ガール・ミーツ・ボーイ
気づいたらそこは、乙女ゲームの世界でした。
「うーん…我ながら何言ってるのか一切わからん。」
人生で初めて見たリアル天蓋付きのベッドという恐れ多いものの上をコロコロ転がりながら物思いにふける。私の今の名前は真鍋美貴、ピチピチのJCなりたての美少女である。これだけ聞かれると単なる自意識過剰娘だが待ってほしい。何せこの体はゲームをやっていた時から客観的に見て「美少女だなコンチクショウ!」と悶えていたので自信をもって言えるのだ。
そう、気づいたら乙女ゲームの主人公であった美貴ちゃんの中に入り込んでいたのである。いや、違う。美貴としての幼少期の思い出もきちんと存在している。それに加えて「ゲームをしていた頃」と言っている時の私の名前を思い出せない。
(…いわゆる、前世の記憶というやつだろうか?)
『世界の不思議特集!』的なやつやスピリチュアル的なやつが流行した時に特集が組まれたりした前世という概念である。
でも、そういうのに出てきてたのって幼少期に前世の記憶があって、その後、成長と共に前世の記憶は消滅していくことが大半だった。私みたいに後から前世の記憶を思い出したって聞かなかったな。
「んー…まるで夢から覚めたみたい。」
美貴の幼少期から覚めて一気に現実に戻った気分である。
「となると…やっぱり高校生活は攻略対象達が来るんだろうか?」
これまでのことから今後のことへと意識を切り替える。そして思わずため息がもれそうになる。
というのもこのゲーム、攻略対象達の好感度は全員マイナスから始まるのである。それぞれ理由は違うが、誰もかれも真鍋美貴についていい印象を持っていないのだ。そしてこの好感度、上げるのがとても難しい仕様になっている。例え良いことをしても、好感度がマイナスだと悪いことをしているようにしか見られないのだ。そして悪く見られれば好感度はもちろん下がる。ぶっちゃけマゾゲーである。
なにより攻略対象達の行動や言動って、二次元だから許されるのであって、リアルにそれをやられた時はどんなイケメンでも正直引きます。あ、ただし芸能人は別ね。あれは2.5次元だし。
「んー、接触は最低限にしたいけど…長女だもんなー。無理だよねー。真鍋家の顔だもんねー。」
ありがちだけど、攻略対象は全員いいとこのお坊ちゃんばっかりである。そしてこの天蓋つきベッドで分かるけど、私も(現在は)いいところのお嬢様である。つまりパーティーなどでの顔合わせを避けることは出来ない。
「いわゆる人生ルナティック。ノーマルが許されるのは小学生までかー…。」
だんだんと頭が働かなくなる、睡魔が襲ってきたのだ。脳の容量限界を超えてしまったのかもしれない。
そして美貴は私の小さい頃の夢を見た。別荘に避暑目的で遊びに行ったとき、私はいつの間にか両親や使用人からはぐれてしまい、山の中で迷子になってしまったのである。そこで、男の子と出会ったのだ。今までお坊ちゃまお嬢様しか友だちがいなかった私にとって、その男の子との素朴な遊びはとても新鮮で――――――
真鍋美貴が赤崎勇と知らず知らずのうちに再開する時から、およそ三年前の出来事だった。