコニーがある窓の前まで行く。どうやら完全におぜん立てがされているらしく、もう逃げ道はないようだ。
「ハァ~……分かったよ。フラン達はそこにいてくれ」
「はい、畏まりました。主様」
「クルッ」
「ガウッ」
俺は溜息を付いて席を立ち、1人と2匹に見送られながらリアの傍に移動する。
「さて、アキラ。この窓の先は、私とお前の『皇道』への第一歩となる。踏み出す覚悟は良いな」
「覚悟も何も、拒否権はないんだろうが……」
正直、もはや完全に諦めの境地だ。どうやっても避けられそうもない。そう思って投げやり気味に言うと、リアは今まで見た事もない真剣な表情をして告げる。
「そうだ。皇と皇座の破片……そう生まれた以上、私とお前は同じ運命を歩く様に定められている。でも、これから歩く道はその様な半場諦めた中途半端な気持ちで歩く事は許さん」
「…………」
そのあまりにも威厳に満ちた顔を見て、改めて思った。リアは間違いなく『皇』なのだと……。
そして、その後ろにとてもつもなく重い重責を背負っている……。
「アキラ……私は我儘な皇だ。お前の言う通り、傲慢で、自己中心的でズルい……未熟者だ。この先もお前に無茶な事ばかり要求すると思う。それでも、私と共に歩いて欲しい。この国を守るには、どうしても必要なのだ。皇の従者となる皇座の破片が……だから、私の手を取って欲しい」
そう言って、こちらに左手を差し出す。俺はその手を見つめ、そして気付く。その指先は、本当に少しだったが震えていた。
俺は上を仰ぎ見て目を閉じ、心の中で呟く……『ごめん……父さん、母さん、じいちゃん、ばあちゃん……真菜……暫く家には帰れそうにない……』
そう呟いた後、俺はリアの前に跪いた。
「我が皇の御心のままに……」
リアの顔を見てそう告げ、その手を取った。
逃げ道を塞がれ、理不尽にも押し付けられた運命……だが、俺は少しワクワクもしていた。何故なら、ある予感が心の内に浮かんでいたからだ。
「(俺が生まれてきた意味……それがリアの皇座の破片として生きて行く事なのかは、まだハッキリ実感が湧かない。でも、少なくともリアと共に歩いて行けば、それが見つかるかも知れない)」
「うむ! 我と共に皇道を歩け! 神座 晃!!」
リアは嬉しそうに顔を笑顔で満たし、力強くそう宣言して俺の手を引く。俺は手を引かれて立ち上がり、2人で手を繋いだ状態で窓の前に立った。そして、窓が開け放たれて外に響いていた歓声が一気に体に押し寄せる。
俺達は一度視線を合わせた後、その歓声の海へと2人で踏み出す。
こうして、俺とリアの長く険しい『皇道』を歩む道が始まったのだった。
皆様、初めまして!
アフロミア・フラグメンツを書いているアマチュア創作作家「麿独活」です。
そして、いきなりで申し訳ありませんが、「アフロミア・フラグメンツ」は、この18話にて、
本編は一旦終了となります。
読んで下さっている方がどれだけいるか分かりませんが、続きを期待して下さって
いたら、大変申し訳ございません!理由はいくつかあります。
一つは、より多くの方に読んで頂けるよう露出を工夫したい為です。
大量の作品が毎日投稿、更新される為、どんなに頑張って書いても、
中々読者さんの目にとめて頂ける可能性はかなり低いです。
その可能性を少しでも上げる方法を色々試す為、この作品は章毎に話しを
一旦終わらせ、新作で次章を投稿する判断を下しました。
二つ目は、タイトルを目立たせる為に~〇〇~の内容をダンジョン特化に
してしまいましたが、次章からの話の展開が、頭の中でどんどん外への展開に
発展してしまい、ダンジョン内に納められなくなってしまいました。なので、
次章は「アフロミア・フラグメンツ2 ~〇〇~」と表題が変わり、タグも少し変わる事に
なると思われます。
そして最後の三つめは、書いてて思ったより壮大な話に頭の中で発展して
いってしまったので、次章のプロットをもう少ししっかり練ろうと思った為と
なります。よって、次章公開はちょっと先になると思います。
以上の理由から、一旦終了と相成りました。より良い作品をより多くの
人に読んで貰いたいが為の私なりの試行錯誤の結果ですので、ご理解頂ける
と幸いです。
因みに、外伝は何話か追加しようかな~……と考えています。キャラの掘り下げが
足りないと思っている(特にリア)ので。ただ、ちょっと最近忙しく別作品も
書かないとならないんで、不定期投稿になると思いますので、気長にお待ち下さい。
それでは、これにて失礼いたします。今後とも、よろしくお願いいたします!
一言感想でもいいので気軽にコメント下さいね~。こんな展開やこんなお話
追加して~。なども是非下さい。頑張って作品の糧にさせて頂きますので!




