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悪魔と混乱。そして七日目の終わり

 家から追い出されて七日目の夕方、今、俺は教会にいます。


 なんか羽の生えた黒い人が出てきましたよっと。まぁ、仲良くしましょうかね。俺は他人を見た目で判断するような、男ではないので。俺より遥かにデカくても気にしません。拳が俺の頭くらいのサイズがあったとしても、まぁ気にしませんよ。

 とりあえず、口元に微笑を浮かべて、穏やかな感じでゆっくりと近づきます。そんな、俺の態度に安心したのか、黒い人も近づいてきます。いやぁ、友好的な人でよかった。


 そう思ってたら、急に殴りかかってきやがった。ふざけんな、ぶっ殺すぞ。


 ギリギリで避けたから良かったものの、当たったら、間違いなく痛い感じだったし、喧嘩売ってんだろうな、この黒野郎。喧嘩を売られたからには、ぶっ殺す以外に解決方法はねぇんだが、良いんだな? 殺っちまうぞ!


 黒野郎が、もう一度殴りかかってきたので、俺は黒野郎の馬鹿みたいにデカい拳をかいくぐって、剣を振るが、黒野郎は、片方の腕で剣を受け止めた。

 鎧とか着てねぇくせに、アホみたいに硬い。生身の肌に剣を叩きつけたのに、少ししか斬れていない。俺のこれまで人生で、ぶった切ってきた奴らならば、防御した腕ごと、身体も叩き斬れるくらいのつもりで攻撃したんだが、なんか少ししか血が出てないし、なんかイラつくな。そういやなんでコイツって血が青いんでしょうかね?気持ち悪いんですが。


 おっと、また殴りかかってきたので足を止めて、真っ向から剣をぶつけて黒野郎の拳を叩き落としますよ。いやぁ、硬い拳だわ。剣で叩き落としているのに、ほとんど傷がつかないし。それにアホみたいに何発も殴ってくるから捌くのが大変なんだよね。ほんとめんどくせぇ。


 …………おや、疲れてきましたか? なんか、パンチの回転数が落ちてますよ。一秒間に十発くらいのパンチじゃあ、俺の守りは抜けませんよ。おやおや、ホントに疲れてるようですね。だったら、休ませてやるよ!

 乱れ打ちってな感じで襲ってくる黒野郎の両拳を剣で力任せに弾くと黒野郎の身体がよろめく。頭と腹が、がら空きになったので、全力で踏み込み、至近距離から黒野郎の顎を剣で、かち上げる。

 黒野郎の頭が上を向き、隙だらけになったので、腕よりは肉が薄そうで骨に邪魔されることはなさそうな、腹に、全力で剣を叩き込む。やはりというかなんというか簡単には刃が通らない。だが、僅かに剣は腹の肉に食い込んでいた。だから、俺は傷口に何度も剣を叩き込む。黒野郎は、腕を振り回すが、体格が大きすぎるのが良くない。懐に入っている俺は、俺を遠ざけるためにもがくように振るわれる黒野郎の腕をかいくぐり、腹の同じ個所に何度も剣を叩き込む。そして、ついに剣が腸を捉えた感触が俺に伝わった。

 黒野郎は、相当にビビったのか、剣が腹にガッツリと食い込んだままにも、関わらず。俺から飛び退く。そのせいで腹の中がかき回されたのだろう。黒野郎は、俺から離れると同時に膝をつく、そして腸が飛び出ている腹を手で押さえた。


 まぁ、こんなもんざんしょ。多少強かったね。多少だけど。どこの誰かは、存じませんが。俺に喧嘩売っておいて、生きて帰れるわけがないんで、ぶっ殺しますよっと。

 って、魔法が飛んできたよ。うずくまっていたと思ったら、魔法の準備していたわけね。油断してました。まぁ油断してても、問題ないんですけど。魔法とか、見てから回避とか余裕。そういうわけで、危なげなく

 回避したら、黒野郎、なんか俺に背を向けて逃げていってしまいましたよ。

 どうすれば良いんでしょうかね? とりあえず、デブの司教にでも聞いてみましょうか? なんか黒野郎と友達みたいだったし。

 そう思ったんだけど、なんかデブ司教もいなかったんだけど、何があったんでしょうかね。まぁ、出口は一つしかないですし、俺も追いかけますかね。なんかギャアギャアと汚らしい声がして不快だけど、行くかな。


