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私は一歩も動くことができないまま、ただただ彼を見つめていた。もしかするとものすごく物欲しそうな目をしていたかもしれない。岩肌に座りこみ、荒い海の風に吹かれる彼の姿は、まさしく一枚の完全な絵になっていた。島と海と日差しと少年、そのキーワードがこれ以上ないと言っていいくらいうまく絡み合って、私に束の間の夢を見させているようだった。
「……誰」
長い沈黙の後で、彼がようやく口を開いた。瞳の色までいっそう濃くして。
「あ……」
何から言えばいいのか、戸惑いに言葉が掠れた。
その時の私は馬鹿みたいに緊張していた。だから自分の名前と職業を説明し終えるだけのことに、一分近くも時間を費やしてしまった。
彼は何も答えなかった。息すらついていないのではないかと思われた。海と風の音だけが二人の耳にこだましていた。繰り返し繰り返し、足りないものを補おうとするかのように。二人の間を静かに満たすかのように。
五月の黄昏時の印象的な鮮明さ。それは恋に堕ちる感覚とよく似ていた。冷静な私はそう思った。
似ているけど、違う匂いのするもの。
それが、私たちの出会いだった。