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紅と白の視界






目覚めると、一番に私の目に飛び込んできたのは紅い天井だった。



寝かされているこのベッドは一体どんなもので作られているのか、とてもやわらかくてまるで雲の上にでもいる気分だ。


周りに柱が4本。寝転んだまま、私は覚醒していく意識と一緒にぼんやりとそれを認識した。

――ひょっとして、俗に言う天蓋付きベッドと言う奴かな。



妙にわくわくしながらベッドから飛び降りて、その全体像を確認すると――やっぱり天蓋付きだ・・・。凄い私こんなので寝てたんだ!


やった友だちに自慢し、て、や・・・。






・・・有頂天だった私のテンションは光の速度で落ちていった。



――そうだ、まだ“こっち”なんだった。


なんだか物悲しくなって、再びベッドに座り込む。


“あっち”は一体どうなってるんだろう。私がいなくなって大騒ぎにでもなってるんだろうか。




──・・・なるわけないか。




どうせあの叔母さんのことだから、家出とか非行に走ったとか言ってるんだろう。心配しているはずがない。


だって、今まで何度家出してやろうと思って・・・。




・・・・・・・ん?




部屋を何気なく見渡していた私の目に、壁に貼り付けられていた紙が目に入った。


そういえばこの部屋は壁も天井も床も家具もシックな紅で埋められている。


だからその紙は結構浮いて目立っているんだけど──、・・・なんですぐ気が付かなかったんだろう。


自分自身の観察力の低さにため息をついて、私はベッドから立ち上がり紙に何が書かれているのか見に行った。




・・・いくつもの線が引いてある。どうやら便せんだ。しかも何か書いてある。

それをよく見るために、その便せんを剥がして手に持つ。

――しゃれたデザインのその便せんには、流れるような書体でこう書いてあった。


「おはようアリス

昨日はよく眠れたかな?


君の待ち人は玄関のすぐ側の部屋にいる

扉が白いからすぐ解るよ


じゃあ、後でまた。」



待ち人・・・?そんなのいたっけ。


私はぼんやりと考え込む。



待ち人・・・。待ち人・・・・待ち・・・待ちび・・・。


・・・・・・!!




私は無我夢中で部屋を飛び出した。



・・・馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!

何考えてるの私!!!!なんでこう・・・!!



数分前の自分を殴り倒したい気持ちでいっぱいになりながら、部屋から出て目の前にあった大きな階段をひたすら駆け下りる。


気持ちだけ先行して、体がついていかないのがひどくもどかしいかった。



何段飛ばしかして、階段から文字通り飛び降りると、そこは玄関前の大広間。


一度立ち止まって上がった息を整えると、白い扉を探す。


「・・・はあっ・・・。あ、あった・・・?」


扉はすぐ見つかった。他の扉は黒かったり紅かったりするのに、その扉だけ白い。

そして確かに玄関のすぐ右隣にある。



私は迷いもせず、大広間を横切ってその扉に駆け寄り、ドアノブに手をかけた。



鍵は――かかってない。

滑り込むように部屋に入ると、目に入ったのは・・・ただ、真っ白な部屋。



さっきの部屋が紅一色だったように、この部屋も白だけで染め抜かれているようだった。


だけど、奥の大きなベッドに、唯一色を持ったモノがいる。



い・・・──いた。



私はふらふらと危なっかしい足取りでベッドに近づいた。


ぺたんと、ベッドの右隣に置かれていた椅子に腰を下ろして、ベッドに横たわっているそのヒト――シレンを見た。



静かな寝息を立てて寝入っているその様子を見ていると、ひどく安心する。

それこそ、昨日の出来事が嘘みたいに感じた。


ふと髪の毛が気になって見てみると、三つ編みではないけれど、またあの鈴付きのリボンで束ねられている。

それを見ると・・・──やっぱり、嘘じゃない。


「シレン」

もう何回呼んだか解らないその名前を呟いてみた。当然シレンは反応なし。


私はシレンの左手に自分の手を添えた。


――ちゃんと、暖かい。


その温度が、今はとても心地いい。



なんだか、安心したら眠くなってきた。




・・・。


少しだけなら、良いかな・・・?




