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第2話 お付き合いとかをしてるんですか?

自分の書きたいシーンのために、設定とかを練っていたら楽しくなってきたんです。

「おいおい、遭難者表には誰もいなかったんだろ?わざわざ探しに行かなくてもいいじゃねえか。それに、どうやったって帰りの飛行機に間に合わなくなるぞ?」


「心配ない。素材は業者に預けたし、このまま帰らなくても報告書はあっちが勝手に作ってくれる」


「だからってぇ……。私は早く帰りたいんだが?」


「帰りの飛行機に間に合わなければ、次の飛行機まで買い物ができるぞ。ユウリのすきな、カニもだ」


「それは、うーん……。ならまあ、いいのか……?」


どのみち飛行機には間に合わないだろうし、それならカニが食べられる……。イヴァンに上手く言いくるめられたような気はするが、別にいいか。


今は川を渡って、カマキリがやってきただろう方向へと歩いている。


「しかしこのまま行って大丈夫なのか? もう一時間するかしないかで日が暮れてくるから、拠点に戻った方がいいんじゃないか?」


「だ、誰かいるのか……?」


「ひょげっ!? な、何だァ!?」


突如聞き覚えのない声が聞こえてきた。驚いたのはイヴァンも同じようで、声にならない声を上げてあたりを見回している。


「人か!? 人だったら二回拍手しろ、人じゃないなら三回でいいぞ!」


ぱん、ぱん、と二回拍手が聞こえた。どうやら人のようだ。

しかしどこにいるのかがわからない。相手が怪我をしているなら無理をさせるのはよくないし、どうしたものだろうか。


「ユウリ、右のあの木の陰!」


イヴァンが何かに気づいたらしく、道から少し外れた方を指さした。見ると人らしき影が木にもたれかかっている。


「よし、見つけたぞ! すぐ行くから待ってろ、怪我してるなら動くんじゃないぞ!」


「ユウリのそういうところがお人よしだ」


「うるさい!」




(おいおい、これは予想以上に……)


ひどい怪我だった。あのカマキリにやられたとしか思えないような、大きな切込みが腹部にできていた。

見慣れない黒い軍服のような服を着ていたが、これもばっさりと斬られてしまっている。黒い髪には返り血がこびり付き、がちがちに固まっていた。


「イヴァン! スライム傷薬を!」


私がこう言うと、イヴァンはすぐにポーチから薬を取り出した。ただし、要求したものとは違っていたが。


「違う! それはスライムゼリー桃味! ふざけてんのか、もういい貸せ!」


「似たような色だろう。見分けなんかつくか」


「冗談でも怪我人の前でそういうことするな!」


だって分からないものは仕方ないだろう、と拗ねるイヴァンを尻目に、目の前の男の治療を始めた。

スライム傷薬は外傷に関しては万能の薬だ。致命傷でなければどんな傷でも大体治せる。名前の通り、スライムの体液を原料としている。凶悪な魔物であることを鑑みても、魔物による益の代表だ。


「服を脱がすぞ。傷薬が痛いかもしれんが我慢しろ」


傷薬を手に取り、直接傷口に触れないようにしながら傷口全体に塗っていく。男は苦悶の表情を浮かべたが、暴れもせず、ただじっと耐えているようだった。


「この傷なのに声も出さずに我慢できるのか、すごいな。あとは包帯巻くだけだから、頑張れよ」


「いえ、頑丈なのが取り柄なんで……。これくらい何てことッ……、痛っ」


どうやら包帯を巻くときの圧迫が痛いらしい。仕方ないので包帯は緩めに巻いた。


「しばらくすれば傷は塞がる。その間に少し質問するぞ」


「ええ、どうぞ……」


「名前と年齢、それとどこから来たのか」


「えと、木下、木下夏雄です。多分、この前17になりました……。どこから……、どこから来たのかは、わかりません。つい二週間ほど前に、気づいたらここにいて……」


「きづいたらここに? あ、いや、後でいい。じゃあ他に連れはいるのか?」


「たしか……、14、15……。俺のほかに、17人です」


「はぁ!? そんなにいるのか!?」


記憶喪失か何かで、気が付くと見知らぬ場所にいたというのはあり得るが、複数人、それも大勢でそんなことになる現象は少なくとも私は知らない。木下が噓をついている可能性を考え、もう少し質問を続けることにした。