 まぁ、そうして出てみたら、なんか凄いことになってましたよ。血の海って感じで、人がいっぱい倒れてんの。いやぁ、グロイグロイ。まぁ、そんな感じで、大変なことになっていた中で、俺は黒野郎とデブ司祭を見つけたわけですよ。


「契約を破るつもりか、私を殺せば、どうなるかわかっているんだろうな!悪魔にとって契約とは絶対のはずだぞ!?」


 なんかデブ司教が騒いでます。揉めてるんですかね。おっと、黒野郎がデブ司教に近づいていきますよ。おお、デブ司教の前で、立ち止まって、おおっと、デブ司教を食べました。

 黒野郎、もうガッツリガッツリって感じで、デブ司教を頭から食っていますよ。これって服はどうするんでしょうかね。なんか一緒に飲み込んでいる感じですよ。

 まぁ、食べちゃったことに関して、俺が何か言うことはないですね。きっと、そういう文化圏から、いらっしゃったんでしょう。よその文化をグチャグチャいうのも、良くないですし、何も言わないでおきましょう。

 おや、黒野郎さんが、俺の見て、なんだかニヤリと笑っていますよ。気持ち悪いですねぇ。鏡とか見たことないんでしょうかね。俺があの顔だったら、人に不快な思いをさせないために家に引きこもって、誰とも会わずに一生を終えるんですがね。


「これで私は自由だ。つまらん契約に縛られず、自由に力を振るえる。先ほどの礼だ。小僧、貴様はじわじわとなぶり殺しにしてくれる」


 何言ってんだ、カス。口が臭いんだよ。黙ってろ。


「貴様と話をするつもりはないんでな。早く済ませよう」


 マジで俺に何かあるんだったら、さっさと終わらせて帰ってくれません?


「ククク、口では強気だが、貴様の心は、私から遠ざかりたがっているぞ」


 そりゃそうです。だって口臭いですから。それが、分かってんなら、さっさとどっか行くか、俺を帰らせてくれませんかね。


「だが、逃がしはせん。私に傷を負わせたという罪に対して、罰を与える必要があるからな」


 なんか、そんなことを言った直後、黒野郎が俺の目の前に立っていました。どういうことなんでしょうかね? そんなことを思う間もなく、俺は見事にブッ飛ばされました。完璧に油断してました。

 人生で初めて、人の力で吹き飛ばされましたよ。いつもは吹き飛ばす専門なんで新鮮でした。とまぁ、そんなことを思いながら、俺はどっかの家の壁に直撃して、その壁をぶつかった勢いで、ぶち破って、不法侵入をしてしまいました。


 久しぶりに痛かったんで、ちょっと状況把握をするのが遅れましたが、俺は黒野郎にブッ飛ばされようです。いやぁ、これはあれですねぇ。あの黒野郎、ぶっ殺す。そんなことを思っていたら、黒野郎が家の屋根をぶち抜いて、落下してきやがった。

 家をぶっ壊して現れた黒野郎は、俺を見るとなんか調子に乗ったツラをしやがったので、全力で踏み込んで、最大限の力で剣を頭に振り下ろしてやった。黒野郎は、思いっきりよろめくが、それだけで傷らしい傷は何も無い。いや、明らかに頭が、へこんでいるんだが、それでも問題なく動きやがる。


 黒野郎は、腕を振り回して、俺を痛めつけようとしているみたいだが、当たるわけが無く、俺は剣を全力で叩き込み続け、黒野郎の体制をよろめかせ続ける。

 そうしたら、黒野郎が急に尻尾で攻撃してきやがったので、その尻尾を片手で掴み、脇に抱え込んで、黒野郎ごと、振り回してブン投げる。黒野郎は見事な軌跡を描いて、家の壁をぶち破って、外へと飛んでいく。


 まぁ、当然それぐらいで終わるわけが無い。黒野郎が飛んで行った方向から、魔法で作られた火球がいくつも飛んできたので、俺は自分が使える数少ない攻撃魔法の〈ファイア・ボール〉で同じような火球を作り出し、それをぶつけることで相殺する。


 そして、俺が黒野郎の魔法を消した瞬間に、黒野郎が背中の羽を羽ばたかせながら、俺に突っ込んでくる。いつの間にか、その手には黒い槍を握っている。

 黒い槍を持った黒野郎は、槍を振り回して、俺に攻撃する。なんか、さっきよりも明らかに力が強くなってんのはなんなんでしょうかね、などと思いつつ、防御に徹する俺だが、段々と黒野郎の攻撃に防御が追い付かなくなってくる。