そうして、私は迫る睡魔に身を任せた――



+++++++++++++++++++






その一方。


玉座に戻った女王は街に散っていた“トランプ”を全て呼び戻し、“王の間”に集めていた。



はあ、と13人――いや、“10番目”が抜けているため12人――を目の前にして、女王は鬱気味にため息をついた。


「――急に呼びつけたりしてすまない。だが事態はそうのんびりしておられん事になってしまっておる」


──“トランプ兵”は意見を言ったり、助言を女王に与える役目を担っている。


とはいえ何を言っても彼等が逆らうことは滅多にないし、ましてや女王の立場上彼等に謝る必要もないのだが、女王はつい彼等が彼女の絶対の下僕だということを忘れてしまう。


再びため息をつくと、女王は話し出した。

「皆も知っている通り、昨日“アリス”がこの城に現れた。これが何を意味するか、解るな?」


「・・・“黒い民(ノワール)”の前兆、でございますか?」


一瞬の間を置き、“キング”が問う。

その言葉に他の“トランプ”がざわめきたつが、女王は微妙な反応を示した。

「違うのですか?」

その反応に、“エース”が間髪入れず口を挟んだ。

「いや、・・・確かにそれもまた真実であろう。――だが、わらわはもっと悪い予感がしてならないのじゃ・・・」

憂いを帯びた美しい少女の姿をとる女王は、頭を振って玉座に沈みこむように座りなおした。

「“猫”・・・じゃなくて“ジョーカー”に“アリス”が懐いてしまったこともわらわの大誤算じゃ。ああああああもう!!」

冠がずれるのもおかまいなしに、女王様は髪を掻き毟る。

その様子に、“トランプ”達はどうすればいいものか黙り込む。


「それは・・・まあ、仕方ないことではないでしょうか陛下」

だが、沈黙を破り“クイーン”が労わるように声をかけた。

「・・・・・・何故じゃ?」

金髪の間から拗ねたような眼差しを送ってくる女王に噴き出しそうになるのを抑えながら、

「“ジョーカー(シレン)”は良くも悪くもあんな子ですから。・・・確かに、“猫”があの子に憑いた時はどうしようとも思いましたよ。絶望も確かに感じました。・・・それでも」

息をついて、多少躊躇を見せて──・・・彼女は言い終えた。

「あの子を望んだ“アリス”に感謝しています。私たちは、あの子を殺さずに済んだのですから」

「・・・それに、我々が迎えに行っていたら“アリス”は警戒して近寄ってこなかったかもしれませんぞ陛下」

“クイーン”に頷いて、白黒の鎧の“ジャック”が陽気な声を出した。

「ご存知の通り我等には顔がありませぬ。恐らく怯えて話もまともに出来なかったのではないでしょうか?――陛下の任命には誤りはなかったと、我等は捕らえておりますぞ」

「・・・お前たち・・・」


まだ女王という位置に君臨してからあまり年月は立っておらず、自分はまだまだ“未熟”なのだと責め続けていた。

だから決定的な判断も出来ず優柔不断な自分にほとほと嫌気がさしていたが――


この従順な“トランプ”達を単に下僕とするのでなく、その期待に応えられるようにならねばならない。


前女王のように、なるわけにはいかないのだ。


「――すまぬ。弱気になった」

冠の位置を戻し、深々と玉座に座り“トランプ”達を見下ろす。



「もう後悔するのは止める。今は出来ることをしよう」






我等の、アリスと共に。






+++++++++++++++++++



「・・・イ、レイ・・・」




――誰かに、呼ばれている。

その次に、肩も叩かれていることを認識した。


私は薄目を開けて、その声の主を見やる。



「あ、起きた。まだ眠かった??」


なんだかすごく懐かしい声の気がした。

少し子どもっぽいその口調、優しい声色――


「し、シレン・・・?」

ついマヌケっぽい声を出してしまう。


いやシレン以外に誰もいないんだけど。



それでも、シレンが目を開けて、またきょとんと無邪気な表情でこっちを見てくることがなんだか信じられなかった。

「・・・し、シレンこそいつ起きたの?さっきまでずっと寝てたじゃない・・・!」

思わず驚いた口調のまま話してしまう。うんまあしょうがない。

「ついさっき。・・・俺、いつから寝てたんだろう。久しぶりに起きた気分だなあ」

うーっ、と思い切り腕を伸ばして背伸びするシレン。

久しぶり・・・?


なんか聞くの怖いけど・・・


「ひょっとしてさ、シレン昨日のこと覚えてなかったりとか・・・する?」

それを聞いたシレンは、顔をしかめて、

「うん・・・。なんかすごく曖昧なんだ。正直この前街の宿に泊まったあたりくらいから全然記憶がなくて、ね」

困ったように笑うシレン。

呆けちゃったのかなーと冗談混じりに笑っているけど、私はそれを全然冗談にとれなかった。


つまり、もう宿を出たときにはシレンは“シレンでなくなっていた”ということになる。


「最近そんなことなかったのにな・・・。なんでだろう」

急に頭を抱えて考え出すシレン。・・・最近・・・?



