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彼女の価値:a


・・・・・・




むくり、と私は上半身を起こした。



顔の温度は下がったみたい。・・・あーもう、シレンのばかっ



再び体をベッドに預けると、私は低めの天井をぼんやりと見上げる。




この世界で一人きりになったのは久しぶり。


なんか、静かだなあ。


・・・シレン、早く帰ってこないかなあ。





──・・・あ。そうだ。



ふと思い立って、私はベッドから降り、洗面所に向かった。




この世界に来てから、一回もまともに自分の姿を見てない。



金色、引きずりそうに長い髪をちらりと見やる。



果たして・・・似合ってるのかな。




目を瞑りながら鏡の前に立って、軽く息を吐く。


──よし。心の準備完了。



ゆっくり、目を開いた私は──










「・・・・・・ぅ、え?」






・・・いや、冗談抜きで。


「う、嘘でしょこんな・・・っ」


両手で、頭を抑える。そうでもしてないと、頭痛と吐き気で倒れてしまいそうだったから。




鏡から見返した私の目は、それはそれは赤かった。

それこそ、あの白い鴉のように。


そして、なんとなく解ってたはずの髪の色までに私は目眩を覚えた。

蛍光灯なんかあるわけもなくて、薄暗いはずの洗面所までこの髪が発する光で明るくなって見えた。


しかも綺麗な金髪ってだけじゃなく、見ようによってはプリズムみたいに輝いて、なんの手入れもしてないのに手触りが柔らかい。



・・・なんか、自分の髪の解説って凄い恥ずかしいんだけど。




私は、私のものではない赤い瞳で自分を見つめる。


な、なにこれ。予想以上じゃない・・・。

むしろ誰なのこれは。私じゃないよ、こんな・・・。




気がついたら、私はふらつきながら玄関に向かっていた。



外の空気吸って頭すっきりさせよう・・・。


シレンは駄目だって言ったけど、宿の入り口に出るくらいならきっと大丈夫。




私は、ドアノブに手をかける。


・・・あれ、開かない。



「ちょ・・・なんで?」


何回がちゃがちゃしても、鍵がかかってるみたいで、頑固にドアノブは回ろうとしなかった。


・・・ひょっとして、シレンが閉めた?




