第3話 なんでこいついきなり威圧かけてんの?
頑張って長く続けていきたいと思います。
私たちが木下の言う拠点に入ると、確かに人がいた。
私たちの姿を見るや否や、皆空中で指を動かし、何かを唱えているようだった。
「あれ、何?」
その動作があまりにも不思議なため、木下に聞いてみた。
「えーとですね、ここに来る途中でも多少話したと思うんですけど、俺たちホントに違う世界から来たと思っていて、それに実際なんですけど、色々変な……、いや、特殊な力というか能力というか……」
「あー、落ち着いてゆっくり話せ。わからん」
話を聞いてみるとこういうことだった。
・西暦2020年から来た
・皆学生で、同じクラスの集まり
・ステータスとかいうものが見られるらしい
・一人ひとり違うユニークな能力を持っている
「なんかもっと胡散臭くなったな」
「いや、それは自分でもわかってるんですけど……」
まあ、これを信じるにしても信じないにしても、目の前で空を飛んでいるやつとか全身火だるまのやつとかいるから、まごうことなき事実ではあるんだが。
「あの女の子、空を飛んでるぞ。俺は120キロあるから飛べないな。お、パンツ見えた」
「やめろバカ!」
見えたとしてもふつうは口に出さないだろうが! まあ、年頃の男としては多少私も気にならなくはないこともなくはなくもなくて……。まあ、気になる。そりゃあ、な。
緊張感のないやり取りをしていると、男二人女二人の4人組がやってきた。皆得物を手にしていることを見ると、戦闘が得意な集まりなんだろう。あるいは私たちに敵意を持っているかだが。
「夏雄、ごめん!!」
すると、その中の眼鏡をかけた体格の良い男が木下に頭を下げた。同じようにして残りの3人も頭を下げた。
「いや、ああしないと2体目がどうしようもなかったし、それにこの人たちに助けてもらったから、そんなに気負うなって」
「でも俺は! もしかしたらあいつをあの場で倒しきれたかもしれない!! でも自分がやられるのが怖くて、親友を死なせるかもしれないような手段をとってしまったんだ!! だから夏雄!! 俺を殴れ!!」
なんだかよくわからんが木下とこの男は暑苦しい友情で結ばれているらしい。
「や、やめろって! ほら、こちらの二人も何が何だかわからないって感じだからさ、助けが来たんだから、そういうの、無しにしよう!」
木下がこう言うと、眼鏡の男はこちらを向いてまずお礼の言葉を叫んだ。礼を言われるのはいいんだが、声のボリュームが洒落にならない。竜の雄たけびを聞いているようだった。
「夏雄のこと、ありがとうございました! 俺、田中亮太っていいます! こっちの痩せているのが田中六助で、髪の長い方の子が津田千歳、短い方が斎藤明です!!」
さっぱりとした短髪に整った顔立ち、それに相手の目を見て話せる。なるほどこれならだれが相手でも良い印象を与えるだろう。
もう一人の男の方は割とこぢんまりとした感じの、物腰柔らかな印象を受けた。
「本当にありがとうございます。クラスメイトが死んだなんて聞いたら皆トラウマになっていたでしょうし、夏雄は僕たちの中では中心的な存在なので、なんとしても生きていてほしかったんです。本当に、助けていただいて……」
よほど嬉しかったのか、涙を堪えきれていない様子だった。こちらにしても、仕事柄遭難者等の保護をすることもあるが、無事助けることが出来た時に感謝されるのはやはり嬉しいし、ほっとする。
それはそうとしても、ここまで感謝されるとなんだか恥ずかしくなってくる。
「いや通りすがっただけだし、それに最初は見捨ててすぐ帰るつもりだったんだって」
「ユウリは照れ屋だからこう言うが、事務所に帰ると感謝された時のことを思い出して悶えるんだ」
「なっ、余計なこと言うなっ」
かあっと顔が熱くなった。恐らく耳まで真っ赤になっていることだろう。だがここで否定したらイヴァンの言う通り、私が照れ屋だということを認めているようなものだ。だから何も言わずにいたのだが……
「……か」
「か?」
髪の短い方、斎藤が口を開いた。心なしか目が輝いているようにも見えた。
しかしこの女の子は次の瞬間それまでのおとなしそうなイメージとは一転して、
「かわいい!かわいいです!ツンデレ美少女なんですね!しかも銀髪とか今までにないですよもう、なんでこんなにかわいい子があんな化け物を倒せるんですか!?やっぱり炎髪灼眼のアレとかみたいに実はすごく強い女の子で変身したりとかしちゃったりしてそれでちょっと失敗したときとかはぺたんと座り込んで上目遣いの涙目で唸ってみたりとかそれから初エッ「はい静かにしよーねーーー!!?」ぐはぁぁぁぁ!?」
突然ものすごい勢いで、それも日本語を聞いているとは思えないくらいの速さで喋りだしたと思うと、津田が容赦なく斎藤の腹部に拳を捻じ込んだ。
