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「勝治ンとこの次男坊が保育所の若い先生と毎日会うとるんじゃと」
「あの子はまだ高校生やないけぇ」
「最近の若い娘は何しよるかわからんぜ」
梅雨に入ったばかりのころ、私と潤に関する噂がまことしやかに島中に流れつつあった。冗談じゃないと思った。モルディブやセイシェルじゃあるまいし、こんな漁村でロマンスなんてやれっこない。そんなのは昭和初期の文学だけだ。しかしロマンスなんて可愛いことを言っている場合ではなかった。こういうのはここでは不祥事とも表されるのだ。仮りに四つも年下の未成年に手を出したなんてことになったら、それは一般には犯罪とも言う。
保育所に子どもを送ってくる母親たちの視線がどこか疑り深気になった。所長からも厳しく戒められた。道を歩いていてもスーパーで買い物をしていても、みんなが私を見ているようでどこか落ち着かなかった。潤に会うことのどこが悪い。これだから島の人間は困る。そう心の中で毒づきながらも、どこかで偶然潤に出会うことを恐れていた。雨の日が続いたこともあって海岸にも足が遠のいた。夕焼けもない、潤もいない、好きな本もない。あるのは仕事とありもしない噂と冷ややかな視線だけだ。帰りたいと思った。本土に、家族や友達のもとに帰りたかった。しかしできるはずもない。しめやかに降る雨と広い瀬戸内の海が、私を狭い島の狭いアパートに閉じ込めていた。そして私自身が私の心という生き物を私の内に閉じ込めていた。耐えるしかなかった。
きっと少しの辛抱だ。もともとどうこう言われる仲だったわけでもないからすぐに鎮火する。それにしても私と潤の取り合わせなんて、ペンギンが空を飛ぶくらいありえない。どう好意的に表したって姉と弟のようでしかないのに、噂を流した人間はいったい何を見ていたのだろう。こっちは成人で相手はまだ高校生だというのに。潤と私をくっつけるなんて馬鹿げている。
そうやって矛先を変えて攻撃することで、私は陰欝な季節を泣いたりしながらもたったひとりで乗り切った。そうしていつのまにか潤のことを思い出さなくなっていた。