・・・なんかイライラしてきた。冷静に考えるとすっごい恥ずかしいけど、私はドア相手に怒鳴った。

「なんで開かないの?・・・開きなさいっ!いーかげんにしないと蹴破ってでも──・・・・・・あれ」



急にかちゃりと軽い音がして、ドアノブが回った。同時にドアが外側に開く。


・・・なんかあっさり開いた。立て付けでも悪かったのかな。


でも、その時はたいして不思議に思うこともなく、私はドアをくぐって宿の階段を下り始めた。

・・・まあ、どうしようもなくイライラしてたことはしょうがない。


だから、見覚えのある鈴が、床に転がっていたのには全然気づかなかった。








+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-







宿の入り口から顔を出すと、とたんにたくさんのヒトが目に入る。

私はきっと、そのまんまの顔で授業受けたら即座に先生に目を付けられそうな顔をしていたに違いない。


そりゃあ、目の前をネコミミとしっぽを兼ね備えた女の子とか、まんまトカゲの進化系みたいなヒトが通れば、そうもなる。

あ、今鷲みたいなヒトが通り過ぎた。



・・・とにかく、私の脳内では処理しきれないほどのオプションを持ったヒトビトが、歩いていったり、飛んでいったり、走っていったり。あ、今浮遊してるヒトが通り過ぎた。



たまにギリギリ私と同じような容姿のヒトを見かけたと思ったら、・・・髪の色がものすごい。


一番多いのが紺色かな。

ちらほら、カクテルピンクやオレンジ、明るい水色が私の目をイヤでも惹いていく。

ていうか、あんな髪の色で傷まないのかな。正直私も人のことは言えないけれども。



やっぱり、ここは私の知ってる世界じゃないんだ。

なんか、今それを痛く実感させられた感じ。

今さら小難しいこと考えたところできっとそれは仕方のないことなんだろうけど。



ふう。そろそろ戻ろうか。シレンに見つかるのも結構怖い。



そう思ったとき、さらに私の耳を誘う音が聞こえてきた。




その方向を見ると、宿からそう離れていない広場で、ピエロと思しき派手な赤縞の服をまとった背の高いヒトを囲って、見物客が歓声を上げている。



・・・・・・。




私はふらふらと引き寄せられるようにヒトの輪に近づく。

ちょ、ちょっとだけだし大丈夫。







ヒトビトをかき分けて、やっとピエロが何やってるかが見える。




なんか見たことがあるようなないような赤いアフロに、裂けたようにも見える真っ赤に彩られた口。

見た目通り、凄いアクティブにその口は動く。


「──はい、お次で最後になります!!いや、まことにお客様、ありがとう!!!」


やけに甲高い声に呼応して、観衆たちがやんややんやと楽しそうな声を上げる。

どうやら人気のようだ。


「さて、最後のパフォーマンスは─・・・お客様の中からどなたかに助手をしていただこうと思っております!大丈夫、危なくなんかありませんからねー!!」


ピエロがそういって、手を額に当てて遠くを見渡そうとするポーズをとる。


とたんに観客がずいずい前に出始めて、無言のアピール。どんだけやりたいんだ。


・・・あんま目立ちたくないし、いったん後ろに引っ込んどこう。



1人で勝手に頷いて、ヒトの群れに隠れようとしたときだった。




「では、・・・今後ろ向いてる美しいお嬢さん、前にいらっしゃって下さい!・・・そう、麗しい髪のあなたですよ!」




うわ。






必死に選んでもらおうと前にぎゅうぎゅうと押し寄せる中、逆走しようと後ろを向いていたのは言うまでもなく私だけだった。

しかも、周りのギャラリーが羨望の目で私を見てくるあたり、どうやら私は名誉ある役目を承ってしまったようだ。


ありがたみゼロだけど。



しかも断れる雰囲気じゃない。

ずるずる押し出されて、ついに私はピエロが立つ舞台に立たされてしまった。






・・・・・・たくさんの目にさらされて、私が思うのは、宿を出たことへの後悔ばかり。

数分前の自分を殴り倒したい。



というか今から私は何をしたらいいんだろう。

びくびくしながら隣の奇怪なピエロを見ると、彼はからからと甲高い声で笑いながら、

「お嬢さん、そんなに怖がらないで!何もとって喰おうというわけじゃなし、リラックスして下さいよ!」

みたいなことを言った。

とはいえ、ヒト前に出ることは得意じゃない。なんかもう足震えてるし・・・


「あ、あのー・・・私はどうしたら・・・」

その言葉に、ピエロは更に愉快になったようだ。口裂け笑顔が5割増する。・・・なんかむかつく。




それどころか、ピエロは急に顔を近づけてきた。

まじまじと私を笑い顔のまま見つめる。





「それにしてもお嬢さん、本当に美しい髪と目をお持ちですねえ。・・・いや、私が見た中じゃ一番ですよ。お客様もそう思いませんかー!!」


なんて余計なことをしてくれるんだ。目立ちたくないってのに、周りに呼びかけて同意なんか誘っている。


しかも恐ろしいことにおお、言われてみればとか見かけない顔だなとかいう声が聞こえてきた。


誉められたら普通嬉しいもんなんだけど今は全然嬉しくない。




ピエロはうふふ、とあまり耳によろしくない声で笑い、一段と声を張り上げた。


「さて、麗しい助手を得まして、最後にとびきりのものを見せたいと思います!」


わー!!と期待感を溢れさせるようにざわめくギャラリー。



・・・どうしよう。なんかおなか痛くなってきた・・・





外に出たことを再び後悔し始めたとき。

「さて、今から皆さまには私めの十八番である“消天”をご覧頂きたくございます!あ、“消天”というのは、簡単に言うと“ものを消し去る”。──・・・そう、私は今からこの少女をこの場から影形なく消し去って見せましょう!」




・・・・・・。




まあ、そんなことだろうとは思ったけど。


おー!!と観客が歓声をあげるなか、私はぼそぼそ囁いた。

「あの、私打ち合わせとか何にもされてないんですけど、大丈夫ですか?」

ピエロも満面の笑みで囁き返してくる。

「ああ、大丈夫大丈夫!!“消し去る”といっても、我が一族に伝わる“瞬間移動”の呪をかけてちょっと見えないところに行ってもらうだけだから」


「それって大丈夫なんですか?」


「大丈夫大丈夫。まあ脚置き去りとかたまにあるけど私自信満々ですから!」


あなたに自信があるかないかとかはなんの安心にも基づかない。


不安が潮騒のように押し寄せるのを痛く感じながら、私は黙り込んだ。


それをどう勘違いしたのかわかんないけども、ピエロは背筋が寒くなるような笑みを浮かべて、高らかに観客に向かって呼びかけた。


「それではイッツァショータイッム!はあああっ!!」




奇声を上げ、両手を私に向かって突き出すピエロ。至近距離だったからか、私にはピエロが早口に何か呟いたのを聞いた。



一瞬、周りが沈黙に包まれて暗闇が視界にちらつく。

「な、」


ついよろめいた私の体を、七色の火花がまとわりつくように巡る。

わっ、と観客が沸くのを遠くに聞きながら、私は呆然と自分の手を見た。



嘘だろう。


私の手はまさに半透明になっていた。


しかも、だんだん消えてく。










──どうせなら。












人目のつかないとこに行きたいな、とぼんやり考える、妙に冷静な私がいた────・・・




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