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保育所の夏休みは遅い。小中学生がラジオ体操をはじめる頃、私も園児たちもまだ保育所に通い続ける。
潤は一日中海にいるようだった。気持ちよさそうで羨ましかった。私の夏休みはもう少し先だ。
昨日、実家に帰らない旨を両親に電話で伝えた。まだ四か月しかたっていないせいか娘恋しさも募らないようで、「あら、そう」と言われただけだった。美希にも同じ内容をLINEすると「あら、まぁ。健闘を祈る!」とだけ返ってきた。まったくもっていい友達だ。
夕方の散歩は欠かさない。日の光でぎらつく海を眺めていると、私も海の中を覗いてみたくなった。潤や子どもたちがあんなに取り憑かれているのだ。ここからでは見ることのできない何かがそこにはあるのかもしれない。
潤にそう伝えると、いい傾向や、と笑ってくれた。強い日差しにも決して負けない力強さが彼にはある。きっと海の水の中でも溢れる力を感じさせるのだ。
陸の上だけではなくて海の中の潤も知りたいと思った。潤はきっとどこまでも潜っていくのだろう。私はもしかするとついていけなくなるかもしれない。それでも、私がここにいたことの証として、彼が深く降りていく姿を胸に刻んでおこうと思った。
水着をおろさなくてはいけない。休みになったら、海で泳ぐ練習をしようと思っている。