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作者: T3

第一話:出荷品


 ブブブブ……。

 マナーモードにしてある携帯電話の振動音が、机の中から響いてきた。

 おっと、今度はあっちの電話か。こりゃまた、ずいぶんとタイミングがいいじゃないか。

 俺は、今話している固定電話の相手に言葉を続ける。

「――今ちょっと事情が変わりまして、さっき伺った急ぎの注文ですが、明日出荷できると思います。えっ? はい、ご注文通りにです。いえいえ、お礼など。これからもよろしくお願いいたします。では――」

 固定電話を切って、鳴ってる携帯を抽斗から取り出す。

「――はい。えぇ、私です。……はい、問題ありません。大丈夫です、3つでしょう、えぇ、ちょうどタイミングがよかったんですよ。では、いつも通り、夜中の2時に――」


 約束の2時になると、畜肉作業場のドアがノックされた。

 俺は、天井からぶら下がっている、屠殺場から入荷されてきた肉塊を押し分けるようにしてドアの前まで行き、鍵を開ける。

 男たちが無言のまま、ビニール袋に包まれた3体の死体を運び込んできた。

 へぇ、今回のはまだ結構、若いじゃないか。可哀想に、きっと何かとんでもないヘマでもやらかしたんだろうな。

 男たちが出ていくと、早速、作業を開始する。

 取り出した3つの死体から血を抜いて、皮を剥ぎ、牛刀を使って解体していく。

 残った骨を粉砕機にかけてから、切り分けた肉と内臓を出荷用のダンボール箱に詰めると、一段落だ。

 手を洗い、箱のラベルにマーカーペンで書き込む。

『ソーセージ加工用』

 出荷先は、昼間、急ぎの注文を入れてきた食品加工メーカーだ。


*****



第二話:実験結果


 なぁアンタ、シュレーディンガーの猫って知ってるだろ?

 ほらあれだよ、毒が出る確率が半々の仕組みの箱に猫を閉じ込めてって、量子力学の元になった思考実験だよ。

 ははっ、こんなナリして、酒場で飲んだくれてる俺が、りょうしりきがくとか、って変だよな。

 でも、こんな俺だって昔はいっぱしの学者だったんだぜ。

 で、その猫の実験がどうかしたのか、って?

 まぁ、他にも二重スリットの実験とか有名なのを調べるうちに、俺にも何か凄い事が証明ができるんじゃないか、なんて、思い込んじまった訳だよ。まぁ、若気の至りってやつさ。

 あぁ、証明かい。それはだな……多重世界……まぁ簡単に言ったら、目には見えないけど、俺たちのとは別の世界があるんじゃないのか、って説の証明だよ。

 ははっ……そうだよな、そんなモノあるわけないよな……。

 でも、あの頃の俺は真剣で、必死に論文調べたり、実験もいっぱいやったんだよ。

 で、当然、全部失敗、努力も全部無駄。上の教授にも見捨てられて、結局、ここまで落ちぶれちまったって訳だ。

 だからさぁアンタ、こんな落ちぶれた元学者を哀れに思うなら、酒奢ってくれよ。

 なぁ、1杯、たった1杯でいいんだよ。

 ……チェッ、何だよ、ケチ臭い野郎だな。

 分かったよ、行くよ、どっか行っちまったらいいんだろ。

 えっ、俺の背中? 何が棲みついてようと放っとけよ、アンタにゃ関係ないだろ。

 触手も生えてるって? 寄生されてんだよ、それがどうかしたのか。

 まったく、シケた野郎だ、酒の一杯ぐらい奢ってくれてもいいだろう。



*****



第三話:何か、居る


 もちろん、UFOなんて嘘に決まってる。

 ましてや、他の恒星系からやってきた知的生命体が乗ってるなんて、冗談にもなりゃしない。

 そんなこと言ってる連中は、きっとオッカムの剃刀の原理なんて聞いた事もないんだろうな。

 大抵の有名な事件も、後で米軍が試作機の実験だったって発表してたり、他の自然現象だったって結論も出て、その証拠もちゃんとそろってる。

 それに、単なるタチの悪い悪戯だったとか、注目集めのガセネタだった、って例もけっこう多いしね。

 そういえば、軍事機密を隠ぺいするために、CIAがUFO話を広めたり、わざと世間に怪しまれるような偽情報とか、嘘の書類を捏造してリークしてたって冷戦中の機密文書が、最近、公開されてたっけ。


 知ってるかい、UFOとかの、何か「不思議なモノ」の目撃例が報告される件数と、経済指数の低下とが比例してるって事をさ。

 つまり、世の中が不景気になって不安が広がると、人って何か現実じゃないものに逃避したくなるんだよ。


 つまり、そのたぐいの話なんて嘘ばっかりなんだ、そんな事よりも、もっと気にしなくてはいけない事があるんじゃないのかな。

 例えば、さっき言ったUFO事件の内の1件だよ。写真に撮られたモノは米軍の試作機だって証明されてるにも関わらず、その目撃者の家に現れて、奇妙な発音の言葉で訳の分からない質問してきた、まったく同じ顔をした3人の男の件とか。

 例えば、ある日突然、住んでた人の全部が、消えてしまった開拓村の話とか。

 例えば、今、君の後ろに居る、奇妙なモノの事とかさ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 出だしの語り口から引き込むものがある。短い中に三つの話をうまく作っている。それぞれの話の関連性も、あるようでないような微妙な感じが、読者の想像力をかきたてる。 [気になる点] オチが、これ…
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