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なげっぱジャーマンなスタートでした

ガッツリ人外の乙女ゲーを発見→久々に滾った→創作意欲が刺激された→その場の思いつきをキーボードに叩き付けた


その結果がこれだよ!(頭抱え)


とってもありがちな中世欧州系ファンタジーワールドに転生した。

しかし!

転生前に神様に会ってチートな能力をもらう事も、

驚くべき才能に目覚める事も、

どこぞの貴族の令嬢に生まれる事もなかった。

ごく普通の町娘として生まれ育ち、パン屋である家の手伝いをするだけの毎日。

家族や住んでいる町に不満はないが、はっきり言ってかなり退屈だ。

正直、文明レベルを除けば転生前とさほど変わらない。

せっかくファンタジーな世界に生まれたのに、魔法の才はゼロ。

完全なモブ、町の人A状態だ。

最初は見ているだけで楽しかった日常的な魔法の数々も、18年経った今では感動も何もない。

そんなもんだから、仕事をしているとき以外は本を読んだり空想したりするだけの日々なのだ。


ちょこちょこ異様に顔面スペックの高い人達を見かけるが、自分との接点は全くない。

それどころか、ごく普通の恋すら経験する事なく18才になったので親に心配されている。

店の客と仲良くなるだけなら問題ないが、こと恋愛となるとかすりもしないのだ。

年頃の男の子?

日常的に会うやつ全員マブダチだ。

ちょっと年上のお兄さん?

会う度に少し世間話してじゃあまたね。

一回りくらい上の独身男性?

元気で良い娘さんだと評価をいただきました。

もうこれは呪われてるんじゃなかろうかってレベルで、恋愛系好感度がまったく上がらない。

私の周りに人はいっぱいいるけど、私を選ぶ人はいない。

そして私自身、心が揺れ動く事もない。


こんな事なら前世の記憶なんていらなかった。

こんな事なら転生なんてしたくなかった。

なんで私はこの世界に生まれたんだろうと、人のいない場所で何度も泣いていた。



***



ある日、国中が大騒ぎになるおふれが出された。

この国には2人しかいないと思われていた王子が、実は3人いた事が公表された。

なんでも『呪われた次男』を一部を除いて存在そのものを秘匿、離宮に軟禁していたそうな。

それをなんで今になって国中に知れ渡るようにしたかというと、嫁探しである。

なんでも最初はこっそり貴族の娘をあてがおうとしたらしいが、ことごとく全滅。

見た目からガッツリ変わってしまう類いの呪いにかかってるものだから、『育ちの良い』娘達には耐えきれなかったとか。

そこで苦肉の策として嫁候補枠を庶民にまで広げたという流れである。


こういう場合だと一生独身ルートになるんじゃなかろうかと思ったが、どうやらこの国ではそうならないようだ。

しかし、王子の方はこの事をどう思っているんだろうか。

すでに何人もの女の子に拒否されている状態で、こんな闇雲な相手探しをして…

そもそもこれは王子の希望によりものなのか、はたまた周りが勝手に押し付けているのか。

後者なら同情しかない、嫌がる女の子を押し付けられるなんて最悪な気分だろう。

今回のおふれでよってくる女の子なんて、それこそ彼の財産か地位目当てばかりになる。

全く酷い話だと思いつつ、出来心でお役人様に王子の呪いの詳細を聞いてみた。

空想のネタぐらいにはなるだろうと思っての行動だった。

彼は渋々といった感じでモノクロの肖像画を私に見せてくれた。


瞬間、雷が私を貫いた。




***



1週間後、私は赤紫のドレス(急拵えで若干サイズが合わない)を身にまとって離宮の前に立っていた。

森の中で静かに厳かな存在感を醸し出している通称・深緑の宮殿は、第2王子を隠す為だけに建てられたと誰かが言っていた。

私をここに連れてきた役人達は私と荷物を馬車から降ろすと、さっさと森の外へと去っていった。

王子の扱いが垣間見えたような気がして溜息が漏れる。

すぐに逃げ帰ってくると思われているらしく、荷物の量は最低限。

宮殿から視線を感じるが、使用人すら出てくる気配がない。

仕方がないと片手に荷物、もう片手でドレスの裾を掴んでのしのしとドアへ足を進めた。

立候補したからには自分でもガンガン動いていこう。


ノックを3〜4回繰り返しても誰も出てこなかったので勝手に開けて入った。

玄関ホールからして、少なくとも金はちゃんと使ってもらえているようだ。

調度品やら絵画やら、高級そうなものがそこかしこにおいてある。

パッと見た限り埃や汚れはないので、使用人はある程度いるだろう。

それにしても、この状況で未だに視線だけとか神経疑うわ。

執事でもメイドでも良いからさっさと出てきてほしい。

数分待っても足音すら聞こえなかったので、私は諦めて玄関ホールに響き渡る程の大声で呼びかけた。

「すみませぇええええええええええん!誰かいませんかぁあああああああ!?」

品性の欠片もない行動だが、こっちが大人しく待っていてもこなかった相手側が悪いと判断してそのまま続けた。

「この度、王子の花嫁候補として立候補させていただきました、リジーと申しまぁあああああす!

元々庶民なので、宮殿の勝手が分かりませぇえええええええん!

誰か案内してくれませんかぁああああああああああ!?」

自分の声の木霊が薄れていく中、ようやくこちらに慌てて駆け寄ってくるような足音が聞こえてきた。

非常識なものを見たといわんばかりの執事の目つきに、遅いんじゃボケェ!と心の中で罵倒した。

前途多難とはことことである。



***



離宮に来て早3日、私は王子に一目会う事もかなわず日々を過ごしている。

疑われるのは覚悟していたが、姿を見るどころか声すら聞けないってどういうことなの…。

使用人達はこちらへの警戒を隠す事なく自分の仕事に専念している。

王子の事を聞いても、ほんの少しだけの情報をこっちに投げつけてさっさと仕事に戻っていく。

私、嫁候補じゃなかったっけ?

もう少しまともな扱いされても良いと思うんだけど。

ってか、追い出したいなら尚更姿を見せるべきだろうに。

見た目1つで逃げ出すと思ってるならさっさとやって終わらせればいいのに、なんでこんな焦らしプレイやってるんだ。

こっちはいつだってOK、バッチ恋状態だってのに!


はあ、と何度目かもわからないため息を吐く。

特段、ワガママを言っているつもりはない。

要望を出す時はお願いするという形にしているし、無理なら構わないとも言っている。

そもそもお願いの内容自体、貴族の娘達と比べれば本当にささやかなものばかりなはずだ。

まあ淑女らしくないと言われれば反論できないが、よほどの事がない限り常識的な範囲内に収まる言動をするように心がけている。

あれか、好感度上がらない現象がここでも起きているのか。

だとしたらクソゲーにもほどがある。

ようやっと人生の転換期を迎えたと思ったのに、また自分の生まれた理由で思い悩む日々になるとは…。

実家のような安心感すら覚える寂しさを胸に、備え付けの机の中にしまっておいた王子の肖像画を引っぱり出した。

もしかして、この絵は本物の肖像画じゃないとか?

だとしたら残念極まりないが、たとえそうだとしても一度くらいまともに話してみたい。

「テズカコート王子…」

メイドに呼ばれるまで、鱗一枚一枚丁寧に描かれた姿をただぼんやりと眺めた。


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