 さっきまでと強さが違うのは、どう考えてもズルをしているせいだ。とにかく、俺は状況が悪かったので思いっきり、剣を振って黒野郎の槍に叩きつけた。黒野郎が弾かれ、黒野郎の体勢が崩れると同時に、俺は立て直すために、後ろに下がろうとした。


 そうしたつもりだったのだが、突然、腹を襲った衝撃で足が止まってしまった。急に足が動かなくなった俺は、何事だろうかと思い、頭を下に向けると、お腹に、こうズッポリと黒野郎の尻尾が突き刺さっていました。


 いやいや、黒光りするぶっといモノで、貫通とかヤバいでしょ。いやマジで、痛いというか熱い、つうか、腹ん中にあるもの全部ぶちまけたい感じ、これヤバい感じの奴だってのは、すぐに分かりました。

 そして、それを俺が分かった直後、黒野郎は槍を横薙ぎに振るっていたわけです。こうなると、俺はもう、アレですね。分かりましたよ。


 あ、俺これ死んだなって――――










 まぁ、俺が死ぬわけはないんだがな。


 あの悪魔のフルスイングでブッ飛ばされた、俺は家を二三軒ぶち抜いて、ようやく止まった。

 死ぬかと思ったが、辛うじて生きていた俺は回復魔法を自分にかけて、腹の穴を塞ぎ、他の傷に関しては魔力が足りなかったので、オリアスから貰った回復薬を飲んで治した。味は悪いが、効果はそれなりで、なんとか一命を取りとめ、俺は立ちあがる。


 気分は最悪だ。頭が妙にスッキリしている。生まれてこの方味わったこともない。途轍もない異常事態だ。おそらく、血を流しすぎたせいだろう。以前に読んだ本では、血を流しすぎた兵士は錯乱するという。俺も、その状態なのだろう。妙に頭の中がスッキリしていて、思考の筋道が立っているなど普通のことではない。なるほど、これが混乱状態ということなのだろう。恐ろしいことだ。

 まぁ、それはいい。いくら体調が悪くても、やることは変わらん。あの悪魔をぶち殺すのだけは、確定事項だ。


 だが、ぶち殺すにしても、どうしたものか、俺は体力が落ちている上に混乱状態だ。あの悪魔の動きに関しては、おそらく対処できるが、攻撃の効き目が薄いのではいかんともしがたいな。

 俺の今の持ち物で何とかできるものは…………魔石だな。

 魔法を貯めておけるのならば、やりようはいくらでもある。だが、そのためにはカタリナの手を借りる必要がある。そう言えば、不思議な話だが、何故俺はカタリナの名前を知っているのに、その名を意識したのが、初めてなのだろうか? 普段は別の……そう、淫乱シスターなどと頭の中で名前を付けていたな。ふむ、どうやら俺が、混乱しているのは間違いないようだ。色々と頭の中に整理された情報が浮かんでくるのは

 異常なことだろう。


「アロルド様!」

 ふむ、少し思索に耽っていたら、カタリナが俺を探しに来たようだ。少し確かめたいことがあるので、調子の悪いふりをしておくか。

「アロルド様。ご無事ですか!?」

 カタリナというのは中々に気が利く女のようだ。俺が落とした剣を拾って持ってきている。カタリナは俺に対して複雑な表情を浮かべながら近づいてきているが、俺は別にそれはどうでもいい。

 とにかく、俺は確認したいことがあったので、近づくカタリナに対して、よろめき倒れこむ。もちろん演技だ。そんな俺をカタリナは当然のように支える。カタリナが俺に対して特別な感情を抱いているのは、先ほどの表情から明らかなので、ある程度大胆に振る舞っても許されると俺は判断し、事故を装い、カタリナの胸と尻に手を伸ばす。

 ふむ、胸は柔らかく、尻は引き締まっており小さめで、悪くない。シスターの服というのは身体のラインを隠す働きがあるのだろう、中々いや上々に素晴らしい。匂いを嗅いだ限りでは男性経験というものもなさそうだ。総合評価としては上々という所だろう。


 まぁ、いつまでも、そんな遊びをしている場合でもないな。カタリナがここにいるということは、足止めはオリアスだろう。あの男は信用しきれんが、役に立つのは間違いないので、死なせるわけにはいかんな。

