ハル
9月半ば。
絡みつくような暑さはマシになった。
大学4年の夏休みが終わって、気だるい日々が始まったのに、ゼミ仲間の安藤が気楽な声で電話をよこしてきた。
「ハル。頼まれてくれよ。今日の夜ヒマだっつってたろ?」
飲み会の人数合わせで来て欲しいとか。気は進まなかったが、場所があまりにも近所だったし、断る理由がとっさに思いつかずに参加することになってしまった。
今まで何度か声をかけられたとき断り続けていたせいで、最近はめったに声がかかることはなかったのだが。
集合場所の駅前の広場で、メンバーが揃うのを待っている時。
参加メンバーの女子の一人がこちらの顔を確認し即座に「あら!」と声を上げた。
目が合った瞬間に見覚えのある顔だとは思ったのだが、一呼吸考えてからやっと記憶が戻った。
高校の時の部活仲間でありクラスメイトでもある祥子だ。部活をしていた頃と違って日焼けもしておらず、髪を伸ばしていたし、きれいに化粧をして化けていたせいだ。
忘れるわけのない顔だったのに認識競争に負けた。
先にオレに気づいていた祥子は、オレがようやく笑顔を作って「や・・。」と声をかけようとしたら、すでに鼻の上にしわを寄せていて、ニヤリと笑い「久しぶりね。」と言った。
気乗りしていなかった飲み会だったはずだが、久しぶりの賑やかな席は、始まってみると居心地は悪くなかった。店の雰囲気はいいし店員の態度も良くて、女子ウケしそうなおしゃれなドリンクとフード。それらも結構うまかった。仲間のゼミの連中のノリは軽すぎたが、女の子たちは明るく楽しくて、場はいい感じに盛り上がった。
興味のない話題には乗れない。自分が不器用な性格だという自覚はあった。
だから、雰囲気を壊さないように笑顔だけはなるべく絶やさなかったつもりだ。
くるくると席を移動しあちこちの様子を見て回って場を盛り上げようとするコマメな奴もいるが、自分は隅のほうの席を定位置にして動かなかった。そんな隅っこの席にまで、女の子達や、ゼミの仲間が、オレにかわるがわる話しかけてくる。
拗ねているわけでもシラケているわけでもなく充分楽しんでいるから、オレのことは気にしてくれなくてもいいんだけどな。
観察していると、誰が誰を気に入っっているとか、なんとなくの下心が透けて見えてきておもしろかった。今日オレを誘ってきた安藤が、祥子のことを気にしているのが見て取れた。