「日本という国に聞き覚えは?」


すると、木下は血相を変えて頷いた。


「あ、あります! 俺も、日本から来ました! ほかに、誰かいるんですか!? に、日本から来たって人!」


「日本から来たも何も、ここが日本だぞ? 何を変なこと言ってる」


「えっ!? そ、そんな!! でも、あんなでかいカマキリ見たこと……」


「落ち着け落ち着け。そんなに興奮すると傷が開くぞ」


(こりゃあはずれか。大方腹に重傷負って痛みのあまり気をやった一般人ってとこか)


たまにいるのがこういったパターンの民間人だ。度胸試しか何か、あるいは単純に道に迷ったかで運悪くクリーチャーか魔物に遭遇して大怪我、トラウマ持ちになるって一連の流れ。


「ユウリ、この男以外にも人がいるなら、それから話を聞く方がいい」


「ああー、確かにそうだな。複数人から話を聞いた方がはっきりするわな」


「いや俺、本当に日本から来たんです! でも気が付いたらクラスメイト、いや仲間と一緒に知らない場所にいて……」


訴えるように声を荒げる木下。よほど興奮しているのか、怪我の痛みすら気になっていないようだ。


「わかったわかった、お前の言っていることが本当なのかどうか確かめるからさ、お前の言う仲間のところに案内してくれ。どうせ怪我人が他にもいるんだろ?」


「わっ、わかりました!」


――どう思う、イヴァン?


――嘘を言っている者の顔では無かったが。


――にしたって怪しいだろう。魔物どころかクリーチャーすら知らなさげだぞ?


――今はキノシタの言葉を信じるほかないだろう。





森を抜け、開けたところに出た。少し歩くと目の前には小さな池があった。

木下はイヴァンに担がれている。その状態で案内している姿はかなりシュールだ。


「この池から普段はみんなで飲料水を作ったり、あ、ろ過とかするんですけど。それで、この池のこの形だから……、右です、右にしばらく行けば俺たちの拠点があります!」


「それで、つかぬ事をお聞きしますが……、お二人は、その、お付き合いとかをしてるんですか?」


突然突拍子もないことを聞いてきた。イヴァンは何が面白いのか笑いを必死にこらえている。


「何言ってんだ、どっからどう見ても、とは言えないのが残念な見た目をしているが、私は男だぞ」


するとイヴァンはついに噴き出した。この野郎、後でボコボコにしてやる。


「うはははは! いつも言ってるだろ! そんな女顔してて体つきも男っぽくないのに髪も伸ばしてたら男に見られるわけないって!」


「好きで伸ばしてるわけじゃねーんだよ! 木下も不思議そうな目で見るな! 私は男だ! 証拠でもなんでも見せてやるよオイ!!」


色々腹が立ったので、ズボンを脱いで私の【検閲】を見せつけてやった。


しばらく会話が途切れた。


「えっと、すみません。何かホント」


歩いているうちに冷静になった私は、先ほどの自分の行為を悔いた。いくらなんでも初対面の男に自分のムスコを見せるのはどうかしていた。


「でも、自分のことを私って呼んだりするのもいけないんじゃないかと……」


分かってるよ! でも一人称ってなかなか変えられないんだよ!


「あ、すみません! 悪気があったわけじゃなくて、あ! ほら、俺たちの拠点が見えました! あれです、あれ!」


そういって指さす先には、いくつかの小さなテントらしきものや焚火の後など、生活感が見て取れるものがちらほらと見えた。


「怪我も多分、歩けそうな感じなんで大丈夫です! じゃ、俺先に行ってお二人のことみんなに伝えてきますから!」


無理やりにイヴァンの腕から逃れた木下は、気まずい空気から逃げるように走っていった。


「おいユウリ、あいつ逃げ出したぞ」


……言うな。

イヴァンは裏表のない素敵なひとです

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