「いやあホントすみません、この子ちょっと妄想癖がつよくてアハハハハー!?」
私には聞き取れなかったのだが、この慌てぶりからすると相当失礼なことを話していたんだろう。別に気にしてはいないし、それよりも斎藤が腹を抑えてのたうち回っている様子の方が見ていられない。
「おおお……。ちーちゃんってば本気で殴らなくてもいいじゃない……! あっ、さっき食べたお魚さん戻ってきそう、すみませんそこのでっかいお兄さん、ちょっと肩……、じゃなくて脚貸してください」
そう言うとイヴァンの脚にしがみついて呼吸を整えて始めた。時折嗚咽を漏らしており、かなりつらいことが見て取れる。
「ユウリ、この子すごくおっぱいデカいぞ、ヤバい」
「お前本当に直そうな? かなり失礼だぞ、その癖」
「思ったことがぽろっとこぼれてしまう癖を直せといつも言っているのに、これだからいつまでたっても童貞のままなんだ。人のことは言えないが。
こうしてどたばたしている内に、気が付けば陽が沈み始めていた。たった5人と話すだけでこれだけ時間がかかるとなると、全員を把握するのにはいったいどれだけの時間がかかることやら。
とりあえず5人とは紹介を終えたので、残り13人と顔合わせをするために、一番大きなテントへと案内してもらった。
「結構立派なもんだな。これ全部お前らで組み立てたのか?」
「はい、といっても皆で作ったというわけじゃなくて、僕たちの中に建築のスキルを持っている人がいたので、基本はその人にやってもらいました」
田中――六助の方――が自慢げに返事をした。なよなよした見た目に反して、なかなかグイグイくる奴だと思った。
日も暮れてあたりが暗くなってきていたので、とりあえず木下に全員を集めてもらって計20人が一つのテントの中にいるのだが、それでもあと倍の人数が楽々入りそうなほど大きく、中の居住性もそこそこ良い感じだった。
すると、少し赤みがかったおかっぱ頭の、小柄な女の子が一人おずおずと目の前に歩いてきた。とても建築の心得があるようには見えないが、これも夏雄たちが言う『スキル』ってやつと何か関係があるんだろうか。
「要さん、彼女が建築のスキルを持っている小林光輝です」
木下が紹介すると、はっとした様子で話し始めた。
「はいっ! こ、小林光輝です! 『光り輝く』って書いて『こうき』って読みます、いつも『みつき』って間違われるんですけど、よろしくお願いします!」
緊張しているのか、所々声が裏返っていた。こう言うのは少し悪いかもしれないが、半泣きで話すさまがなんだか可愛らしい子だった。
「まあまあ、そんなに緊張しなくても大丈夫だって。別に取って食ったりはしないから」
「あ、ありがとうございます!」
しかし本題はこいつらがいったい何者なのかを確かめることなのだが、こうもいちいち自己紹介をされては埒が明かない。というわけで、イヴァンにあとは任せることにした。
「イヴァン、よろしく」
「わかった」
このとき私はただ話を切り出して欲しかっただけなのだが、どうも互いに誤解があったらしい。
何故か突然イヴァンは腰に下げた銃を天井にぶっ放した。
その瞬間ざわついていた空気は銃の爆発音でかき消され、発砲後の煙が晴れると皆驚いた顔でイヴァンを見つめていた。
「よく聞けガキ共、俺たちはお前らを助けに来たわけでも何でもない。ただの通りすがりだ。ここにいるキノシタから話は聞かせてもらったが、200年前から来ただのふざけたことを言っているらしいな」
え? なんでこいついきなり威圧かけてんの? バカなの?
「いいか、俺は正直言ってお前らのことが全く信じられん。過去から来ただのスキルがなんだのそんな胡散臭いことは欠片も信用できん。」
ドスが聞いた声で木下たちに語る。いや語るというより脅すと言った方がいい。
「だいたいこんな危険なところに大勢でいること自体が怪しい。もしお前らの言うことが本当だとしても、よほどの説明や証拠がなければ俺は絶対に信じない」
だんだんと熱を帯びるイヴァンの脅迫。頭がいかれてんじゃないかこいつ。
「噓をつこうものなら殺す! 歯向かっても殺す! 逃げ出したら草の根分けてでもぶち殺す!! いいか、お前らに許されているのはどうか殺されないようにと祈りながら知っていることを全部俺たちに聞かせ、来世が来ることを願って死ぬことだけだ!!」
極めつけにもう一発発砲した。この時点で女の子は大体泣いていた。
「……まあ冗談だ。流石に空を飛ぶ奴とか火だるま人間を見たら多少突拍子もないことでも信じよう。あまり気負わずに、いったいどういう経緯でここにいるのか、教えてほしい」
……無理だよ!!!
設定とかは練ってあるのにそれを話の中に違和感なくぶちこむのが難しいです……