 そのためには、カタリナにやってもらうことがある。


「カタリナに頼みがある」


 俺は真面目腐った表情でカタリナに言う。この娘は、教会育ちで幾分、視野が狭いところがあるが、それもまぁ、好都合だ。随分と俺に対して強い感情を抱いているようなので。上手く使わせてもらおう。

 俺は昼間に手に入れた一番大きな魔石をエリアナに渡し、指示を出す。


「それに限界まで魔力を込めてくれ」


 魔法は魔力をもとに生じる事象。魔法を閉じ込めておけるならば、魔法のもととなる魔力も、魔石に貯めることができるのではないだろうか? 俺はそう思って、エリアナに魔石を渡し、魔力を充填させるように頼んだ。なんのために、こんなことをしているのかと問われれば、答えは簡単だ。俺の魔力を回復するためだ。魔力は人と人の間で受け渡しは出来ないが、仲介となる物質があれば可能ではないかと俺は考えた。

 上手くいけば万々歳。上手くいかなければ、その時は諦めてさっさと逃げるだけだ。オリアスは良い人材となる可能性があるが、俺の命と天秤にかけてまで、助ける必要性は感じない。


 そんなことを考えている内にカタリナが魔石に魔力を込め終えていた。俺は、その魔石を手に取ると、とりあえず噛みついた。カタリナは目を丸くしていた。まぁ当然だろう。なにせ、宝石に見えるものに噛り付き、口の中ですり潰して飲み込んでいるのだから。

 どうやって、体内に魔力が吸収されるか分からないので、俺は手っ取り早く経口摂取という手法を取った。この手法を選んだのは勘である。

 だが、その勘は当たったようで、俺の魔力は確かに回復した。俺は手にした魔石に噛り付き、その欠片を口の中ですり潰して飲み込みつつ、エリアナに小さめの魔石を複数渡して、次の指示を出す。


「その魔石、全てに回復魔法をかけておいてくれ」


 カタリナは俺が言った通りに魔石に回復魔法をかけていく。疑問を口にせず唯々諾々と従ってくれるのは面倒がないのでありがたい。その上、中々に手際が良く。俺が魔力だけを込められた魔石を全て体内に摂取した頃には、回復魔法が込められた魔石は揃っていた。

 悪くない。回復魔法が込められた魔石は、自分の魔力を流すと発動する仕組みになっていた。細かい理屈の説明に関してはオリアスに任せることにしよう。

 俺は、当座の準備は出来たので、その場からオリアスの気配がする場所へと向かって、歩き出す。カタリナが付いて来ようとしたが、邪魔なので置いていくことにする。現状では、魔力が枯渇しかかっているカタリナは足手まとい以外の何物にもならないからだ。俺に対して、色々と想いはあるのかもしれないが、それを汲み取ってやる気にはならない。カタリナは何か言いたそうだったが、結局なにも言わず、俺を見送った。



 俺は歩きながら、カタリナから貰った回復魔法が込められた魔石を口に含み、飲み込む。いちいち手に持って、魔力を流すようなことは戦闘中には不可能なので腹の中に貯めておいて、腹の中に魔力を流す方がミスが少ないので安全だ。

 カタリナの魔石を腹に収めつつ、俺は自分でも魔石に魔法を込める。このためにわざわざカタリナに魔力だけを込めた魔石を用意してもらったのだ。

 俺は回復した魔力を使い、俺の使える魔法の一つの〈ブースト〉をかける。魔法の効果は身体能力を多少だが強化するというだけ。あまり役に立つとは思われていない魔法。だが、魔石が使えれば、相当に強力になるという確信が俺にはある。

 俺は〈ブースト〉がかかったいくつもの魔石を、全て飲み込み。準備を終えて、オリアスと悪魔の気配がする場所へと到着する。その場所は、悪魔が現れた教会の前だった。


 オリアスは奮闘していた。この魔法使いが、どういうつもりで、聖女と司祭の救出を行ったのか、俺は理解ができない。正義感に駆られてとでも言いそうな気もするが、それだけで教会を敵に回すような真似をするのかは判断しがたいところだ。


