prologue-世界の端から-
もし、もしも・・・。
今は隣にいる大切な人が、一生会えなくなったら・・・。そんな世界、滅んでしまえと思うのだろうか。それとも新しく『大切な人』に似た人を作るのだろうか。
はたまた、その人を探し続けるのだろうか・・・。
『もしも』なんて・・・。
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海沿いの道を歩く。意味も分からず。ただ、スマホのメモを見て来ただけだ。
歩き慣れた筈の中学時代の通学路も、学校の校舎も、どこか懐かしい様な、何かあった様な・・・。
しかしその景色のすべてが、『何か』を自分に見せつけようとしている。
――なんだ。
ただ、さっきからこの景色すべてが、自分を苦しめているようにも感じる。
――何故だ。
水面に映る月を見つめ、独り、呟いた。
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「はぁー・・・今日で5年かぁ・・・。」
スマホの日記アプリを見て呟く。
私の記憶にあるのに、あなたの記憶にはない。
「いつか会いたいなー・・・」
なんてね、と付け足す。
会えっこない。会えっこないのに、どうして・・・。
――あなたは私の記憶から、消えてくれないの。
あの人と最後に話した言葉、それだけは忘れていない。否、忘れられない。
『つらくなったら、夜の空を見てみて』
なんで空なんて見ろって言ったんだっけ・・・。もう、思い出せないや。
――だって、もう五年も経ったんだもの。
そう自分に言い聞かせる。ただ、それしか思い出すことが出来ない。
きっと、私は怖いのかもしれない。思い出して、飛び出して言っても、もう・・・。
あー、だめだ。考えるな、私。とにかく上を見よう。上を見てもあの人と会える訳でもないけど。
満月に雲ひとつない夜空。あぁ、綺麗。夜空には満天の星空。しかし、しばらく星を見ていると、不意にそれらが滲んで消えた。月も滲んでいた。
あれ、と目に手を当ててみる。つぅ、と雫がこぼれ落ちた。
――どうして・・・。
声にもならないような、その微かな呟きと嗚咽さえも、空に輝く満月は静かに見守った。
――でも、どうしてだろう、『誰か』に会いたい。
そよ、と風が吹いて髪を揺らす。水面の月も俺と同じで揺らぐ。
――『君』にはもう、会えっこないのに。
風でなびく部屋のカーテンを締めながら私は思う。
お前と、
一緒に居たかった。
君と、
気がつくと、月はさっきまでと同じように、静かに微笑んだように水面に浮かんでいる。