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Spring has come  作者: Repos
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それから間もなく、オレ達は無事卒業を迎えた。

祥子には、そのあとに一度だけこちらからメッセージを送った。


「今日引っ越し。田舎に帰る。いろいろサンキュ。」

オレにしては,文字数が多いほうだ。

「こちらこそありがとう。元気で頑張って。」

祥子からの返事も似たり寄ったりだな。




4月になり、近所の桜が満開になった。

すっかり春だ。


新米教師として田舎の自宅から地元の学校に通うようになった。ここは母校でもあり,教育実習にも来た。自分が習った恩師も相変わらず在籍している。

高校大学の間,地域のことに関わらなかったからブランクがあって最近の子どもに顔見知りもいなかったが,保護者の中には知った顔がちらほら見えて,油断できない。


就任1年目から,3年生の担任を持つことになって,その一年間の間に指導教員から授業やクラスの運営その他のことを逐一教わる。緊張感もあるし,学ぶべきことが山ほどあって充実した日々。


小学校3年生の子ども達は,元気で素直で,本当におもしろい。子どもだと思って軽く考えていると,細かいところまで観察されていたり,思っても見ないところに着眼していたりする。

自分が発した言葉によって,子ども達の人生を左右しているのではないかとプレッシャーを感じるが,指導教員は「君の言葉の通りに子ども達が従うわけではない。どう受け止めるかは子ども達次第。」と言う。

まったくその通りだよな。


指導教員の見守る前で,拙い授業をしているのは,我に返るとこっぱずかしくもなるが,見られていることすら忘れていることが多い。オレは子どもと同化しているのだ。



学校にはしばらく自転車で通勤していたが,持ち運びする荷物も多いし雨の時も困るので車で通うようになった。

車の免許は大学の間にとってあった。

田舎に帰ってから,夜間の自動車学校に通って二輪の免許も取得した。

必要もなかったのに大型二輪まで。

卒業前の旅行の時,祥子がバイクを乗っていた姿が思い浮かんで,どうしてもそれを上回りたかったのだ。

まるでガキっぽいとは思ったけどね。


あの頃,祥子と会わなかったら,二輪免許など取る気になっただろうか?

・・うん。たぶん・・なかっただろうな。


田舎に帰ってからも,たまには祥子のことも思い出したりはしたが,

こちらから連絡をすることもなく,祥子から連絡が来ることもなかった。



何かの拍子に昔の事を思い出して平気かと言われると,そうでもない。

痛くないと言えば嘘になる。

不得意な事や,目を背けたくなることも,避けたいことも,あるさ。



でもまぁ,次に祥子に会ったときバカにされない程度には頑張っておくさ。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇




今年の春、3月になったら、オレは31歳になる。

妻、マキノと出会ったのは、オレが29歳の時だった。

そういや、30才の予約にタイムリミットぎりぎりだったな。

祥子はもう少し早く結婚していたようだから、どっちにしてもあの契約は無効だったけれど。


思えば、妻と親しくなるきっかけにバイクに乗せてやることができたのは・・祥子のおかげとも言えるわけだ。


そうだな。いいお天気だから、バイクのエンジンをかけて少し走ろう。

雪も雨も凍てる日も乗れないから、機会ってのは逃しちゃいけない。


夕方になってバイクを車に乗り換えて、妻が仕事をしているカフェに行く。

「ただいま」

お店の入り口にぶら下がった小さなベルがカランカランとかわいらしい音を立てる。

「おかえり~。」

自分が玄関を開けると、そのベルの音を合図に、いらっしゃいませのかわりにスタッフ一同からおかえりーというコールを浴びるのだ。


厨房の中の机に座ったり、顔見知りの客がいればおしゃべりをしたりもする。

結婚する前からマキノが切り盛りしていたこの店は、自分のものではないし、スタッフでもないが、オレもしっかりここの身内だ。


「今日は早めにお店を閉めて、みんなでお鍋しようか~。」

そうマキノが提案をした。

「やったー。」「賛成!」

バイトの女子高生や、住み込み従業員達が歓声を上げた。

大勢で食べるごはんは楽しいしおいしいよねとマキノは言う。



バイクに乗ったせいか、祥子のセリフを思い出した。


「ハルが幸せでいることは、祈りにも近い、私の願いなの。」


なんで祥子はそんなことを言ったんだろう。一緒にいても、祥子にとってオレは決して恋には発展しない相手だったらしいのに。




・・幸せかって?


うんオレ、毎日うまいもの食ってるよ。

ありあわせの物でもパパッといっぱしの物を作ることができる。オレにはもったいないぐらいの奥さんのおかげでね。


やりがいのある仕事があって。

気の合う仲間と日々にぎやかに過ごせて。

温かいベッドで愛しい妻の体温を感じて・・。


これを幸せと言わずして何と言うだろう。



祥子にも同じ言葉を返そう。

どうか幸せになってくれ。

オレだって願わずにいられないんだからな。



料理上手か、もしくは味音痴の。

そして、グーのパンチに耐えられる、丈夫なご亭主でありますように。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


春樹の物語は,一旦ここで終了します。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


Cafe de Reposシリーズは 3つの物語があります。


Cafe de Repos ~カフェ開業奮闘記~ 

https://ncode.syosetu.com/n9375dt/


Cafe de Repos  ~ひとやすみのカフェ~

https://ncode.syosetu.com/n2630dv/


これからも,マキノのお話しを書いていきたいと思っています。

今後ともよろしく願いいたします。

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