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とある作家の短編集  作者: 毎日居留守
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異世界

「ふむふむ…ほう、これは何なのだ?お、こっちも奇妙な形をしているな。」


「あの…頼むからそんなにキョロキョロしないでよ…。」


「そうは言うが、俺にとっては珍しいものばかりでな…お?あそこの男、1人で何やら喋っているぞ?」


「あれは電話してるんだよ、電話。」


「でんわ…?」



 ファーレスの今日何度目かわからない質問にげんなりしつつも答える。頭では仕方ないことだと分かっていても、こう何度も聞かれるとやはりウンザリしてしまうものである。



「遠くにいる者と通信が出来るのか、しかも魔法なしで…国に持って帰れたら革命が起きそうだな。」


「まあ別の施設が必要だったりするから、電話じゃなくて無線の方がいいかもな。」


「ムセン?」


「詳しくはないから細かいことまでは知らないけど、電話みたいに大きな施設を作らなくても大丈夫なやつ。」



 あごに手を当てながら感嘆のうめきを漏らす。これが身長190ぐらいあるガタイのいいイケメン外国人がするのだから、それだけでも迫力がある。



「ふむ…魔法がないと聞いた時はどうやって生活しているのかと思ったが、そのカガクとやらは魔法と言っていいのではないか?」


「科学は科学だよ。それより俺は魔法が広く使われてることに驚いたな。こっちの物語だと魔法ってごく一部の人しか使えない、夢みたいな物として書かれてるから。」


「そのような時代があったのは確かだな。しかし、現在は一般化している。長い歴史のなかで魔法についての研究が進んだからな。」



 聞けば、20年前ぐらいに誰でも使えることが発見され、さらに効率よく使うための運用方法も開発されたらしい。これによって人は当たり前に魔法が使える時代へと変わっていったらしい。



「…確かに聞いてると、類似点多いな。」


「だろ?この世界には魔臓|(魔法に必要な魔力を生成する器官)が無かったから、代わりに科学が発展したという感じるんだよ俺は。」



 そんな話をしているうちに、竹刀が鳴る音や掛け声が聞こえ始める。目的地に近づいたようだ。


 ちょっと重い足を無理やり動かして角を曲がれば、そこには『杉浦道場』の文字が。そう、今日はファーレスの「こちらの世界の剣術を見てみたい」という希望で近所の道場に行くことになったのだ。



「ほう、民が生活している地域の中に訓練場があるのか。」


「そっちは違うのか?」


「ああ、俺の国は違うな。民からすれば自分たちの横で剣を振り回しているのは怖いからな。どこも生活の場からは離れたところにあるな。」



 言われてその通りだと納得しつつ、来客用のインターフォンを押す。鳴らしてすぐに返事があったので、そのまましばらく待っていると扉が開いて、ここのおばちゃんが顔を出す。



「お待たせしましたーってあら、龍牙君!久しぶりね!」



 来客が俺だとわかると目を丸くして声を余所行き声からいつも通りに戻す。変わらない、その親し気な態度に俺の心が少し痛む。



「…久しぶり、おばちゃん。」


「本当よ!最近はちっとも遊びに来てくれないんだから!あら?そちらの方は?」


「初めまして奥様、自分はファーレスと申します。」


「あらあら、これはどうもご丁寧に…。日本語がとてもお上手ね。」


「ありがとうございます、この国に来るときに必死に勉強しましたので、あなたのような美しい方に褒められると努力が報われたと嬉しくなります。」



 ここでファーレスに気づいたようで挨拶を交わす。ファーレスもさっきまでの気さくな様子とは打って変わって、爽やかな笑みを浮かべる。そしてさりげなくおばちゃんの賛美の言葉を混ぜる。


 なんというか、すごく気障ったらしい。



「まあ、おばちゃんを捕まえて美しいだなんて。そういうのはもっと若い子のために取っておくべきよ?」



 しかしおばちゃんはそれを顔色も変えずにさらりと受け流す。うちの母さんなんて一発ノックダウンだったのに、流石というか格が違うというか。



「それで龍牙君、今日はどうしたの?」


「あ、実はファーレスが日本の剣術を見てみたいって言うから連れてきたんだ。」


「あらそう、じゃあ庭の方から入ってきて。私はお父さんに知らせてくるわね。それと今日はちょうど真美も稽古しているわよ。」


「…わかった、ありがとうおばちゃん。」


「いいのよ、見学は大歓迎だから。」



 言うが早いか、おばちゃんはさっさと奥に引っ込んでいった。俺たちも道場に行くために塀の横を通って庭の方へ向かう。



「…あのご婦人、出来るな。」


「ああ、おばちゃん受け流すの上手かったな。」


「いや、そっちではなく…まあいいか。」



 庭に入ると正面にはもう開け放たれた道場が目に飛び込んでくる。そこでは老若男女、たくさんの人たちが竹刀を手に汗を流している。


 そして、そんな中にこちらをまっすぐ見ている人物が2人。1人はここの師範代であるおっちゃん。そしてもう1人は―――こちらの姿を認めると、顔をほころばせてこちらに駆け寄ってきた。



「龍牙、久しぶり!」



 俺には眩しすぎてまっすぐ見れなかった。



「…ああ、久しぶり真美。」



 ―――もう1人は幼馴染の真美だった。


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