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とある作家の短編集  作者: 毎日居留守
17/27

決闘

 突き抜けるような晴天に響き渡る人々の怒号、それに負けない金属音。満員のコロッセオの中央には二人の男が武器を振るっていた。


一人は自身の身の丈をゆうに超える長槍を使い、変幻自在の攻めを見せている。


一人は鉄板と呼んでしまいそうな無骨な大剣を操り、文字通り必殺の一撃を繰り出し続ける。



実に激しい戦いである。長槍の男がしなやかな連続突きで人体のあらゆる急所を狙ったかと思えば、大剣の男はその突きを豪快な一振りで打ち払い、返す刃で相手の一刀両断を狙う。すると長槍の男は大剣の軌道にそっと槍を添えて受け流し、その勢いを利用して石突きで打ち払おうとする。しかしまた大剣の男が………といった押収がずっと続いている。


その息をつかせぬ展開に、コロッセオの観客たちのボルテージはさらに上がっていくが、その歓声が戦っている二人に届くことはなかった。いや、盛り上がっている観客の姿さえ目に映っていない。その目に映るのは相手の姿のみ、その耳に聞こえてくるのは自分の心音と相手の息遣いだけだった。



「くははは……実にいいねぇ。不覚にもお前さんに惚れてしまいそうだよ。」


「すまんがその熱烈なラブコールには答えられねえな。俺のハートは既に予約済みなんでな。」


「つれないねぇ、なら無理やりでも振り向かせるのみだ…なあッ!!」


「っと!?しつこいのは嫌われるぜッ!!」



 打ち合う速度は時間と共に早くなり、火花が散る量は増えていく。完全に全ては避けきれないのでかすり傷も増えていく。しかしお互いの顔に浮かんでいるのは笑みだ。この戦いが楽しくって仕方ない、しかし最後に立っているのはいるのは自分だと信じて疑わない、そんな獰猛な笑みだ。その姿は見ようによっては恋する乙女のようにも見える。


 やがて、この永遠に続きそうな恋物語たたかいにも終わりがやってくる。


 両者、武器を弾いたかと思うと唐突に距離を取った。



「…名残惜しいが…。」


「限界っぽいな、互いに。」



 よく見ると二人とも膝がかすかに笑い、呼吸は激しく乱れている。



「一撃でいこう。それで文句なしだ。」


「ああ、それでいこう。」



 それだけで十分だった。長槍は上段に構えられ、大剣は下段に構えられる。

 

そこから、動かない。いや動けない。下手に動くとスキが出来てやられてしまう。それが分かっているから動かないで相手のスキを狙う。


 観客も二人の空気から終わりを察したらしく、さっきまでの歓声は水を打ったように静かになる。






 止まっていた時間は10分ぐらいだろうか、いや、1分だったようにも、1時間だったようにも感じられた。誰もが身じろぎ1つ、小さな物音1つたてなかったため、まるで時間が止まってしまったような錯覚に襲われる。


 先に動いたのは長槍の男だった。


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