・・・シレンの“猫”は、単なる別人格ていうことだけじゃないのかもしれない。



また女王様とか騎士さんに聞いてみようかな・・・。


私も考え込み始めたとき、突然シレンが変な声を出した。

「あああああああ!!!??」

「うぇ!?な、何!?」

その声に驚いて私の体が反射的に跳ねる。なんだいきなり!!


シレンは辺りを忙しなく見回した後、ベッドの横にかけてあった自分の─普段は腰のベルトにかけてある─ポーチを見つけて慌てて中身を漁りだした。



・・・なんかいろんなものが出てくる。

錆付いた鍵やら、琥珀に良く似た透明な石、ひからびた・・・パンかなあれ。ていうかポーチ結構小さいのにこの量ありえないって・・・。なんか違う次元に繋がってるんじゃ・・・?


「あったー!!!」

凄い嬉しそうな声。その手には小さな包みがあった。

「何それ?」

できるだけ怪訝そうに聞いてみると、シレンはニコニコして、

「これは城下町で買ったんだよ。レイにあげようとおも・・・ってああああああああああ!!!!????」


・・・・ぎゃああああ耳元で叫ぶな!!!!


「だから何!?」

「血・・・!袋が真っ赤・・・!!」

その手に握られている包みは確かに赤い一色だった。色は・・・うん、血かな。


ていうかよく見たらポーチも血みどろだ。誰の血とかは言うまでもない。


「中身・・・!」

まだ希望は捨てたくないとばかりに包みをそっと開けるシレン。

・・・見てるこっちもはらはらする。


壊れ物でも扱うような仕草で中のものを確認すると、ほっと安堵の表情を見せた。

「よかった・・・大丈夫だった・・・」

「だ、大丈夫だったんだ」

それは逆にすごい。ポーチ全滅だったのに。

「はい、レイ」


楽しそうな笑顔で私の手にそれを握らせた。


なんか、やわらかい。軽くてするするしてる・・・?


手を開いて自分が握らされたそれを見ると、

「・・・りぼん?」

リボン。


黒のビロードに、白いフリルがあしらってある、可愛いけどどこかシックな感じのリボンだった。


「え、何これ・・・?」

驚いてシレンを見ると、彼は少し照れたたように笑いながら、

「レイ髪の毛うっとおしそうだったから、どうかなと思って。・・・えと、気に入らなかった?」



そんなわけがあるか。



――嬉しすぎて涙が出てきた。



「ちょ・・・え、そんなに嫌だった!?」

何を勘違いしたのか、うろたえ始めるシレン。おろおろとした表情で私の顔をのぞき込んできた。


「嫌じゃ・・・ないっ・・・て!!」


いやだ・・・もう何でこんなタイミングでプレゼントなんかしてくるんだ。


きょとんとしているシレンの顔を見てると逆に腹立ってきた。




・・・何回私を泣かす気だ。




だけど、精一杯涙を我慢して私は言った。


「ありがと・・・ほんとに嬉しい」






言葉通り。すっ・・・ごく嬉しい。にやけ・・・って言ったらなんか気持ち悪いけど自然に顔がゆるんでくる。


髪のこと覚えてくれてたのもそうだけど、し、シレンのプレゼントだし・・・。

・・・いやいやべ、別に深い意味はないけどっっ!!



と言うわけで、私はニッコリ(しすぎだったかも)とシレンに笑いかけた。

「ほんとにありがとう!大切にするから!!」



・・・と言うとシレンが若干硬直したように見えた。妙な顔だ。

ポカンと口は開いて、喜んでいるような唖然としているような微妙な表情。


怪訝そうに見つめる私の視線にはっと気づくと、顔が爆発するかと思うくらい真っ赤にして慌てて誤魔化しはじめた。

「あっあっあっあっ・・・!?えっと、・・・うん!!俺も喜んでもらえてしょの・・・じゃないその、嬉しい、よ!?」


なんだその焦り方は。



「なにその目!!違うよちょっとぼーっとしてただけだってば!」


もう何回見たかなこれで。

可哀想なくらい慌てるシレン。

つい、笑ってしまった。

「やっぱり、シレンはシレンだ」

「・・・ええ?それ、どういうこと?」

「そういうことはそういうこと」



えええ、と困り顔を赤らめたまま呟くシレン。






“いいよね、もうすこしくらい”





こんな暖かい夢の中にいても──・・・









最近書き溜めてたのを連続投稿してますすいません><


書いた時期が章ごとに違うこともあってなんか文章がえらく荒れてる上に、「何でこんなところにこんな文章入ってるんだ?」ってな具合に文法上の間違いも多数あると思います。自分は一体何が書きたいんだ。




というわけで頻繁に修正入れていくと思うので、どうかご了承ください。


これからも、どうかお付き合いの程よろしくお願いします。

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