 まぁ、それは今は重要なことでも無いな。俺はあの悪魔をぶち殺すために来たのだから。


「俺が相手をしてやろう」


 俺が言葉を発すると、オリアスは下がり、悪魔は俺を見る。悪魔は俺を見て、口角を釣り上げ、何かを言おうとしていた。


 だが、俺は言わせなかった。腹の中に貯めたブーストの魔石を全て発動させ。一気に距離を詰め、ニヤケ面の悪魔の腹に拳を叩き込む。俺の拳で、悪魔は身体を折り、膝を就く。殴った俺の腕は衝撃に耐えられず、砕けたが、即座に腹の中に入れておいた。回復の魔石が腕を治す。


 わざわざブーストの魔石を用意したのはこのためだった。〈ブースト〉の魔法の弱点は、同一人物が一人に対して重ねがけ出来ないという点である。具体的には、俺が〈ブースト〉を発動したとして、対象を俺自身に設定した場合、一度しかかけられない。理由は分からないが、それがルールらしい。

 だが、仲介となるものがあれば話は別なのではないかと思い、俺は魔石に〈ブースト〉をかけて、魔石から〈ブースト〉発動させた。その結果、問題なく重ねがけが出来た。どうやら、魔石を使って発動する場合、魔石が発動者として認識されるようだ。

 そうして、重ねがけに問題がないと分かった俺は、〈ブースト〉の魔法がかかった魔石を大量に腹に収めた。その数は十個。俺の分と合わせて十一回分の〈ブースト〉の魔法が重ねがけされ、身体能力が累積強化されている。上昇幅は分からないが、三倍で済めば甘い方だろう。

 当然、そんな強化がされて肉体が耐えられるわけが無い。だから、回復の魔法石で、肉体が損傷する度に回復させて、無理矢理に動かす。


「さて、形勢逆転というやつだが。どうする? 殺すのは確定だが、抵抗しないというなら温情をもって、殺してやるが?」


 返答は槍の一撃だった。俺は悪魔の槍を掴んでへし折り、続けざまに脚に蹴りを入れて、槍と同じように足の骨を折る。

 あまりにも脆いのでもう半分で良かったかと思いながら、剣を振ると悪魔は防御もできず、その腕に剣が当たり、斬るというより引き千切れる感じで悪魔の腕が飛ぶ。

 逃げようと悪魔が後ろに下がるのを俺は追い、その頭を掴んで、引き倒し、その頭部を地面に叩きつけ、背中の羽に剣を叩きつけ、切り裂く。


「これでは弱いものいじめだな。ズルに対抗して、俺もズルをしてみたのだが、やりすぎだったようだ。まぁ、俺は弱いものイジメも嫌いではないので、概ね満足ではあるが」


 悪魔は這いつくばり必死の体で逃げようとする。俺に喧嘩を売っておいて、そのザマはないだろう。俺の喧嘩は死ぬ以外に決着の仕方はないのだから。それは許されんよ。


 俺は這って逃げようとする悪魔の腹を蹴りあげ、仰向けにすると、その頭を掴んで持ちあげる。随分と怯えた表情だ。先ほどまでの勢いはどうしたのだろうかね。まぁ、どうでもいいが。


 俺は幕を引くために、悪魔の首に剣を突き刺し、掴んだ悪魔の首を持ちあげ、引き千切った。それで、悪魔の命は失われたのだろう。悪魔は灰となって消え去った。


「なんとまぁ、あっけないものだ」


 弱すぎて話にならんな。イマイチ意識の状態が良くない俺でもなんとかなるのだから。たいした相手ではないということだろう。まぁ、どうでも良いことだが。


 そう言えば、俺は何のために戦っていたのだろうか? この状況になった理由が全く分からない。そもそも何故、俺は教会に入ろうとしたのか。

 うーむ、やはり状態が良くない、これが混乱状態ということか、いつもの俺なら、答えが出せそうなことの答えが出せない。まぁ、後で考えればいいか。っと。

 結論を後に持ちこそうと思った瞬間、俺の身体がグラリと揺れる。どうやら、思った以上に体力を消耗していたようだ。腹の中に魔石があるが、まぁ水に溶けるものらしいので、放っておいてもいいだろう。

 それよりも、体力がなくなったせいか、どうしようもなく、身体が重い。今すぐにでも意識を失いそうだ。まぁ、意識を失ったところで別に構わんか。あとで誰かが何とかしてくれるだろうしな。


 俺は目を閉じ、そのまま意識が闇へと沈むのを受け入れた。






 ――――そして、目が覚めたら、良く分からない場所にいたのだった。



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